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7/10

彼の本当の強さ僕の強さ

「あのクソガキはオレ様がコロ」

「せるわけねぇだろ」


「「ッ!!??」」


 突然ジキの後ろから声が聞こえてきました。

 それはとても聞き覚えがある声でした。


(今の声―――…!?)


ガッ!!


「グッ!!アッ…!!…なんっ…」


 ジキの頭を誰かが後ろから片手で掴んでいます。

 ミシミシという音と彼の苦しみ様からおそらくものすごい威力です。


「ススムからハナれろ」


 ジキの身体がもの凄い速さで後ろへ振り飛ばされました。


ドンッッッ!!!!


「グッ…!カッハッ…!!」


 ジキは奥の面に勢いよく打ちつけられ、受け身もろくにとれずに床へと落ちました。

 ジキが当たった面には大きな亀裂が入っています。亀裂からは光が漏れ出ています。


(亀裂…っ!?どんなに攻撃が当たってもこんなことなかったのに…!!)


「……ススム」


(この声…!!)


 声だけでも分かります。僕が彼に会う時、1度目2度目も…最初は声だけでした。

 そして今、彼は僕の目の前に―――…


「……っ!?」


(―――…だ、れ…?)


「あのバカの言うことなんか気にしなくてイイ」


(……この人は…だれ…?)


「オマエはオレをシンじてくれたんだろう?」


(僕の頭を撫でまわす彼の手は―――…こんなに爪が鋭かっただろうか?)


「オレが、それにちゃんとコタエられなかっただけだ」


(僕をまっすぐ見つめる彼の目は―――…こんなに黒く染まっていただろうか?)


「アンシンしろ。次はちゃんとコタエられる」


(僕に何度も笑ってくれる彼の顔には―――…割れた鬼の面がついていただろうか?)


「次は―――…」


(―――…僕が知っている彼は…)


「絶対殺す」


(こんなこと―――…絶対言わない)


「……だれ?」

「……」

「あなたは―――誰ですか…?」

「……ススム」


(どうしてその声だけは変わらないのだろう…?)


彼は僕に背を向けます。


「―――…もう二ゲろ」

「――ッッ!!」


彼はひとっ飛びでジキの元へと飛んでいきました。


‐‐‐


「グッ…!!ハッ…カ…ッ!!ハッ…ハッ…」


 身体全体に激しい痛みが脈打つ。


(クソッ…!!衝撃吸収の魔法を使ったのにこのダメージ…っ!!面を壊すなんて…っ!!化け物かあのクソガキィィイッ!!)


ストン


何かが倒れ込むオレ様の目の前に降り立つ。


(……いや―――…)


「お前の読み通り、お前のドウシとやらをやったのはオレだ。けどまぁ、殺してはない」


(こいつは―――…)


「殺すのはお前だけだよ」


(本物の化け物だ…ッ!!)


「なっんでまだ…っハッ…!そんな動けるぅう…っ?引力の強さはぁ…っハッ…その面への接触時間にも、比例するぅうっ!!あの場を動かなかった分…っ!さっきよりもっ動けないはずだろっお!?」


クソガキはなんとか座り込む体勢になったオレ様を嘲るように見下ろして言った。


「お前のギフトがヘボいんだろ?」

「…ッッ!!!オマ…ッ!!」

「だって見てみろよ、お前の後ろっ!面に亀裂が入ってる。こうなりゃ全体的な機能は大きく損なわれる。そしてそれは――…」


クソガキはオレ様の前髪を掴み、無理やり顔を上げさせた。鋭い爪が容赦なくオレ様の頭に食い込む。


「ぐっ…!!」

「お前もオナじだろう…?」


 黒く染まった目に浮かぶ金色の瞳がじぃ…っとオレ様をに見つめる。

 まるで満月を目に宿したかのよう瞳だが、情緒もへったくれもねぇ。

 ただ不気味さだけを孕んでいる。


 クソガキはオレ様を持ち上げて宙へ浮かせた。


「空間系のギフトを持つ魔法使いは、その空間が壊されると大量に魔力を奪われる…。空間支配という絶対的支配の代償は大きい。……まあ、あんたぐらいになるとそんなシンパイしなかったか?」

「うるっ…せぇっっ!!」


オレ様は電撃の魔法をクソガキの脇腹に向かって放った。

しかしそれは―――…


「ウッグガァァァアアッッ!!!!」


 クソガキの身体ではなく…オレ様の身体を駆け巡った。

 オレ様が放った時よりも威力を強くして―――…


「倍返し」


 オレ様はみじめにもそのままクソガキに投げ捨てられた。

 身体全体が大きく床に打ち付けられる。もう、身体がまともに動かない。


(…なんだ…こいつの…この異常な強さは…?……これがこいつの…「ギフト」なのか…?)


