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隠密行動?

「ほらっ!深呼吸したらさっさと透明化する!!」


 青年が僕の目の前で手を叩きます。

 僕はハッとしてなんとか透明化の魔法を発動しました。


「よし。んじゃあ俺に触れ。一応姿はちゃんと見えていた方が安心する」

「はっはい…!!」


 僕はもう彼の命令に従うロボットかのように動きます。


「よし。これでお互いの姿はお互いにしか見えない。さっさとここから離れるぞ」

「はっはい!」


 僕は青年の後を犬のようについていきました。

 そして彼が言っていた通り、透明化して歩いている僕らの周りを次々と黒マントを来た人々が通り過ぎていきました。

 あの大柄な男性の元へみんな集まっていきます。

 みんなが彼を心配し、そして彼を倒したであろうクソチビガキに怒っています。

 …僕に怒っています。

 彼らに見つかったら、僕はきっとボコボコにリンチされた上で殺されるでしょう。

 僕は青年の後をついていきながらも恐怖で身体が震えていました。


 そうしてしばらく歩いていると突然、前を歩いていた青年が立ち止まりました。

 僕は思わずぶつかりそうになりました。男性は僕をじっと見つめています。


(…ど…どうしたんだろう?)


 声の出せない僕はただただ不思議そうに青年を伺います。


「…悪いな」


 青年がぼそりと小さく呟きました。


(えっ―――)


「もっと早く人質の所から動いてたら、あいつらに見つかる前にお前を助け出せた」

 

 彼は本当に申し訳なさそうでした。

 僕はとっさに首を横に振りました。

 彼は僕の命の恩人です。

 彼があの時来なければ、僕はあの魔生集団の人に殺されていました。今、死の恐怖すら感じていません。

 彼にあれ以上のやり方を望むなんてバチが当たります。

 むしろ謝るのは僕の方です。

 僕がどんくさいためにこうして今彼を巻き込んでしまっているのです。

 彼に対する感謝と謝罪の気持ちを、僕は必死に首を振る事で青年に伝えようとしました。

 彼はそんな僕の様子に目を丸くしています。

 そして、吹き出すように笑いました。


「フハッ!そんな首振ったら倒れちまうぞ?今、周りには誰もいないんだから喋りたいなら喋れ」


 喋る許可を青年からもらい、僕はこの思いを伝えます。


「わっ悪いとか思わないでくださいっ!!命を助けてくれて本当に感謝しているんですっっ!!ででも巻き込んですみませんっっ!!あっでっでも本当にありがとうございましたっっ!!!」


 本当は大きな声で伝えたかったです。

 しかし敵に気付かれるため、僕は小声なりに精いっぱい思いを伝え深々とお辞儀をしました。

 僕はまだ彼にお礼すらしていなかったのです。

 すると、男性は僕に優しく微笑みました。

 そして僕に尋ねます。


「…お前、名前は?まだ聞いてなかった」

「くっ…九頭竜ススムです!」

「くずりゅうすすむ…。すげーかっこいい名前だな。…俺は葦原トウヤ」

「葦原さん…」

「トウヤでいい。…ススムちょっとこっち来い」


 トウヤさんは僕を人目につかない柱の裏へ連れて行きました。

 そして、僕の肩に手を置きます。

 初めて会った時のあの勢い余ったものではありません。

 彼の手の熱が肩に伝わります。


「お前をここから逃がそうにも、デパートの周りにはあいつらの防御魔法が張ってある。だから外の声が一切聞こえない。攻撃魔法で壊せるが、そうすると建物ごと壊すことになる」

「そっそれはダメですよ…!それに攻撃魔法の使用は―――っ!」

「分かってるよ。だからこの案は悪いが却下だ。…それと、お前を人質の所に連れてって防御魔法の中へっていうのもできればしたくない。いったん防御魔法を解く事になってその隙にあいつらに人質が渡る可能性がある。大人数の一般人の前で戦闘はするべきじゃない」

「はっはい…!」


 トウヤさんは僕が恐怖に震えながら歩いている中、なんとか僕の安全を確保する術を考えてくれていたのです。

 加えて、この状況把握能力と分析力には驚きと尊敬しかありません。


「だからといってお前を1人放置しておくわけにもいかない。さっきみたいにあいつらに接触するかもしれないからな。…お前もう魔力そんなに残ってないだろ?いつ終わるか分からないテロの間、透明化し続ける事できるか?」

