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2度目の命の危機

『今から俺の同志達が血眼でテメェらを探すぅぅうっ!!隠れたりすんなよぉぉお!うんなことしたらぁー反逆行為とみなしぃ、即コロすぅぅうッ!!分かったなぁッ!!ゲハハハハハッ!!』


(かっ…過激…THE過激だ…!)


 世の中にこんなに過激な人がいるのかと変な感心が沸く程、魔生集団のトップらしき男は放送でまくし立てました。スピーカー越しではないクリアな声です。

 おそらく放送の魔法でデパート全体にこの声を響かせているのでしょう。魔生集団は人間が生み出した文明の機器も使わないのです。

 トイレの外の騒ぎはよりいっそう大きくなっていました。

 おそらく魔生集団のメンバーだと思われる高圧的な声も聞こえてきました。


「おらぁ!さっさと動けっ!!手間とらせんじゃねえっ!!」

「隠れている奴はさっさと出てこいっ!!」


(……うっうわぁー…本格的にテロだぁ…!)


「てっていうか…隠れてる奴って僕の事だよね…早く出た方がいいよね」


(素直に出れば…別に殺される訳じゃあないんだよね…じゃあさっさと…!)


 そう思って個室のドアを開けた時でした。


「オラァア!!トイレに隠れている奴出てこいっ!!」

「どうだぁ?誰かいるか?」


 会話からしてどうやら向こうは2人のようです。


「……ん、いやぁ…個室のドアは全部空いてるし…いねぇなぁ」

「じゃあさっさと出ようぜ。人間共が糞するところなんて1秒たりともいたくねぇよ」

「…そうだな。トイレ前にカートがあったけど、持ち主はもう行ったか…」


 2人は早々にトイレから出て行きました。

 なんと僕は見つからなかったのです。

 けれど、それは僕にとって幸運でもなんでもありませんでした。



(なぁぁんで隠れちゃったのぉぉお―――!!??僕っっ!!)


 僕は突然のテロリストの登場にびびってしまい、トイレから出ることができませんでした。

 しかもわざわざ透明化の魔法を使ってまで隠れてしまったのです。

 テロリストに見つからなかったのは必然に近いことなのでした。


「まずいまずいマズいマズイッ!!!僕完璧隠れた人じゃん!!反逆者じゃんっ!!殺されるジャンッッ!!!」


 僕はその場でうずくまり、小声ながらも早口で自分の咄嗟の行動を呪いました。


(普段、諏訪君達の声聞いたり姿見たりすると反射的に透明化しちゃうから…!その癖がつい出てしまった…ッ!!)


 諏訪君達は友達だけど、さすがに毎日殴られる蹴られるは辛いのでこういう癖がついてしまったのです。


(ていうか血眼で探すって言ってたのにすごいおざなりだったよっ!?考えを改めて出ていく隙がなかったよ!?トイレだからっ!?)


「…どっどうしよう…!?」


 それからしばらく思い悩んでいると…またあの恐ろしい声がデパート内に響き渡りました。


『ハァァァイッ!!!時間切れ~!!』

「っ!!!」

『もう今から出てきた奴は反逆者認定だぁぁあ~!オレ様の同志達が見つけ次第次々殺していくからなぁぁあ~!!ゲハハハハハッ!!』


 今思えば、テロリストの二人が出て行った後からでも外へ出れば良かったのです。

 そうすればまだ、反逆者認定されずに済んだかもしれないのに……本当に僕はどんくさい男です。


「ととっとりあえず…あの2人の様子からするとトイレはある程度安全なはず…!」


 透明化も誰かにぶつからない限りその人に認知されることはありません。

 医療魔法の光さえ見えなくなります

 魔法を解かない限り自分自身にも見えないのです。


「こんな大きな騒ぎなんだし…魔法協会がもう動いてるよね…。このままじっとしとけば……」


 魔法協会とは今回のような悪事を働く魔法使いを取り締まる組織です。

 ほとんど魔法使いで構成されています。

 対魔法使い用の警察のようなものです。


「……でも」


 先程までの騒がしさが嘘のような静寂の中、僕は妙な焦りを感じました。


(……このまま隠れてていいのかな?

 僕がこうして隠れている間に、誰かが殺されるかもしれない)


 買い物している時に見かけた人々の姿が思い出されます。

 そして、母親に誕生日ケーキを買いに来ていたあの青年の笑顔を―――…。


(…あの人は魔生集団が来る前にデパートを出たかな?…いやお母さんの誕生日ケーキ。じっくり選んでたとしたらこのテロに巻き込まれた可能性の方が高い)


 それに僕は気付いていました。

 青年が僕にかけてくれた医療魔法が解けている事に。

 20分はたしかに経っているので別におかしくはないのですが、状況が状況です。嫌な想像をしてしまいます。


(あの人が魔生集団にヤラれたから魔法が解かれたなんて事は…)


 ドゴーンッ!!ドゴーン!!…ドゴッ!