「今、…魔法を自由にトかせない呪法をかけた」


(……は…?)


「そこで黙って見てろよ。お前のギフトが…次々と壊されるさまをさぁ」

「―――ッ!?クそっ…が…きっっ!!」

「この黒い空間がオレの手で完全に壊された時、お前の魔力はゼロになる。魔力がゼロの魔法使いなんて―――…ニンゲンに等しいよなぁ」

「―――ッ!!」


 「人間」―――…その言葉は存在は、オレ様達魔生集団がこの世でもっとも忌み嫌い、卑下するもの。

 なぜオレ様達がそんな人間と共存するために魔法を制限されなければならねぇのか理解できない。

 人間はオレ様達魔法使いに仕えるべき存在なんだ。

 神に選ばれたオレ様達魔法使いに―――…


 そんなオレ様がそんな人間共と等しい?同列?

 そんな事、オレ様にとっては死よりも耐え難いことだ。

 だが、今オレ様はそうなろうとしている。

 目の前にいるこの化け物によって―――…


半端な鬼の面に隠された顔が歪に微笑む。


「お前らが最も忌み嫌い、そして卑下・差別してきたニンゲンとドウルイ…!アハハハハッッ!!滑稽な話だなぁ!!―――…そんでぇ」


 言葉に続きがある事にオレ様は戦慄した。

 クソガキはさっきオレ様を殺すと言っていた。

 もうこの言葉の続きなんて分かり切っていた。

 アイツがやろうとしている事は魔生集団の一員として誇りを持つオレ様の人生に対する、最大の冒涜であった。


「そんなニンゲンのまま殺されるんだぁっ!!お前のジンセイはニンゲンで終止符を打つんだよぉ!!!!」

「~~~ッッ!!!クソガキがぁぁぁあああっっ!!!!」


 もはやあいつの顔は半端な鬼の面なんて被らずとも――…鬼そのものだ…っ!


‐‐‐


 彼はとうとうこの黒い空間を壊し始めました。

 とても嬉しそうに、楽しそうに――…。

 すでに僕の後ろの面にも攻撃を放っています。

 全てを飲み込む闇の柱のような攻撃魔法を―――・・・。

 ジキがボロボロの身体で必死に彼を止めようとしますが、返り討ちにあってさらにボロボロになるだけでした。

 それを何度も繰り返しています。

 こんなのもう、勝負はついています。

 黒い空間に次々と光が差し込みます。外の風景も見えてきます。

 けれど何故でしょう…?心はまったく救われていってくれません。

 これだけでは終わらないような、とてつもない不安が心臓を駆け巡ります。


(……彼が言ってた、「暴走」ってきっとこの事だ…)


『そうなったらすぐに逃げろ。俺の前には絶対に出るな』

『―――…もう逃げろ』


(…彼は僕に暴走を止めろなんて頼んでいない。―――…けど…!!けどっ…それじゃあ君は…っ!)


『今日俺の母親の誕生日だからさ、ケーキ買おうと思ったんだけど…』


(…君はただっ…お母さんの誕生日ケーキを買いに来ただけだったのに…っっ!!)


『…ここのケーキおいしいので、お母さん気に入ってくれると思います…』

『だと嬉しいな』


(僕のせいだ…!君を信じるって言ってこんな…!!それなのに…!それなのに…っ!!)


「君を、―――…人殺しにしたくないっっ!!」


 その時、彼が少し離れた所から僕の方に向かって片手をかざしました。

 次の瞬間―――…

 僕の世界が再び闇に包まれました。


「…っ!!」


 僕は攻撃の勢いに思わず目をつむります。


 しばらくして―――…


(おっおさまった…かな)


 彼の攻撃魔法を彼の防御魔法が守ってくれる―――…。

 2度目とはいえ、僕はやるせない気持ちになりました。


 けれど目を開けると今までの空間とは様子が違うことに気付きました。

 今まで差し込んできた光とは比べものにならないほど明るいオレンジ色の光が、…僕の後ろからこの黒い空間を照らしています。


(―――夕日の、光…)


 今の攻撃で後ろの面が完全に崩れたのです。

 そして夕日の光が広くこの空間に差し込んできたのでした。

 そんな夕日が照らした先にいるのは…空間を壊し続ける彼の姿でした。

 夕日のオレンジ色の光によって輝いています。

 とても嬉しそうに…楽しそうに―――…


(―――…本当に…?)