「…でっ…できないかも…です」


 トウヤさんのご指摘通りでした。

 透明化をしている事で魔力も少しずつ減っていっていました。

 正直、30分透明化が持つかどうかです。

 それまでにテロが終わるとは思えません。

 またトイレに隠れようにもあの大柄な男性が倒れている場所から、今度はトイレも入念に探してくるでしょう。絶対に見つからない保証はありません。

 そんな不確定要素の多い状況を1人で乗り越えるっていうのは今の僕には難しいです。


「だからこのテロを終えさせるまでは、俺についててもらいたいんだが…いいか?」


 不安でいっぱいの僕には、この提案はとても嬉しいものでした。

 トウヤさんには何故か、ついていれば大丈夫という謎の安心感があります。

 あの医療魔法を20分もかけ続けたという事実も大きいかもしれません。

 彼は何か他の魔法使いとは違う感じがしました。


「はっ…はい!!」


 僕はこちらからお願いしますという勢いで彼の提案を受け入れました。


「よし、いい返事だ!」


 トウヤさんは僕の頭をワシャワシャと撫でまわしました。

 誰かに頭を撫でられると両親の事をつい思い出してしまいます。

 母とも父とも違う撫で方でしたが、なんだか胸にクるものがありました。

 

「安心しろ、ススム」


トウヤさんの声色に真剣味が増します。


「お前の事は俺が守る。誰にも手出しさせない」


 僕をまっすぐ見つめるその瞳からは確固たる意思が伝わってきました。

 僕はその、僕を守ろうとする瞳に感動すら覚えました。


「あっありがとうございます…!」


 僕は感動と照れで思わずうつむいてしまいました。


「んじゃあ、まずは情報収集だなぁ。ボスの居場所とか聞き出さないと」


 トウヤさんはさっそく次の行動に移ろうとしています。

 その行動力の高さに僕は惚れ惚れしました。けれど―――…


「どっどうやって集めるんですか?姿見せちゃいけないのに…」


 姿を見せず、相手から情報を入手する術など僕には思いつきませんでした。


「俺にいい考えがある。あのな―――…」


 トウヤさんのいい考えを聞こうとした、その時でした。


「おいお前らっっ!!」

「ッッ!?」


 横から声が飛んできました。

 声がした方を見ると、黒マントの男性がこちらに近付いてきています。魔生集団のメンバーです。

 けれど、今まで見てきた魔生集団のメンバーとは違い、彼の羽織っているマントには胸元に大きな赤いラインが2本引いてありました。


「そこで透明化をして隠れているつもりだろうが、さっきから声が聞こえてきてるぞっ!!さっさと姿を見せろっっ!!」


 途中からトウヤさんが普通に話していたのでこちらもつい普通に話していましたが、こんな堂々と話せばいくら透明化していても気付かれるのは当然です。


(透明化の意味ないですよ…!トウヤさんっ!!)


 僕は横にいるトウヤさんを見ました。

 けれどそこにトウヤさんの姿はありませんでした。


「えっ……」


「ウゴホッッ!?」

「ッ!!??」


 気付くとトウヤさんは敵のみぞおちに強烈な突きをお見舞いしていました。

 敵は倒れそうになります。


「おっと倒れんな」


 そうトウヤさんが言ったのと同時に倒れそうになっていた敵の身体がなんとか持ちこたえました。

 トウヤさんはそんな敵の男性をじろじろと見ています。


「ト…トウヤさん…?」


 僕は小声でトウヤさんに話しかけました。

 なんでああも敵の近くにいて平然としていられるのか不思議でなりません。


(…てっていうかあの人普通に立ってるけど…大丈夫なの!?攻撃されないっ!?)


 僕はハラハラした気持ちでトウヤさんを見ていました。

 すると、トウヤさんがこちらに手招きしました。


「ススム、こっち来い。大丈夫だから」


 敵が目の前に立っている(・・・・・)状況は僕にとって大丈夫ではありません。


「でっでもその人、今立って―――…」


「気絶してるよ。今は操作の魔法で立たせてるだけだ。ほらこっち来い。いい事教えてやるから」


(操作の魔法―――…)


 操作の魔法とはその言葉通りで対象物を操作する魔法です。

 魔法能力が高ければ高い程自分の意のままに対象物を操作する事ができます。


「いっいい事って…?」


僕は今にも動き出しそうな敵を警戒しつつ、トウヤ君さんに近寄りました。


「こいつ多分この階にいるバカどものリーダー的な奴だ!」


 近寄った僕にトウヤさんは喜々として言いました。

 それはまるで景品を当てた子どものようでした。


「…リーダー?」

「おお。この魔生集団、俺が見た限りでも結構人数いたからなぁ…。取るためにボス以外にも班リーダー的なのがいるんじゃ…って思ってたんだ。で、そういう奴って他の奴らと差別化するために何かしらの外見的差異があると予想してたんだが…その通りっぽいなぁ」

「…でもほんとにそういう立場の人かは…」

「ん~でもそれなりにできる奴なのはたしかだぜ?こいつ。敵かもしれない姿が見えない相手にああも堂々と話しかけるのは、それなりに自分に自信がある証拠だろうし、魔力も実際高かった。俺そういうの分かるんだよ」


(あっ―――)


「…もしかして、この人をおびき寄せるために…途中から普通に話してたんですか?」

「まぁな。さっきから魔力強そうな奴近くにいるなぁって思っててさぁ。でももうちょい人目につかない所でやりたかったから近付いてきてもらった。ほら、ちょうど服に隠れてこいつの胴体見えないだろ?」


 たしかに今、僕らがいる所は服が左右に陳列されていて人目につきにくい所でした。


(―――…すごいなぁ)