 外から轟轟しい音がいくつか聞こえてきました。


「!!魔生集団が…、暴れ始めた…?」


(どっどうしよう…!こんな大きな魔法使う人達相手に立ち向かう勇気なんか…!!)


 僕はまたうずくまりました。けれどその時ふと父の言葉が僕の脳裏に浮かびました。


『お前は将来良い魔法使いになるぞ~!』


「……」


(……あの言葉にあの時僕はなんて答えただろうか…?)


 僕は必死で思い出を辿ります。

 そしておぼろげながらもあの場面が脳に映し出されました。


(…そうだ。あの時僕は…)


『うん!!僕、良い魔法使いになるっ!!約束するよ!お父さんっ!!』


(約束したんだ…)

(お父さんに…「良い魔法使いになる」って…。お母さんも優しく笑ってた…。それなのに僕は…)


 僕は自分の弱さに涙が出てきました。


(弱くあれと言われた…。それが人のためになると…。だから弱さゆえの不幸は全て受け入れようと決めた。今誰かからどれだけこの弱さを淘汰されようと、いつかきっとこの弱さが誰かのためになると信じて…。強くなることを放棄した自分への罰だと受け入れた。けど…)


「僕が弱いことで誰かが不幸になるのは……嫌だ…っ!!」


(僕にできることはなんだ…?さっきまでボロボロだった弱い僕でもできることは…?)

(戦うのはダメだ…。今日は魔力を使い過ぎた。…そう何回もギフトなんて使えない。下手に刺激したら人質の人達に矛先が向くかもしれないし…)


「……」


(僕は今、誰からも存在を知られていない。一応自由に行動できる立場だ…。だったら…)


「今このデパートの内情を外に知らせることができる」


 外にはそろそろ魔法協会の人達が集まってきているでしょう。

 彼らが今欲しい情報の1つとして今現在デパート内がどういう状況なのかというのがあります。

 魔生集団や人質の人数は大体何人か?

 人質達が囚われている場所はどこか?

 魔生集団の者達は各階にどう配置されているか?

 など魔法協会がこのデパートに突撃するために得たい情報は多くあります。


「それを僕は得ることができる」


 色々と覚悟しといてできるのはこの程度です。

 得られる情報も実はそこまで必要ではないかもしれません。

 また、人質を一度見捨てることになります。

 やはり僕は、弱い人間です。けれど…


(直接人質を助けるなんてかっこいい真似はできないけど…)


「しないよりはいいはずだ…!これが僕の精いっぱいの強さだ…!!」


 半ば開き直るような形です。涙を拭い、僕はトイレの個室から出ました。

 そしてとうとうトイレの出入り口に差し掛かりました。

 ここから先はテロリストがいるかもしれない空間です。

 僕は大きく深呼吸をして恐る恐るそこから顔を出しました。

 その瞬間―――…


 ドンッ!!


 顔を向けていた反対側から誰かがぶつかってきました。

 僕の思考は停止します。

 考えたくなかったのです。

 どう考えたってその結果は僕にとって最悪のものにしかならないのですから。


「反逆者はっけ~~ん」

「ッッ!!」


 まるで死神に見つかった気分でした。

 僕は恐る恐る振り返ります。

 もう汗も引く程の恐怖です。

 そこにいたのは、黒一色のマントを着た大柄の男性でした。


「オマエェ~~殺される準備できてるかぁ~~??」

「~~~ッッ!!!」


 もう声すら出ませんでした。

 黒マントで彼が死神にしか見えません。

 彼は僕に向かって手をかざします。攻撃魔法の準備です。

 僕は恐怖で動くことすらできません。


「反逆者には制裁をぉ~~~」

「ッッッ!!!」


 死神の手元でどんどんエネルギー体の球が大きくなっていきます。


(マッマズい!!ギッ…ギフト!!ギフト使わないと―――…でっでもこの場を逃げたところで、人質の人達に危険が…っ!!)


「人質への見せしめにしてやるよぉ~」

「―――ッッ!!」


(そんなっ…!せっかく誰かのために動こうって決意したのに…!!こんなことすら僕はっ…!!僕はできないのか!?…本当に僕は―――…)


 とうとうエネルギー体が僕に向かって放たれようとした、その時―――……


「みぃつけた」


 次の瞬間、目の前にいた大柄の男性が―――…叩きつけられたかのように床に倒れました。


 ドンッッ!!!