 僕は夕日に全身を照らされた彼をじっと見ます。

 彼の顔を…


 すると―――…


「―――…泣いてる…?」


 彼はたしかに笑っていました。

 けれどその頬には夕日の光に照らされた涙が伝っています。

 これまで彼と一緒にいて涙なんて見たことありません。

 どういう風に泣くのかなんて知りません。

 けれど―――…


(あれは、嬉しくて泣いてるんじゃない…楽しくて泣いてるんじゃない…っ!!)


「辛いに決まってる…悲しいに決まってる…っ!!」


(彼はこの中にいる誰よりも強い。だけど、誰よりも―――…助けを求めている)


 僕は溢れ出しそうになる涙をグッと堪えます。


(泣いちゃダメだ…っ!!守られてばかりじゃダメだ!!さっき痛感したばかりじゃないか…っ!!)


「―――…ここから出ないと…!!」


 僕は再び防御魔法のシールドに手を伸ばします。先程の強い電磁波にはじかれます。


「ッ!!」


(イッ…痛い…っ!―――…けど…っ!)


 僕は、あの時のジキの言葉を思い出しました。


『お前はただ自分のせいで仲間が死んだっていう事実を少しでも感じたくないだけだ。その事実を背負って生きていく覚悟もない』


(―――…そうだ。そんな覚悟、僕にはない…。でもだからといって…)


「君の代わりに死ぬんじゃいけなかったんだ―――…」


(僕のせいで君が死ぬ。…そんな事実、背負う覚悟がないなら―――…)


「―――君を助けるために…命を張って、立ち向かわなきゃいけないんだ…っ!!」


 僕はシールドに激突しました。

 ぶつかった右半身から全身に激しい電撃が走ります。


「…ッ!!」


(イッ…!…イタくないイタくないっ!!…イタク…ナイっっ!!)


 僕は全身を駆け巡る激しい痛みを無視して身体をさらにシールドに押し付けました。

 バチバチッと鋭い音が耳を刺激します。


 すると―――…


(ちょっとずつ…っ…身体がっ…!すり抜けて…っっ!!)


 青い半透明なシールドを、ボロボロの身体がジリジリとと少しずつすり抜けていきます。


(このまま…っっ!!…せめて…っ!顔だけ、でも…っっ!!)


 僕は顔面を思いっきりシールドに打ちつけました。

 ぺリペりと皮膚のはがれる音が耳元でします。


(グッ…ウッ…ッ!!)


 痛くて痛くて気が変になりそうでした。

 もはや恐怖のような痛みです。

 こんな痛み今まで味わったことがありません。

 けれど、痛みに立ち向かうこの気持ちはどこかとても懐かしい気がしました。


 あの日…弱くあれと言われたあの日までは、こんな僕でも強くなろうと思っていました。

 僕はどんくさくて魔法のセンスもないため、いつも魔法の成績はクラスで最下位でした。

 皆にも馬鹿にされました。

 僕は魔法が大好きでした。だからうまく使えない自分がとても悔しくて不甲斐ないと思っていました。


 だから必死で魔法を練習しました。

 魔力をほぼ毎日使い果たす勢いで練習しました。

 それくらいしないとみんなに追いつけないのです。

 何度も魔力を使い果たしていく身体は悲鳴をあげていきました。

 魔法を使う度に全身に痛みが走りました。

 けれど、今練習している魔法はいつかきっと使えるんだ。

 いつか僕の友達になってくれるんだ。

 そう思うとそんな痛みにも……立ち向かう事ができたのです。


 けれど、あの日以来僕は立ち向かうことをやめました。

 弱くあれと言われ、弱さに甘える僕にはもうそんな事できないと思ってたのです。

 立ち向かわない、ただ受け入れるだけの痛みをそんな自分への罰だと思っていました。

 けれど、僕は今…たしかに思い出したのです。

 あのがむしゃらに魔法を練習していた頃の感覚を―――…


(何かに…立ち向かうのは…っ!!受け入れる以上にっ…痛いことなんだ…っ!!)