「ん?何が?」


 僕は今の思考を、どうやら無意識に口にしていたようでした。

 トウヤさんが僕を不思議そうに見つめます。


「いっいや…。魔生集団の人を2人倒したのもそうだし、広範囲の防御魔法も……そもそも人質の中から抜け出してこうして魔生集団相手に立ち回れるのがその…すごい行動力だなって…本当に…すごいなって……」


 僕は必死で説明しましたが、途中でなんだが恥ずかしくなって尻すぼみしてしまいました。

 本当に、弱い僕とは全然違います。


「んん~そうかぁ?俺にとってはそうでもないんだが…でもまぁありがとな」


 そう言ってトウヤさんは笑ってくれました。


(…これがそうでもないって―――…)


 僕はある疑問を口にします。

 実はさっきから気になっていた事でした。


「…トウヤさんって、魔法協会の人ですか?」

「え?なんで?」

「あっあの、ほんとにすごいので、慣れてるっていうか…だからあの協会の人なのかなぁ…って…」


 僕の予想にトウヤさんは吹き出しました。


「フハッ!何言ってんだ?あそこ高校卒業してなきゃ入れないじゃん。俺今年から高1よ?」

「えっ…高1」


 まさかの同い年に僕は愕然としてしまいました。

 この危ない状況でも焦らない冷静さはどう見ても僕より年上だと思っていたのです。

 彼が高1なら僕なんて幼稚園児です。


「何驚いてんだよ。失礼な奴だなぁ。お前はいくつなの?」


 僕は恥ずかしさで答えるのを一瞬ためらいましたが、嘘をつくのもどうかと思い正直に答えました。


「……僕も、今年から…高1です。……同い年です」


 僕は恥ずかしさで顔が真っ赤になりました。


「マジか!見えねぇな。お前童顔だし…」


 トウヤさんは正直者だと思いました。

 けれど、彼の言う通り僕は童顔ですしチビでもやしっ子でもあります。

 同い年な事に驚かない方がおかしいのです。


「す…すいません」


 僕はつい謝ってしまいました。


「なんで謝んだよ。いいじゃん同い年。という事でさん付けと敬語はヤメなさい」

「!……あっうん……トウヤ、君」


 『トウヤ君』と名前を呼んだ時、彼との距離が少し近くなったような気がしました。

 こんな状況なのにとても嬉しい気持ちになりました。


「え…えとそれで…この人どうするの?」


 僕の質問にトウヤ君はニヤリと笑いました。

 まるで悪戯を仕掛ける前の子どもみたいな笑みでした。

 けれど、あの河原での諏訪君のあの怖い笑みとは違いました。

 誰かにドッキリを仕掛けるような蘭々とした笑みです。


「言ったろ?敵の情報集めるのにいい考えがあるって。こいつを利用するんだ」

「利用って…」

「じき分かるよ」


 トウヤ君の意図することは本当にこの後すぐ分かりました。


「あっ隊長っ!!大丈夫ですか…!?様子が変だとボスが言っていたのですが…っ」

「!」


 黒一色のマントを羽織った狐目の男性がこちらに歩いてきます。魔生集団のメンバーです。


(どっ…どうしよう…!?)


 僕はトウヤ君の方に目をやりました。

 すると、トウヤ君は人差し指を口元に当て、僕に沈黙を指示しました。

 その顔は、「任せておけ」と言っているようでした。


(しっ静かにしてよう…!トウヤ君には何か考えがあるんだから!)


 僕は両手で口を押さえました。

 そして次の瞬間―――……


「問題ない。ボスにもそう伝えろ」

「!?」


 その声はたしかに先程聞いた、魔生集団の隊長らしき男性のものでした。

 けれど、トウヤ君の魔法で立っているとはいえ今彼は気を失っています。

 話すことなんてできるはずがありません。


(これは…もしかして…)


 僕は再びトウヤ君の方を見ます。


「そうですかっ!例の反逆者ですがまだ見つからないようです。総動員で探しているのですが…やはり透明化した者を見つけるのは難しいのではないでしょうか…?」


 狐目の男性は、自分が隊長と呼ぶ目の前の男性が気を失っていることに気付きません。


「弱気になるな」


(やっ……やっぱり…)


「実態がないわけではないんだ。周りのもののかすかな動きに目を見張れ!そこに奴はいる」


(……トウヤ君が…)


「引き続き探せ!」


(この隊長さんの声で話してるっっ!!)


