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彼の強さ僕の弱さ

 ―――…俺の目の前、しかも遠くにはあのクソチビガキしかいなかった。

 監視の魔法による映像で見た時も思ったが、コイツからは闘志のようなものをまるで感じねぇ。

 それに実際目にしてみれば、なよなよとした貧弱さがこれでもかと伝わってくる。

 現にこのオレ様にビビりにビビってやがった。

 こんな奴にオレ様の同志達がヤラれたとは信じがたかった。


 だがまぁ、仮にそうでなかったとして別に問題はねぇ。

 そもそもコイツは隠れてやがった反逆者だ。

 魔法使いだろうと反逆したなら殺さなければならない。

 真犯人が近くでコイツに何か指示を出しているのかもしれねぇ。

 このクソチビガキを殺してからそいつを存分にいたぶってやる。


 そう思っていた時だった。

 突然…目の前で何かとんでもなく恐ろしいものが、とてつもない勢いでオレ様に襲い掛かってくる感覚がした。

 とっさに右腕を掲げたのはもう本能に近かった。

 これを防がねぇと死ぬと脳が俺に大量のSOSを出した。

 そして強烈な衝撃とともにオレ様の目の前に現れたのは変な髪色をしたクソガキだった。

 コイツはこのオレ様相手に不敵な笑みを浮かべている。

 コイツは誰だと考える暇もなく、クソガキのかかとがメキメキッとオレ様の腕に食い込んできた。


(このままだと…っ!!)


「グッ…!!……ダアァァッッ!!」


 オレ様は右腕を大きく振り上げ、クソガキを上へと振り払った。

 クソガキは後ろへ1回転し、きれいに着地しやがった。


「ハアハア…」


 まったく使い物にならない右腕はウゼーほど痛みを訴えてくる。


(チッ!!なんだぁッッ!?コイツのこの蹴りの威力はぁぁあっっ!?)


「―――ッッ!?」


 右腕に目を向けた瞬間、前からものすごい規模の魔力を感じた。

 見ると光線というよりもぶっとい光の柱みたいなものがオレ様に猛スピードで向かってきていた。


「…ッ!調子乗んなぁぁあっっ!!」


 オレ様はすぐさま防御魔法を張り、この光線を防いだ。

 だがその威力は強大で、少しでも油断すれば防御シールドが崩れてちまう程だった。


 だが、中々この光線の終わりが見えない。


(クソッ!!いつまで続けんだぁぁあっっ!?クソウゼぇぇえっ!!……こうなったら――…)


 オレ様は防戦一方のこの現状を打破しようと大きく飛び上がった。

 光線の範囲外に出て、今度はこちらから攻撃を仕掛けようと思った。

 ―――…しかし


「ウグホッッ!!」


飛び上がった途端、クソガキの強烈な蹴りが左わき腹にめり込んだ。


(コイツッ…!!分かって…っっ!!!)


 オレ様はそのまま思いっきり壁に叩きつけられた。

 轟音がオレ様の作った黒い空間に響く。

 ―――そう…オレ様の作った、この黒い空間に…。


「……?」


クソガキはなんか不思議そうなツラで自分の足元を見つめている。


(…気づき始めたかぁぁあ?…だが、気づいたからってなんもすることはできねぇぇ)

(オマエはじき捕らえられるんだ。オレ様に……オレ様の「ギフト」になぁぁあ―――…!!)


‐‐‐


「す…すごい…!!」

 僕はトウヤ君とジキの戦闘をただ呆然と見つめていました。

 …いや、戦闘というにはあまりにも一方的です。

 それくらいトウヤ君は相手を圧倒していました。


(すごいすごいすごいっっ!!トウヤ君本当に強いっっ!!あんなに強そうって…怖そうって思ってた相手がすっごく弱く見えるっっ!)


