最終話 裏切りと好意
バフをかけるための詠唱を行った瞬間、背後からの殺意。
その殺意に気づかないアビスは詠唱を続ける。
「ごめんね、アビス。」
フェリスがそう言いながらアビスにナイフを突き立てた。
「っ...フェリス...?」
それに合わせるようにして、アズラエルがフェリスにナイフを突き立てる。
「アビス...今ここでライラを助けるようなことをするのであれば、このナイフを刺す。」
「ライラを助けなければ...助かるのか...?」
「それは保証できない。少なくてもこの場では殺さないよ。だから選んで。私か、あの子か。」
「...。」
迷うアビス。
「アビス!こんなとこで迷ってどうするんだ!さっさと腹括れェ!」
「っ...!」
「...アズラエル...。ありがとう...。」
そう言うと辺りから風が吹き荒れる。
「オレは...何をしても強くないから...さ...。」
そう言いながらウィンドクロウが発動する。
「...じゃあね。アビス。」
アビスとフェリス同士討ち。
「アビス!」
アズラエルがアビスに治癒魔法をかけようとする。
「ア...ズラエ...ル...ライラの事は...頼んだ...ぜ。」
「...馬鹿野郎!まだこんなとこで死ぬんじゃねぇ!」
「いいから...オレよりライラにバフをかけて...や...ってくれ...。」
アビスが最後の力を出してアズラエルを押し出す。
「っ...アビスゥゥゥゥゥ!」
「あ...とは...頼んだ...ぜ...。」
「ちくしょう...。またオレは救えないのか...。」
そう言いながらライラにバフをかけるアズラエル。
「!?アズラエル!アビスとフェリスはどうしたの!?」
「話は後だ。今はどうにかしてトライヴを退けろ!」
「わかってるって!たぶんその様子だとアビスに何かあったんでしょ?アビスをお願い!私は大丈夫だから!」
「ライラ...。ごめん。」
「そこはごめんじゃなくてありがとうでしょ。早く回復させてこい!」
アズラエルはアビスの元へその場から走り出す。
「アビス!アビス!...よかった。まだ呼吸はある。今から回復させれば間に合うかも...。」
アビスに回復魔法をかけはじめるアズラエル。
「トライヴ!そろそろ終わりにするぞ!」
「ククク...。そろそろ終わらせよう。」
―――殺気が満ちたライラを止められるものはいなかった。
「ハァァァァァァァァァァ!」
「ッ...!なんだと...。」
「親の仇...!今この場にて散れ!」
「この私があああああああ!こんな小娘如きにィィィィィィ!」
その場で散ったトライヴ。
「ふぅ。やっと終わった...。あとはアビスだな...。んまぁアズラエルが診てるし大丈夫かな。」
そう言いながらも心配なライラ。その場から走り出した。
「アビスー!」
「ライラ、静かにしろ。とりあえずアビスは大丈夫だ。そっちはどうだ?...って聞かなくても倒したみたいだな。」
「んまぁね!アビスも無事でよかった。アズラエル...ありがと。」
数時間が経った。
(ん...。なんだろ。頭が柔らかい枕に乗ってる...?)
「お、起きた。」
「ライラ...?」
「そうだよ。」
「...そうか。オレは生き残れたのか...。アズラエルは?」
「...。」
「嘘...だろ?」
「大丈夫だって。ここにいないだけ。宿とって待ってるだけさ。」
「よかった...。」
二人の間にしばらくの沈黙が流れる。
「ねぇ...アビス?」
「ん...?」
「アビスと一緒に旅をして、本当に良かったと思う。」
「お?そうか。オレもライラやアズラエル。そしてフェリスとも旅が出来てよかったと思う。」
ライラが頷く。
「好きだ。ライラ。バロニアに着いて、お前がうまそうにオレの作った飯を食べてた時から...ずっと。」
「...バカ。」
ライラが顔を赤らめながら言った。
「オレと付き合ってくれ。」
「...私も...アビスの事が好き。バロニアでご飯作ってくれた時から...。むしろ私と付き合って欲しい...の。」
「オレなんかでいいのか...?平気で無理して周りに迷惑をかける事ばっかだぞ?」
「アビスがいいの。」
二人は、唇を重ねた。