「ハイッ!!了解しましたっ!!」


 タッタッタというリズムとともに足音が遠くなっていきます。しばらくして…


「笑えるほどうまくいったなぁ」


 隊長さんの声のままトウヤ君が言いました。


「…トッ…トウヤ君。……その、声…」

「結構ハスキーだよなぁ。俺の顔に合ってる?」

「えっ…どうだろ…あっ!じゃなくてっっ!!」

「ハッハー驚いたろう驚いたろう」

「お…驚いたよ」


(…まさか…、気絶させたこの隊長さんをさも何もなかったかのように見せるなんて…)


「…声真似の魔法なんて習ってないよぉ」

「だろうな。これ基本教育魔法じゃないし」

「……その、そろそろ声を戻していただけると…気持ち的に…」

「あ、わりぃ」


 トウヤ君は軽い咳払いをすると元の声に戻りました。


「…えっと、もしかして…いい考えって…」

「そうだ。こいつを魔法でさも正常かのように動かして敵の情報を手に入れる」


(…やっぱり)


「でっでもどうやって…?」

「変身の魔法が使える奴も潜んでるって嘘ついて、仲間かどうか確認するっていう名目で情報を聞き出すっつー感じかなぁ?」

「な…なるほど」


トウヤ君から作戦を聞き出したその時でした。


『うぉぉおお~~い。クソチビガキィィイ~~…』

「「!!」」


またあの恐怖の声がデパートに響きました。

今までとは違い、とても静かな入り方でしたが、その声は怒りに震えていました。


(えっ…なんで?もしかして―――…)


「こりゃバレたな」


トウヤ君がそう呟いた瞬間―――…


『ふざけんじゃねぇぞぉっっ!!!何オレ様の同志を操ってやがるぅっっ!!??今オマエらが操ってる奴はなぁ!俺への報告を誰かに任せる奴じゃねぇぇんだよっっ!!今すぐ魔法を解きやがれぇっっ!!!このクソチビガキィィイッッ!!」


今までで一番大きい怒りに満ち満ちた声がデパートを揺らしました。


「ヒッ…!!」


 あまりの迫力に僕は身をちぢこませてしまいました。

 心臓はバクバクと脈打ってます。

 しかしトウヤ君は―――…


「こいつそこまで律儀な奴なのか。さすがにそこまではできねぇと思ってああ言ったが…しくったなぁ」


 特に恐怖も動揺もなく冷静に自分の行動を反省しています。


(なっなんでここまできても冷静なの…!?強心臓過ぎるっっ!!)


 僕はトウヤ君の冷静さに半ば恐怖すら覚えました。

 魔生集団のボスはさらに怒号をまき散らします。

 しかし、その内容は僕らにとって予想外過ぎるものでした。

『我慢の限界だぁっ!!クソチビガキッ!テメエ屋上に来いっっ!!!!オレ様がじきじきに殺してやるぅっっ!!!』

「「!?」」


 まさかの向こうからボスの場所を教えてきました。

 しかもそのボス本人が…。

 これにはさすがのトウヤ君も驚いた顔をしています。


『オイッ同志達っっ!!クソチビガキを探すのはもうやめろっっ!!!ソイツはオレ様の獲物だぁぁあっ!!!イイかぁっ!?オイッ!!クソチビガキィッッ!!逃げんなよぉっ!!15分以内に来なかったらこの建物ごと潰してやるっっ!!!』


 そして恐怖の声は途絶えました。

 しかし、魔生集団のボスは僕を迎え撃つ気満々です。

 声から殺意がひしひしと感じられました。


(…どっ…どうしよう…っ!?)


 僕は恐怖で声すら出ませんでした。

 ただ身体を震えさせるばかりです。

 その時でした。


「何お前が怖がってんだよ?――闘うつもりかっ!?」


バンッ!!