 子どもの頃に実感した事を、今また僕はこうして実感しています。

 僕はあの頃に戻れたような気がしました。


 少しずつ顔がシールドの外へ出ます。

 けれどそうこうしている内に、黒い空間はもう全壊に近い状態でした。

 かろうじて床面が残っている程度です。

 そこにあと一発攻撃を放てばこの空間は完全に壊れます。

 そして彼は手を上へ振りかざし、今まさにその面に向かって無数の黒槍を放とうとしています。


(間に合って…っ!…っ間に合え…っっ!!)


僕は必死で顔を前へ前へ押し出します。


そしてついに―――…


(…っ!!やっと…顔が全部…っ!!)


 しかしそのタイミングは、彼が無数の黒槍を放ったタイミングとほぼ同じでした。

 それでも僕は無我夢中で叫びました。

 叫ばなければいけないのです。どうか届けと一心不乱に。

 冷静で明るくて頼もしくて優しい…母親思いな彼の名前を―――…


「トウヤ君っっッッ!!!!」


 次の瞬間、黒い床は―――…


 無残にも砕け散りました。


‐‐‐


 ―――…攻撃を放った時、あいつの声が聞こえた気がした。小さなあいつの声が…俺の名前を呼ぶ声が―――…。


‐‐‐


「ハア…ッ!ハァ…ッ!ハァ…」


(全身が痛い…息がうまくできない―――…けどっ!)


 僕は倒れこんでいる身体をなんとか動かし、後ろを確認しました。

 そこにはトウヤ君の防御魔法が青白く光っています。

 トウヤ君が僕のために張ってくれた魔法です。

 けれど今、その中に―――…

 僕はいません。


(でっ…出られた…っ!!外に…!)


 先程まであんなに僕を拒んでいたシールドが、トウヤ君の名前を呼んだ瞬間驚くほどすんなり僕を通してくれたのです。


(…声が、届いた…?)


 僕が倒れている床はもう黒くはありません。

 ただの屋上の床に戻っています


(ジキの魔法が解けた……いや…完全に壊されたんだ。…トウヤ君に――)


 本来ならこれはきっと喜ばしいことです。

 敵のボスを倒した事にほぼ等しいのですから。

 その証拠にジキはもう虫の息でした。

 そしてそれを見下ろしているのは―――…


(トウヤ君…まだあのままだ…。……やっぱり、これで終わりじゃないんだ…)


 僕は痛みに痺れる身体を懸命に動かします。

 身体が、もう動くなと悲鳴をあげます。

 それでも―――…


(動かなきゃ…っ!止めなきゃ…っ!)


 身体にうまく力が入りません。

 生まれたての小鹿でももう少し器用に立てるのではないかと思いました。

 立ち上がるのがこんなに難しいのかと驚くほどです。


(……でも、治癒魔法は使えない。こんなことに魔力はもう使えない…!)


 なんとかして上半身を起き上がらせたところで僕は気付きました。

 屋上を囲うように、

 あの青い半透明なシールドが張られていることに―――…


(これは……っトウヤ君の防御魔法…!?)


 青いシールドの向こうには魔法協会の人達が何十人もいます。

 けれど、このシールドに邪魔されてただその場に浮いている状態です。


(トウヤ君…っ!魔法協会にも手出しさせない気だ…っ!!)


 トウヤ君はもうただの人間と化したジキの身体を持ち上げて、シールドの天井に向かって―――…殴り飛ばしました。


「―――ッ!?」


バチバチバチッッ!!


 シールドの激しい電磁波がジキを襲います。

 ジキの口から大量の血が溢れ出しました。

 そしてそれは…

 真下にいるトウヤ君の身体にビチャビチャとかかりました。

 彼の白と赤の髪が赤一色に染まります。


「―――フッ…ハハッ…」


 トウヤ君の笑い声。

 それは僕にとってとても嬉しいものでした。


 けれどこのトウヤ君の笑い声は―――…


「アハハハハハハハッッッ!!!」


 ただただ僕に虚しさを与えるばかりでした。


(……める)


 僕は拳に力を込めました。


(…とめる)


 震える足を立たせます。

 一歩一歩確実に前へ進めるように―――…

 僕が見つめる先はただ1人です。


「絶対に君を止めるよ。トウヤ君――…!!」


(君に頼まれてなくても…!逃げろって言われても関係ないっ!!僕が君を助けたいんだ…!!僕が君を助けてやらなくちゃいけないんだ…っ!!そのために―――…)