 もの凄い衝撃音とともに足元が揺れます。

 僕はあまりに突然な出来事に再び思考が停止しました。

 次々と襲ってくる事態の変化に脳が追いつきません。


(……へ…あ、なん…で…)


 男性は本当に不自然な程急にもの凄い勢いで倒れました。

 まるで誰かに思いっきり踏み倒されたようでした。

 けれど、彼の上には誰も乗っていません。

 乗っていないはずなのですが―――…


「あっやべ。こいつ気絶してらぁ。色々聞こうと思ったのに…」 


 姿は見えないのに目の前から声だけ聞こえてきます。

 そして、僕はその声をどこかで聞いたような気がしました。しかも、ついさっきです。


「お前大丈夫だったか?なんとか間に合ったけど…」


(この声たしか―――…)


 この声の持ち主を思い出そうとした、その時でした。


『オオォォォイッッ!!!どこのどいつだぁぁあ!!??オレ様の同志をヤリやがったのはぁぁあ~~っっ!!??』

「ッッ!?」


 あの恐怖の声が再びデパート内に響き渡りました。

 しかし、今までとは明らかに声色が違いました。

 これは異常なまでの憤怒の声です。


(マッマズイッ!!もうバレたの…っ!?)


「へぇ、気づくの早ぇな。やっぱ監視の魔法してんのか」


 慌てふためく僕をよそに姿見えぬ声の主はいたって冷静です。


『このクソチビガキ(・・・・・・)がぁぁぁああっっ!!!テメェともども人質全員殺しちまうゾォォオッッッ!!!!』


 テロ首謀者とおぼしき男性はもの凄い怒声をデパート内に響かせます。

 同志をやられて頭に血が昇っているようです。


「ッッ!?そっ…そんなっ人質全員なんて…っっ!!」


(……あれ…ていうか、今…クソチビガキって―――…)


 クソチビガキなんて僕を的確に表現した言葉です。

 僕は自分の聞き間違いではないかと思いました。

 だって、大柄な男性にぶつかったとはいえ、僕は透明化をしています。

 他の人には見えるはずもありません。


(―――…あれ?…でもじゃあどうして、この人には僕が見えてるんだ…?)


 僕は姿見えぬ声の主がいるであろう所を見ました。

 その時、再びその人の声がしました。

 その声はとても不思議そうでした。


「お前、なんで透明化しなかったんだ?敵にバレバレだぞ?」

「―――ッッ!!??」


 僕はその時初めて自分の姿が見えている事に気付きました。

 透明化をしていれば自分の姿は自分にさえも見えません。

 けれど今、僕の目にはしっかりと自分の姿が写っています。

 おそらく一瞬ギフトを発動しようか迷った時にとっさに解いてしまったのでしょう。


(ぼっ僕のバカァァアッッ~!!!なんで今まで気づかなかったんだっ!?これじゃあ―――…)


 今現在の僕の状況から、先程のテロ首謀者の言葉は聞き間違いではないと分かりました。

 そして、今僕の目の前にいる人は僕とは違いちゃんと透明化している事も分かりました。

 この状況から導かれる結論は―――…


「これ完全に、このデカブツやったのお前だと思われてるぞ」


 僕の代わりに目の前の人がこの最悪な結論を口にしました。


「―――僕が…やった?」


 たしかに魔生集団のボスからしてみれば、倒れている味方の目の前にいる僕を疑うのは当然です。

 加えて僕は今、諏訪君達にやられた事で服がボロボロの状態です。

 一戦交えたと思ったのかもしれません。


(だからと言って…そんな―――…!!)

 

 僕はこの現状を受け入れたくない気持ちでいっぱいでした。


「おお。お前今からでも透明化してここから離れろ。あいつらじきにここ来るぞ」


 彼はあっさりこの現状を肯定しました。

 そしてさらに最悪の可能性を提示します。


(えっ!?あいつらって…魔生集団がっ!?そっそんな―――)


「どっどう…!?にっ…とっ…!!」


 僕はもう混乱の極みです。

 正常な思考もできないままとにかくこの場から離れようとしました。

 すると―――…


「落ち着け。透明化しろっつってんだろ?」


 右腕が何かに強く引っ張られる感覚がしました。

 視線を落とすと僕の右腕を誰かが強く掴んでいます。

 その手首にはブレスレット、そして指には指輪がいくつか付けられていました。


(これ…見たことある…)


 僕は視線を徐々に上へと上げます。

 この腕の、この声の持ち主の顔を視界に映すために―――


「それと、人質の事は気にしなくていい。 周りに俺の防御魔法を張ってる。あらゆるものの出入りを拒むものだ。人質に手は出せないよ。だから―――」


 僕の混乱を鎮めるように、冷静に僕を諭すこの声の主は―――…


「いったん深呼吸」


 母親に誕生日ケーキを買いに来て、そして僕の怪我を治してくれたあの優しい青年でした。


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