「イッ!?」


 トウヤ君が思いっきり僕の背中を叩きました。

 その痛みは背中全体に伝わりました。


「トッ…トウヤ君っ!!??」


 僕はジンジンと痛む背中をさすりながらトウヤ君を見上げました。

 トウヤ君は笑っていました。

 けれどその目にはたしかな闘志が宿っていました。


「闘うのは俺だ。お前にそんな危ない事させられるか」


 トウヤ君は僕の頭をまたワシャワシャと撫でまわしました。

 僕を落ち着かせようとしてくれたのです。

 僕はそんなトウヤ君の優しさに嬉しさがこみ上げるのと同時に自分の不甲斐なさに嫌気が差しました。


「…ごっごめんなさい。僕がトイレから出なかったら…敵に見つからずに済んだのに…!…トウヤ君を、巻き込まずに済んだのに…っ!!」


 僕は今更な後悔を口にしました。

 けれど口にせずにはいられなかったのです。

 僕のせいでトウヤ君は今、あんな怖そうな人と闘おうとしているのですから…。

 僕が闘うよ、と言えない自分が情けなくて情けなくて涙が出てきました。


「なに泣いてんだよぉ?ススム」


トウヤ君はうつむく僕の顔を覗き込みます。


「ごっ…ごめっ…!」


僕は必至で涙を拭きます。

泣きたいのはトウヤ君の方なのに、本当に僕は弱い人間です。

トウヤ君はやれやれといった様子で口を開きます。


「お前が謝る事は何もないよ。あのデカブツはどっちみち一発くらわすつもりだったし」

「……え?」


 僕はてっきり、トウヤ君があの大柄な魔生集団の人をやっつけたのは僕を助けるためだと思っていました。

 いや、それはきっと間違っていないのでしょうが、他にも何か理由があるようです。

 トウヤ君は少し言いづらそうに話を続けます。


「あー…あのデカブツさ、ふっ飛ばしたんだよ。俺を連行しようとした時にさ」

「…ふっ飛ばしたって、何を?」


 トウヤ君は頭をポリポリと掻きながら目線を逸らすとこう答えました。


「ケーキ」


 その言葉を聞いただけで僕は、彼がその時いかに傷ついたか容易に想像できました。


「お母さんの誕生日ケーキを…なんで…?」

「…人間が作ったものなんて糞なんだと」


 トウヤ君は意味が分からないといった様子で口をとんがらせました。

 僕にも意味が分かりません。

 魔生集団とはそういうものだと理解していても、そこまでするのかと思ってしまいます。

 どこかで無残な姿になっている誕生日ケーキを想像すると胸が痛みます。

 涙を拭ったはずの目元にまた涙が滲み始めます。

 いかんと思い、僕は慌てて目元を抑えます。

 そんな僕を見てトウヤ君は優しく微笑みました。


「まあそういう事だから。あいつを見つけたら絶対に一発くらわしてやるって思ってたんだ。お前がいなくてもな。だから、巻き込んだとか…ないから」


 トウヤ君は穏やかな口調で言いました。

 彼の笑顔と相まって本当にそう思ってくれていると思えました。

 トウヤ君は本当にお人好しだと思いました。

 こんな情けない僕に怒ったり呆れたりする事なく尊重してくれています。

 こんな扱いを同世代からされたのは初めてです。

 でもだからこそ、トウヤ君が危険な目に遭おうとしているのが耐え難いのです。


 けれど、今の僕の魔力では彼の補助すらできません。

 肝心のギフトもあと1回できるかどうかです。

 相手が強ければ、抑えきれないかもしれません。

 そんな不安に憑りつかれ、僕は彼を止める事も彼の代わりになる事もできないでいました。

 耐え難いと思っているくせに…。

 一般的な良心を持っていても、それを弱さによって行動に反映できないのです。

 こういうのを「偽善者」というのです。


「…あり、がとう」


 感謝の言葉を口にしましたが、僕の心は無力な自分への怒りと呆れ、そしてトウヤ君への申し訳なさでグチャグチャでした。

 震える拳を固く握ります。

 本当は謝りたい気持ちでいっぱいでしたが、謝ってしまうとまたトウヤ君に気を遣われてしまいます。

 そんな資格僕にはありません。


「…ん。そう言ってくれると志気も上がるなぁ」


 けれどもそう言ったトウヤ君の声は少し寂しそうでした。

 僕がまだ自分への申し訳なさを抱いている事に気付いたんでしょうか。

 僕はどうも気持ちが顔に出てしまうようです。

 またトウヤ君に気を遣われてしまいました。


「まぁ、安心しろ。負けないから」


 トウヤ君は自信満々に言いました。

 彼は今までずっと自信というものを失わないでいました。

 何が起きても何とかしてみせるという自信―――…それが彼の冷静さの源なのだと気付きました。

 自分に自信なんて欠片も持ち合わせていない僕にとっては不思議でたまりませんでした。


「……なんで、そんな自信に溢れてるの?…今までずっと」


 僕はついこの疑問を口にしてしまいました。

 取りようによっては嫌味に聞こえてしまいます。

 けれどもトウヤ君はそんな風に受け取る人物ではありませんでした。

 彼は小さな笑みを浮かべて答えました。


「知ってるからな」

「…えっ?」

「俺は自分の強さを知ってる……嫌ってほど。俺の強さは魔法は、こんな状況に…敵に負けないと俺は知ってる。だから、自信くらいある」

「……」


(…本当に彼は…自分の強さを知ってる。だからこんな……まっすぐな目ができるんだ。……こんな目きっと、僕にはできない…)


「ススム」


トウヤ君は僕をじっと見つめ微笑みます。


「……俺を、信じてほしい」

「!!」


 その時、僕の脳裏には在りし日の母の言葉が浮かびました。

 「どうすれば強くなるのか?」という幼い僕の単純な質問に母はこう答えてくれたのです。


「信じることね」

「信じる?」

「そう。自分は強くなるんだって自分を信じてあげるの。そうすれば、きっと…身体だけじゃない、心も強くなるわ」

「……心も」

「そうよ。…でも、信じるのは自分だけではだめ。本当に強くなりたかったら―――…」

「…なりたかったら?」

「ススムが『信じたい』って思う誰かを、心から信じることも大切よ。…自分も人も信じる心が、本当の強さに繋がるわ」


 この言葉は子どもながらに僕の心へストンと落ちました。

 まるで自分の強さに道しるべができたような感覚でした。

 けれど強くなることを放棄して以来、この言葉は心の奥深くへと追いやられていました。


(けど今…僕は、……トウヤ君を信じたい。自分の強さに自信を持っているトウヤ君を……僕は―――…)