 トウヤ君の強さは僕の想像以上でした。

 あんなに素早く動いて、あんなに強烈な体術を駆使して、あんなに大きな攻撃魔法ができるなんて――…

 トウヤ君の行動全てが僕の常識を遙かにしのいでいきました。


(それに…)


 僕は自分の周りを見回しました。

 僕は今、青色で半透明の大きなボックスの中にいます。

 トウヤ君の防御魔法です。

 トウヤ君はジキに攻撃を仕掛ける前に一瞬で僕に防御魔法を張ってくれたのです。

 今トウヤ君は人質の人達と僕用の防御魔法を同時に張っています。

 魔法の並行使用はかなり身体の負担になるはずなのですが、今のトウヤ君からはまったくそんな様子はしません。


(トウヤ君、今までもずっと並行使用してたんだよね…。なのにこの強さ…!!)


「こんなの暴走なんてするはずないよ…!トウヤ君まだ全然余裕そうだし…」


(―――……でも)


僕には少し気になることがありました。それは―――…


(…さっきの、…ジキって人に向かって飛び上がろうとした時―――…ほんの一瞬、足がもたついたように見えた。何かに引っ張られたみたいな…。トウヤ君も、今のキックには納得いってないみたいだし…)


「……気のせいだよね」


‐‐‐


(……にしてもぉ、このクソガキ何モンなんだよぉ…。ただのガキの戦闘力じゃねぇぇえだろうがぁぁあ…!)


 勝負は未だオレ様の防戦一方だった。

 このクソガキは攻撃魔法の手を緩めることなく次々と仕掛けてくる。

 しかも1つ1つがバカでけえ…。ちょっと油断したら即アウトだ。

 オレ様はただ逃げ続けるだけだ…。

 だが、魔法に注意するあまり、奴の体術を何発もまともにくらっちまう。


 いや違う。

 くらっちまうようにあのクソガキが操ってんだ。

 現に魔法を避ける事はできるが、その先には必ずアイツの蹴りか拳が待っている。

 魔法はあくまで陽動。

 アイツのオレ様への直接的な攻撃手段は体術だ。

 クソガキはなんとこのオレ様相手に手加減していやがるのだ。

 自分の攻撃魔法じゃあオレ様を殺しちまうと思ってやがる。

 オレ様は攻撃をくらいながらも、沸々と感情は煮えたぎっていた。

 それをなんとか落ち着かせる。


(情けねぇし腹立つことしょうがねぇえが仕方ねぇぇえ…!…確実に殺すためには逃げ続け耐え続けるしかねぇんだぁっっ!!同志の敵討ち…っ!!なりふりかまってられるかぁあ―――っ!!)


 オレ様は逃げながらクソガキの足元を見やる。


(…だがこのクソガキ、薄々気付いてやがる。この魔法空間の作用を…!!チッ…!!いちいち足元に防御魔法張りやがってぇっ!!ムダに細けぇ芸当できてんじゃねぇぇよぉぉおっ!!…だがぁぁ)


 オレ様の視界に、さっきから突っ立ってばっかのクソチビガキの姿が入る。


(あいつだけじゃなく、こいつは人質用に広範囲の防御魔法も並行して使っている…。たっく…馬鹿な野郎だぜ。そんな魔法とっとと解いちまえばいいものを…)


 だが、これはオレ様にとっては喜ばしい状況だった。


(…まぁそのおかげで、足元の防御魔法が弱くなってオレ様のギフトの威力に負けているぅぅう…!少しずつだが着実に効いてきているのはたしかだぁぁあ。……その証拠にアイツの動きは鈍くなってきているぅぅうっ!……そろそろ、仕掛けてもいいかぁぁあ?)


 オレ様は大きく一歩を踏み出し、クソガキに向かって勢いよく直進した。

 もちろんクソガキはオレ様に向かって攻撃魔法を仕掛けようとする。

 だが…その仕掛けようとする手が―――…っ!!


「!!」


 その手が明らかに…止まった。

 それはたしかな「隙」だ。

 わずかだが、しかしオレ様相手には―――……


「致命的だぜぇぇぇええ―――っっ!!!」


オレ様はクソガキに向かってお返しとばかりに無数の光線を至近距離で浴びせた――!!


‐‐‐


「トウヤ君ッッ!!!」


 無数の鋭い光線が一斉にトウヤ君を襲いました。

 あんなの避けようがありません。


(どっどうしよう…?あんなたくさんの攻撃を受けたら…いくらトウヤ君でも…っ!!)