「命を懸けて君を止める…っ!!」


 さっきまで起き上がるのもやっとな身体に大ムチを打って走ります。

 走るといってもヨボヨボとした走りです。何度も足がもつれて転んでしまいます。

 その度にもう起き上がれないのではと思う程の痛みと疲労感が襲います。

 それでも僕は起き上がり走ります。


「トウヤ君…っ!トウ、ヤッ君…っ!!」


 声も切れ切れです。トウヤ君の元へは届きません。

 トウヤ君は足元でぐったりしているジキを今度は前へ蹴り飛ばしました。


「―――ッ!!」


 またさっきと同じように電磁波がジキを襲います。彼はもはやただのサンドバックです。


(けど、あの人はまだ生きている…!トウヤ君はまだトドメを刺さないでいるっ!!…トウヤ君も抗っているんだ…!!)


 僕は後ろを振り返ります。

 遠くの方にはあの青い半透明なボックス―――…

 トウヤ君が僕を守るために張ってくれた防御魔法です。


(…あれがまだあるってことは…トウヤ君には、まだ誰かを守りたいっていう意思があるんだ…!)


 トウヤ君は離れてしまったジキに一歩一歩近づいていきます。

 片手には次々と黒いエネルギー体の小球ができていっています。

 1つ1つの大きさはゴルフボールぐらいですが―――…


(あれ…光線の攻撃魔法の前段階だっ!!あんなにたくさん…っ!?)


 僕はジキとの戦いでトウヤ君が彼にやられた時を思い出しました。


(あの時、ジキがトウヤ君にした攻撃とまったく同じだ…!!)


 トウヤ君はジキにやられた時と同じ手でトドメを刺そうとしています。

 今、トウヤ君とジキとの距離は15メートルくらい。

 僕とトウヤ君との距離とほぼ同じです。


「トウヤ君っ!!ヤメ、て…っっ!!」


(間に合え…っ!!間に合えっ!!)


 僕は足がうまく動かなくても必死に走ります。


(あと…っ!もう少しっ…!!)


「トウヤ君っっ!!」


(僕を見て――っっ!!)


 トウヤ君に手を伸ばそうとした

 その時―――…


ブワッ


「―――ッ!?」


 トウヤ君は僕の手を拒むかのように高く飛び上がりました。

 攻撃態勢に入り、黒い球は今か今かと煌々と輝きだします。

 トウヤ君の目はただ1点、ジキを見つめています。

 僕の方なんて見ようとしません。

 そのまま勢いよく光線をジキに向かって放ち―――…


(また…間に合わ…な――――……)


「くないっっ!!!」


‐‐‐


 ―――僕は弱いです。弱くあれと言われました。

 それが将来人のためになるからと…。だから弱いままでいました。

 弱い事が強さにつながると言われ、強くなることを放棄しました。

 けれど、僕は気付いたのです。

 人のためになりたいなら、人のために動きたいなら―――…


(弱いままでも強くならなくちゃいけないんだ…っ!!心を強くしなくちゃいけないんだ…!!)


 「決意」とはなんて難しい事でしょう?

 僕はもっともらしい決意を色々しておいて、結局自分を甘やかしていました。

 弱い心での決意など自分を変えることはできません。


『僕が弱いことで誰かが不幸になるのは……嫌だ…っ!』


(だったらもっと死に物狂いで動けよ…っ!!)


『『信じる心』を……僕は、もう一度持ちたい!』


(それで信じきって、頼りきってちゃダメだろっ!!)


 決意をはき違えてはき違えて…本当に僕はどうしようもありません。

 そしてそんな僕は性懲りもなく、また1つの決意をしました。

 絶対にトウヤ君を止めると…

 命を懸けて止めると―――…

 この決意は…絶対にはき違えてはいけません。


『守るって言われた相手に…殺されるのは嫌だろ? 』


(……トウヤ君は殺さないよ)


『そうなったらすぐに逃げろ』


(…逃げないよ)


『俺の前には絶対に出るな』


(ごめん―――…)



「出るよ」


 僕はトウヤ君とジキの間に入り込みました。

 放たれた無数の光線がもの凄い勢いで迫ってきます。

 あの河原での恐怖が蘇りました。

 けれど、それが僕にいささかの自信を持たせてくれたのです。

 あの時と同じようにすれば大丈夫だと―――…。

 僕は光線の向こう側にいるトウヤ君を見上げます。

 彼の目を…あの変わり果てた黒い目を捉えます。


 そして―――…


「ギフト発動ッッッ!!!!」


 僕は全身全霊の魔力を込めてギフトを発動しました。


 どうか彼に届くようにと…

 僕のこの気持ちごと届くようにと―――…


「―――ッッ!!」


 一瞬、トウヤ君の表情が変わったように見えました。

 光線は目の前です。


(トドけぇぇえ―――ッッ!!!!)