「……しん…じる、よ」

「!」

 僕はできるだけまっすぐトウヤ君を見つめました。

 僕のこの気持ちが少しでも彼に伝わるように…。


「…トウヤ君とは今日会ったばかりだけど、…まだ知らないことばかりだけど!……僕はトウヤ君を信じたい。…だから―――……」


 理屈で言えばおかしな話です。

 信じるというのは長い間共にいた者同士がする事です。

 僕とトウヤ君は今日初めて会って1時間も一緒にいません。

 彼がすごいというのは分かります。

 けれど、僕はトウヤ君がまともに闘っているところを見た事がありません。

 すごいというのは分かるけど、どれ程強いかは分かりません。

 そんな彼の勝利を信じるなんて中々決断しにくいでしょう。

 だけど、僕の心が本能がトウヤ君を信じたいと叫んでいます。だったら―――…


(僕は…どんなに弱くても、この心だけは捨てちゃいけないんだ)


「トウヤ君を信じるよ…!」


(『信じる心』を……僕は、捨てない!)



「よく言ったススム!」


グイッ!!グキッ!


「イッ!?」


 僕はトウヤ君に首根っこごと思いっきり引き寄せられました。


「トットウヤくん…!今…グキって音が…!」

「気にすんなっ!」


 トウヤ君は笑顔で僕の頭をワシャワシャッと撫でまわします。


「わわっ!!…でっでも!無茶しちゃダメだよっ!!魔法協会の人達もいるんだし…!」

「分かってる分かってる。ほーら、さっさと屋上行くぞぉ。ちょっと喋り過ぎたか?15分以内に行かないとこのデパートごと潰されちまう。…けど15分ってけっこうくれるよなぁ。あいつせっかちそうなのに…」

「でっでも…僕屋上までの行き方知らない」

「俺もどこにあるかは分かるけど、行き方までは分からねぇなぁ。でもまぁそういう時はこの魔法だ」


 そう言ってトウヤ君が手元に発現させたのは、方位磁石の針でした。

 長さは10センチくらいあります。

 白く輝いており、くるりくるりとトウヤ君の手元で回っています。

 ―――…そして僕はこの魔法を、知っていました。


「…これ、案内の魔法?」

「おっ!知ってんのか?これ学校で習わないだろ?」


 トウヤ君が言った通り、この案内の魔法は学校では習いません。

 自分が脳内でイメージした所へと導いてくれる魔法です。

 イメージが鮮明であればある程正確に連れて行ってくれます。

 けれどこの魔法は場所だけではなく人の所にも導けるのです。

 これを利用しストーキング行為をする者がいるため、学校では教えないことになっているのです。しかし僕は―――…


「知ってるっていうか…一応使えるんだ。案内の魔法」

「はっ!?」


 僕の告白にトウヤ君は驚きます。

 それもそのはずです。この案内の魔法は魔力自体はそこまで必要ないのですが、その分技術を要するのです。

 僕のようないかにも不器用な魔法使いには使えないと思うのが普通です。

 加えて、僕がこの魔法を覚えた理由はあまり堂々と人に言える事でもないのです。

 気恥ずかしさを感じながらも僕はその理由をトウヤ君に話しました。


「……えっえと、僕…小さい頃その…まいっごになること…多くて、それで心配した…お母さんが、教えてくれたんだ。やっぱり覚えるの大変だったけど…なんとか覚えた」

「っ!?…迷子…!?」


 やはりトウヤ君はとても驚いています。当然です。

 迷子になる事が多くて母親から案内の魔法を教わるなんて恥ずかしいの極みです。


「はっ恥ずかしいよねぇ!!あっでもけっこう役に立つよねこの魔法っ!!あっもうけっこう時間経ってるよっ!!」


 僕にしては珍しいくらい怒涛の勢いで言葉を並べます。

 実際けっこう時間も経っていました。


「えっ…ああ、……そうだな」


 僕の心境を察してかトウヤ君もさらにつっつくような事はしませんでした。

 彼は目線を輝く針へと向けました。そしてゆっくり目を閉じました。

 少しすると、針がゆっくり前へと動き出しました。


「よし。これで屋上まで行ける」

「…そっそっか」


 今現在僕らは4階にいます。

 魔生集団のボスがいる屋上まではあと2階分あります。時間はあと10分くらい残っていましたが…


(走った方がいいかなぁ…?)


 そう思っていた時でした。


「さっさと行ってさっさと倒した方がいいよなぁ。……ススム、上乗れ」

「えっ?」


 トウヤ君は僕の前で屈むと、後ろ手を僕に向かって軽く動かしました。

 それはまるで僕に背中に乗るように指示しているようでした。


「えっ!?…乗れって背中に…っ!?」

「おお。こっちの方が早い」

「ぼっ僕走れるよっ!?そんなトウヤ君に負担は…っ」

「こんくらい負担でもなんでもないよ。…俺、力持ちだから。ほ~ら早く乗らないとデパート潰されるぞぉ~」


トウヤ君は僕をおんぶして移動する気満々です。


(これじゃほんとに幼稚園児だ…)


 僕はそう思いつつも、トウヤ君の言う通り彼の背中に乗りました。

 なるべく彼に体重がかからないようにしました。


「そんなんじゃ落ちるぞ?全体重乗せろ」

「うっ…おっ重くない?」

「全然。―――…軽い。…ほらさっさとしがみつけ!」


 一瞬トウヤ君の声のトーンが変わった気がしました。

 僕はやはり重いのではないか?と思いました。


「やっぱり降り―――っ!!」

「ああもう行くぞっ!!」


グンッ!!