 少しして煙の中から現れたトウヤ君は……血だらけで床に倒れこんでいました。


「…っ!?トウヤ君ッッ!!」


 さっきまでトウヤ君の強さに興奮していた心臓は、不安と恐怖で痛いくらい脈打ってました。

 いや…徐々にそう変化していったと言った方が正しいかもしれません。


(さっきからあのジキって人、逃げてばっかだったけど…それを追いかけるトウヤ君の動きがだんだん鈍くなっていってた…。なんか…身体全体が重たそうな…トウヤ君の空間だけ重力がかかってるような―――この黒い空間…)


 この黒い空間はきっと、ジキが作り出した魔法空間です。

 僕はこの魔法を、外部からの介入や監視をシャットダウンする防御魔法のようなものだと思っていました。

 しかし、どうやらこの魔法空間には他にもっと大きな作用が―――…


「ハッ!!ようやっとここまで効いてきたかぁぁあ。手間取らせやがってクソガキがぁぁあっ!!」


 ジキは倒れているトウヤ君の頭を思いっきり蹴りました。トウヤ君はまったく反応しません。


「…ッ!!ヤッ…ヤメてっっッ!!!!」


 僕はジキに向かって力の限り叫びました。


「…アァァア~~?」


 ジキがグルリと僕の方を見ます。

 僕はその恐ろしさに戦慄しましたが…それでも叫び続けます。


「ヤメてくださいっっ!!これ以上トウヤ君を傷つけないで…っ!!!あっ…あなたの仲間を傷つけたのは僕ですっっ!!……だからもう、トウヤ君を傷つけるのはヤメてくださいッッ!!」

「ハッ!!ウソつけぇぇえ。どう見たってこのクソガキがオレ様の同志をヤッただろぉぉお~。

テメェはただそれに巻き込まれただけの弱者だぁぁあ~!悪かったなぁぁあ。勘違いして♪」


 僕は「弱者」という言葉に怯みました。

 正確には、トウヤ君を巻き込んだ(・・・・・)弱者です。最悪の弱者です。

 僕は本当はこの場から動きたくて仕方がありませんでした。

 トウヤ君の元へ行って身代わりになりたいと思いました。…けれど、…でも―――…!!


(トウヤ君…っ!!どうして……この防御魔法は…っ!!…僕を守るこの防御魔法は―――…なんでまだっ…張られているの…っっ!?)


『あらゆるものの出入りを拒むものだ』

『お前の事は俺が守る。誰にも手出しさせない』


僕はトウヤ君の優しさに…自分の弱さに涙が止まりませんでした。

外に出ようと伸ばす手は強い電磁波とともにはじき返されてしまいます。


「~~~ッ!!もういいよっっ!!トウヤ君っ!!僕なんか守らなくてもいいから…っ!!僕が代わりに―――…」

「殺されちゃうってかぁぁぁああ~~~」

「っ!!」


 ジキが一瞬で僕の目の前にやってきました。

 青白く見えるジキの姿に僕はただやるせなくなるばかりです。


「いいねぇぇえ~いいねぇぇぇえ~~。オレ様情に厚い男だからさぁぁあ!そういう話すげぇぇえ感動するぜぇぇえ~~っ!!」


 そんなジキの目は涙で潤んでなんかいません。


「感動させてくれた礼にぃぃい、あのクソガキの敗因を教えてやるよぉぉお~~。お前も見てたなら気付いてたろぉぉお~。アイツの動きが徐々に鈍くなっていったことをぉぉお~!」

「!」

「あれはなぁぁあ~、この真っ黒い空間…オレ様の『ギフト』のタマモノなんだぜぇぇえ~~っ!!」


(…!やっやっぱりそうなんだ…!…しかも「ギフト」!!)


 ギフトは、魔法使いの生まれ持っての魔法―――…

 後から覚える魔法よりも威力を持ち、使い手もその効力を熟知しています。


「オレ様のギフトはぁぁああ―――…『マグネットキューブ』!!