 僕はさらに魔力を込めました。

 僕の命すら魔力になってしまえと思いました。

 光線はもう目と鼻の先です。


 そしてついに―――…


パヒュン


 黒い光線は――――…


全て消えました。


間抜けな音とともに……

僕の眼球スレスレの所で…。


「ハァ…ッ!!はぁっ…!……アッ!!」


 気を抜く暇もなく、浮いていたトウヤ君が地面に落ちようとしていました。


(あぶっ…!!)


ドンッ!!


「グェッ…!!」


 僕は自分が倒れる形で落ちてきたトウヤ君の下敷きになりました。

 かなりの衝撃で、魔力ゼロの身体には中々のダメージでしたが、

 それでも―――…


「…とっ…とめ…られたぁっ…!」


 あの時の魔力量と身体の状態でギフトを発動してトウヤ君に届かせるなんてもはや無謀ともいえる決断でした。

 失敗して僕が死んでしまう可能性の方が明らかに高かったです。

 それでもそんなの考える暇なんてなく僕の身体は動き出しました。

 今思えば、それが良かったのかもしれません。

 また少しでも自分の保身を考えてしまえば、ギフトなんて発動できなかったかもしれません。

 無謀ともいえる行動が奇跡を起こしてくれたのです。


 トウヤ君はというと僕の上で静かな寝息を立てています。


(……届いた……届いたんだね。…僕のギフトが…君に―――…)


 僕のギフトは―――…「シンクロ」。

 他者の魔力を自分の魔力とシンクロ…まったく同じにする魔法です。

 どんなに強くても、目を見つめ僕のギフトを届ければ…その人は僕と同じ強さになります。

 僕が使えない魔法は使えません。

 使える魔法も僕の魔力以上を使ったらその分威力は抑えられます。

 このギフトの特性故に、僕は魔法協会の人に弱くあれと言われました。

 僕が弱くあればある程、敵を弱体化できるのです。

 どんなに強大で凶暴な敵も僕のギフトが届けば最弱も同然です。

 最強を最弱にする魔法。

 これはある意味最強の魔法なのかもしれません。



(…でも、僕はこのギフトが嫌いだった)


 クラスメートからは「ずるだ」と言われ続けてきました。「反則だ」と―――…。

 いつか誰かの役に立ちたいがために魔法を覚え強くなろうとする彼らからすれば当然の話です。

 弱いのに…弱いからこそ、役に立つなんて…。


 僕も彼らと同意見でした。

 僕が子どもの頃、魔法をたくさん覚えようとしたのはこれが根本にあるのかもしれません。

 ギフトなんて使わず人の役に立ちたい―――…

 だから、僕は魔法を必死で練習していたのかもしれません


 また、僕のギフトが届いた人を見るのも嫌でした。

 急に魔力が不足すると魔法使いは身体に不調を感じます。

 倦怠感・眠気・頭痛等。

 症状は様々です

 僕のギフトが届いて苦しむ人達を見る度に僕は自分の弱さを実感するのです。

 僕とこの人達はこんなにも魔力差があるのか、と…。


(僕は自分のギフトが嫌いだった…。けど―――…)


 上に乗っかるトウヤ君の重さと温もりを感じながら僕は思いました。


(こんなギフトでも…君を止められたという事実だけで…少し、好きになれたよ…。君が静かに眠っているのは、嬉しいよ…)


 トウヤ君の防御魔法も解かれ、魔法協会の人達が次々と降り立ってきました。

 おそらくこの場にいた僕らは…トウヤ君は色々聞かれることでしょう。

 けれど今は―――…


(―――…眠りたい…)


 僕はトウヤ君同様、深い眠りにつきました。

 こうしてデパートテロ事件は幕を閉じたのです。

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