「ッッ!!??」


 その瞬間もの凄い勢いでトウヤ君が走り出しました。

 僕は後ろへ引き離されそうになり、必死でトウヤ君にしがみつきました。


「そうそう!それでいい」


 周囲にあるものがとてつもない速さで次々と通り過ぎていきます。

 人というのはこんなに速く走れるものかと驚くばかりでした。


「~~~っっ!!」


 僕は振り落とされないように本当に必死でトウヤ君にしがみつきます。


 ―――…そして、あっという間に屋上へとつながる階段の前まで来ました。

 トウヤ君はそっと僕を下に降ろします。僕はその場にへたり込んでしまいました。


「アハハハッ!!お前途中から透明化解けてたぞ。魔生集団の奴らがすげー変な顔でお前の事見てた」

「えっうそ!?攻撃されそうになったっ!?」


 途中から目をつむっていたので、透明化が解けていた事なんて気づきませんでした。

 たしかに今、僕には自分の姿が見えています。

 トウヤ君にしがみつくのに必死で透明化を解いてしまったのでしょう。


「いいや。ボスから直々に手を出すなって言われてんだ。そんな野暮な真似はしてこないだろ?」

「そっ…そっか。良かった…」

「立てるか?」


 トウヤ君が手を差し出しました。

 僕はその手を取り、ゆっくりと立ち上がります。


「あっありがとう」

「さぁて、じゃあ行きますか。…テロリストのボスさんがいる屋上に」

「うっうん…!あっ透明化は……しなくていいんだよね?」

「そうだな。姿を隠したまま会ったら、逆上して何するか分からない。ほんとはどっかに隠れててほしいんだけどなぁ。悪いけどボスの前に姿を見せる事になる。……大丈夫か?」


 トウヤ君は心配そうに僕を見つめました。

 僕はここまで物理的にも精神的にもトウヤ君におんぶにだっこなのです。これくらいで心配をかけてはいけません。


「うっうん!!大丈夫だよっ!!」


僕はなるべく明るくトウヤ君にそう伝えました。トウヤ君は優しく微笑みます。


「ありがとう。…お前の事は俺が守るから、安心していい」

「…うっうん」


僕は本当にトウヤ君に甘えています。そんな自分がやっぱり恥ずかしくなりました。


「うしじゃあ昇るぞぉ。階段」

「はっ…はい!」


 こうして僕らはとうとう屋上への階段を昇り始めたのでした。

 階と階をつなぐ大きな階段とは違い、屋上へと続く階段は学校階段ぐらいのものでした。

 蛍光灯がチカチカと瞬いています。


 薄暗い階段を少し昇っているとトウヤ君が口を開きました。


「お前さ…―――…いや、えぇと…頑張ろうなぁ!」


 トウヤ君は何か重要な事を言い出せない感じでした。

 頑張ろうと言った顔はぎこちない笑顔でした。


「トウヤ君…?」


 僕は彼が言い出せないその重要な事を聞いておかなければいけない気がしました。


「何か…僕に知っててほしい事、ある…?…聞きたい」

「……」


 トウヤ君は足を止めました。僕も止めます。

 そこはちょうど階段の踊り場でした。

 トウヤ君はとても言いづらそうに口を開きました。


「……俺さ…闘ってるとさちょっと…その…ほんとにたまにだけど―――…暴走しちまう事があるんだ…」

「―――…暴走?」


 あの冷静で頼もしいトウヤ君が暴走するところなど僕には想像もできませんでした。

 そういうのはマンガのチートキャラ(特に主人公)がなりそうなものです。

 いわゆる中学2年生的な発言ですが、トウヤ君の様子からはそんな面白おかしいものではないと伝わってきます。

 明らかな困惑と諦めが混ざった複雑な表情です。


「ああ、うん。……ちょっと周りが見えなくなるっていうか、目の前の奴ヤるのに一直線になる。…そうなるとお前にも危険が及びかねない。……守るって言われた相手に…殺されるのは嫌だろ?」

「ころっっ!!??」


(暴走でそんなこと…っ!?そんな――…)


 マンガだったら主人公が暴走してそんな事になりそうものなら仲間が必死の形相で止めに入ります。逆の場合も然りです。

 友情の力だなんだで正気に戻します。感動の名シーンベスト5に入りそうな勢いです。


(…けど、それはマンガの中だけの話だ。もし仲間が止めに入れなかったら?友情の力なんて通用しなかったら?……暴走した者はそのまま―――…)