 この黒い壁は全てマグネットォォオ~磁石なんだぜぇぇえ~!!そんでぇぇえ~ここからがコイツの面白い所だぁぁあ~~!!この魔法空間にいる人間はオレ様いがぁぁ~い、面に触れる度にぃぃい、その面に引き付けられるぅ―――…『磁石』になっていくんだぇぇぇええ~~っ!!」

「…ッ!!…じ、しゃく…?」

「そうだぁぁあ~!!クソガキはオレ様を追いかけて攻撃する中で床面にたっくさん触れたぁぁあ~!!だから床面に対する磁石になっていきぃぃい~下から徐々に強くなっていく引力によってぇぇえ~動きを制限されていったってわけだぁぁあ~~っ!!」


(…!あの動きの微妙なぎこちなさは引力のせい…!)


「ほんとうはぁぁあ~、いろんな面にぶつけてぇぇえ~それぞれの面からの引力でさぁぁあ~身体を引き裂きたかったんだがなぁぁあ~!!まあ同志の敵討ちだぁぁあ~。コロせりゃオーケーだぁぁあ」

「…殺っ!?ヤッヤメてくださいっっ!!ヤメて…っ!!」

「ハッ!!何が『ヤメて…っ!!』…だぁぁあ。―――……テメエが言えたことじゃねぇだろ?」

「……っ!?」


 ジキの顔が先程までの愉快で仕方がないという顔から一変して冷徹な顔に変わりました。

 今から処刑人に断罪を行うかのような冷徹で厳格な顔です。


「あいつの最大の敗因はオレ様のギフトじゃねぇ。―――…お前だよ。お前が―――あいつの最大の敗因だ…!」

「!!!」

「あのガキは腹立つことに、オレ様のマグネットキューブの作用に早々に気付いていた。面に触れる直前にいちいち足元に防御魔法を張っていた」


(!……そう、だったんだ…じゃあ…それでも、動きを封じられたのは―――…)


「だが、あいつはお前と人質どもに張っていた防御魔法のせいで自分自身の防御魔法がわずかだが弱くなっていた。結果オレ様のマグネットキューブの威力の方が強くなり、少しずつだがあのガキの動きを封じられたんだ」


「……ッ」


(やっぱり…そうなんだ…!)


「防御魔法を張られている点では人質どもも同じだが…あいつらはガキの無茶なんて知ったこっちゃねぇ。……だが、お前は――…一番傍であいつを見ていた。何個も魔法を並行して使っていたあいつの無茶を…お前は知っていた!」


 そう―――…僕は知っていました。

 魔法を並行して使うことの負担の大きさと難しさを…。

 それなのに…僕はどうして言わなかったのでしょう…?

 自分は大丈夫だから、防御魔法を外してくれと。

 自分の身は自分で守るからと、どうして言えなかったのでしょう…?

 こんな風にトウヤ君が傷ついてしまうなら、

 迷惑になってしまうなら、

 僕なんて自分の身を自分で守れず死んでしまえば良かったのです。

 どうして僕はだれかに負担をかけてまで生き延びようとしていたのでしょう?

 


「『もういいよ、トウヤ君。僕なんか守らなくてもいいから』

 ―――…お前はこの言葉を、もっと早く言うべきだった」


(その…通りだ)


 僕はただ見ているだけでした。

 それはトウヤ君を信頼していたのではなく―――…頼りきっていたのです。

 ただ妄信的に彼の強さだけを見て興奮して―――…


(僕は、トウヤ君を…助けようとしなかった。一緒に敵に立ち向かおうとしなかった。……トウヤ君に甘えてばかりだ。……こんな僕)


「……してください」

「…は?」

「やっぱり僕を……殺してください」

「……」

「…トウヤ君を殺さないでください。……彼、今日お母さんの誕生日なんです。だから…」

「つってもぉ、あのクソガキの防御魔法のせいで、手出せないんだがぁあ~?」

「……じゃあ僕がここで死にます」

「……っ!!」

「殺してくださいって言っておいて…すみません」

「…気に食わねぇ」

 

 ジキは侮蔑の目を遠慮なく僕に向けてきました。


「お前はただ自分のせいで仲間が死んだっていう事実を少しでも感じたくないだけだ。その事実を背負って生きていく覚悟もない。…お前の願いなんて聞くわけねぇだろう…?お前がどう頼もうが、あのクソガキはオレ様がコロ」


「せるわけねぇだろ」

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