 僕は一瞬よぎった恐ろしい考えをを否定するかのように必死でトウヤ君にこう伝えました。


「こっ殺すなんて…っ!そんな…ことっ…トウヤ君はしないよっ!!!」


 けれどトウヤ君は―――…


「そう言ってもらえるのは嬉しい。…けど、万が一にもそういう可能性があるっていうのは知っててくれ。そんで…そうなったらすぐに逃げろ。俺の前には絶対に出るな」


 トウヤ君はさらに僕に念押ししました。

 その目はとても冗談を言っているようには聞こえませんでした。真剣なまなざしで僕を見つめます。

 僕はトウヤ君にこうして見つめられると不安なんてものはなくなりました。

 けれど、今はその真剣な目が逆に僕の不安を煽ります。

 そんな僕の様子に気付いたのか、トウヤ君は明るくこう言い加えました。


「安心しろ!!暴走なんてそうないから!だから言わなくてもいいかと思ったんだよ!俺もそうならないのように気を付けるし!!それに勝つ事には勝つから安心しろっ!!」


 そう言ってトウヤ君は僕の頭を撫でまわしました。

 僕はまだ不安でしたが、トウヤ君の言葉を信じる事にしました。


「…うん。分かった…!」


(トウヤ君を信じるって決めたんだから…!)


「ほら!さっさとあとの階段昇るぞ!…今度はだっこでもして昇るかぁ?」


 トウヤ君はそう言って僕の脇腹に手を差し出そうとしました。

 僕はとっさに身を引きます。


「だっ大丈夫です!!大丈夫です!!1人で昇れるっ!!」


 そんな僕の様子にトウヤ君は笑います。


(あ・・・笑ってくれた)


 僕はその事に何故かほっとしてしまいました。


 そして…最後の階段を昇りきり、とうとう僕らは屋上のドアの前にきました。

 あとはドアを開けるだけです。


「―――…いったん深呼吸、する?」


 トウヤ君は僕をからかうように言いました。

 けれど僕はお言葉通り、深呼吸を2回しました。

 そして―――…


「…だっ大丈夫ですっ!!」


トウヤ君に準備OKを伝えました。


「よし!じゃあ開けてくれるか?」

「うっうん!!」


そしてとうとう―――…僕は屋上の扉を開けました。


‐‐‐


 ドアを開けるとそこは屋上ではなく、黒い面で覆われた真っ黒な閉鎖的空間でした。黒い箱の中にいるようでした。

 だからといって真っ暗で何も見えないというわけではありません。

 自分の姿、そしてトウヤ君の姿、人物だけが真っ黒な空間の中に浮き出ています。

 そしてその黒い空間の一番奥に―――…もう1人…。


「……まぁってたぞぉぉお~~。憎い憎~~い、クソチビガキィィイ~~っ!!」


 この妙な語尾の伸ばし方――…何度もデパート内で聞いたものに間違いありません。

 僕らを絶望へと突き落としたあの―――……


(…こっこの人が、…このテロの首謀者――…過激派魔生集団の…ボスッ!!)


 黒マントを羽織っていたメンバー達とは違い、彼は何も羽織っていません。

 タートルネック型の黒のタンクトップ1枚にニッカポッカのような灰色のズボンを履いています。

 タンクトップは胸元くらいしかなく、見事に割れた腹筋が外気にさらされていました。

 後頭部で結んでいる銀色の髪は背中までありました。

 そして…僕をしっかりと捉えるその目は殺意に満ち満ちていました。


「たっくぅぅう。クソチビガキのくせにオレ様の同志をヤるとはなぁぁぁあ~~っ!!ヤンチャもいい加減にしろよぉお!クソチビガキィッッ!!!!」


 話している内に彼の怒りのボルテージがグングン上がっていっているのがヒシヒシと感じました。

 顔も鬼のようにです。


(ヒッッ!!すっ…すっごいコワい…っっ!!)


 あまりの威迫とオーラに、僕は思わず後ずさりしそうになりました。

 けれど―――…


トン


「!」


 その背中を隣にいるトウヤ君が片手で止めます。

 そしてそのまま、ポンポンと僕の背中を2回叩きました。

 「大丈夫だ」…そう諭されているようでした。

 トウヤ君の目はただ一点、敵のボスを見つめています。


(…トウヤ君、全然動じてない。あんなに怖い人前にして…全然)


その姿に、僕は小さな感動を覚えました。そして、再び強く思ったのです。


(トウヤ君を信じるんだ…!!)


「このジキ様にギッタギタに殺される覚悟はできてるんだろぉぉうなぁぁあ~~っっ!!??」

「んなもん―――…」


 トウヤ君が口を開きます。


「させるわけねぇだろ」


 ―――…瞬間、僕の隣からトウヤ君の姿は消え…


ドズンッッ!!


 魔生集団のボス・ジキに強烈なかかと落としを炸裂させていました。

 ジキの足元の空気が一気に外側に向かって円状に波打ちます。


「ナァッッ!!??」

「残念。透明化での奇襲は失敗か。まぁいい―――…」


いよいよ―――…


「戦闘開始だ」


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