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最弱魔法使いはいじめられっ子

「第5も~~ん!俺の趣味は何でしょ~~う??」


 雲ひとつない青空の下、高らかな声が河原に響き渡ります。

 僕は今、4人の友達に囲まれています。

 何故、座り込んでいる僕の周りを彼らが取り囲むように立っているのかは聞かないでください。

 ついでにお願いすると、何故僕がボロボロなのかについても聞かないでもらえると助かります。


「ほ~ら!早く答えろよ!!」


 僕の右隣にいる橋本君が僕の横腹を思い切り蹴りこみます。

 見事な蹴りに僕は思わずせき込んでしまいました。


「ホ~ラ!・・・3、2、1…」


 僕の左隣にいる田中君がカウントダウンを始めました。

 僕は急いでクラクラする頭を働かせて先程の問題に答えました。


「えっ…えっと!・・・スッ…スポーツ観戦…?」


 問題を出した諏訪君はとても爽やかな見た目でスポーツ万能なのでこのような答えが浮かびました。


「…へぇ、……スポーツ観戦、ね」


 諏訪君の顔から一瞬笑みが消えました。

 しかし、すぐにまた愉快な笑みに戻りました。


「ざ~~んね~~~ん」


 その言葉が合図かのように4人は一斉に僕を蹴ってきました。

 無数の衝撃と痛みが僕の身体を襲います。

 僕は慌てて顔をガードして身体をちぢこめます。

 諏訪君は蹴りながら僕に問題の正解を教えてくれました。


「正解は~~……オマエをこうしてボッコボコにすることだよぉ~!!クズく~~ん!!」


 さらに強い衝撃と痛みが僕の身体を襲います。

 僕はとうとう堪えきれなくなり、声が漏れ出てしまいました。

 「嬉しいだろう~?お前ごときがこの俺の趣味の一つになれてさぁ~あ~!」

 諏訪君の方は笑いが堪えきれないようで笑いながら僕を蹴り続けます。他の3人も同様です。

 けれども、少しすると諏訪君がその3人に命令しました。


「おい、ちょっと止まれ」

「は?なに?」


 僕の後ろにいる渡辺君が疑問を呈しました。

 僕も疑問に思い、顔をゆっくり上げました。

 けれど、諏訪君の顔を見た時、僕は思わず顔を背けたくなりました。

 諏訪君の顔には子どものように無邪気だれど歪な笑みが浮かんでいたのです。

 小さな子どもが小さな虫に水をかける前みたいな…

 虫にとっては命に関わるイタズラでも平気でしてしまう子どものあの無邪気で歪な笑み…


「いつまでもこうして蹴ってんのつまんなくね?こいつ全然懲りないし…。そもそも俺らは魔法使いなんだ。人間みたいなまどろっこしい真似しないで魔法を使ってやった方がクズ君も嬉しいんじゃね?」

「アッハ!それいいな!!」

「賛成賛成!!ギャハハハ!!」

「そろそろ本当に痛い目見たほうがいいかもなぁ~ククッ!」


 諏訪君の提案に他の4人は喜々としてノリます。

 そして彼らは僕から少し距離を取りました。


「どうせだからよぉ~、特別に俺らのギフトくれてやるよ」

「……えっ…?」


(4人のギフトって確か…)


「「「「ギフト発動ッ!!」」」」


力強く発せられた言葉ともに彼らの手元に現れたのは…、巨大な火の玉、水の槍、電気の塊、黒い毒ガス―――…攻撃魔法のオンパレードです。


(こんな一斉に攻撃魔法を受けたら怪我どころの騒ぎじゃなくなる。それに…)


(4人が犯罪者になってしまう)


 それだけは避けたいと思いましたが、彼らは自分の中の魔力を高め、今にも攻撃魔法を仕掛ける雰囲気です。

 僕自身も恐怖のあまり身体が思うように動きません。


 攻撃魔法で相打ちを狙おうにも僕に攻撃魔法なんて使えません。

 防御魔法ではじき返そうにも恐らく1個もはじき返せずに壊されるでしょう。

 移動魔法で逃げようにも10メートル先にワープできるくらいです。すぐに追いつかれます。

 (そもそも移動魔法は法律で制限されていますし…)

 弱い僕にはこの状況を打破できる手段など


 ―――…1つしかないのです。


「3・2・1・0で一斉に当てんぞぉ。殺したらマズいから多少は手加減しろよ」

「「「ハ―――イ」」」

「…いっいや、これ……どれもけっこうな大きさ…!」


(こっこれ……死んじゃうよね…。……こうなったら)


 僕は顔を青ざめながらも意を決しました。

 そして諏訪君の口から恐怖のカウントダウンが始まりました。


「さ~ん!にいぃ~!い~~ち!・・・」


 先程の田中君のカウントダウンが霞んでしまうほどの恐怖が身体を支配します。

 足がバイブ並みに震えて動かすこともできません。

 それでも、僕は自分の命を守るために精いっぱい自分を守ろうとしました。


(コッ…!コワいけっど…っ!!)


 思わず目をつむりたくなりますが、僕は目をつむりません。

 必死で彼ら4人の目を見つめました。

 これが僕の唯一で最後の手段なのです。


「ゼェェ~~~ロッッ!!!!」


 一斉に4つの攻撃魔法が僕に向かって飛んできます。

 その光景のなんと恐ろしいことでしょう。

 本当に「死」というものを実感しました。

 けれども、僕はその恐怖を吹き飛ばすように心の中で大きく叫びました。


(ギフト発動っっ!!!!!)


 その瞬間…

 僕の目の前まで迫っていた4つの攻撃魔法は全て……


 消滅しました。

 とても、あっけなく……


「ッッ!!」

「…はっ…ハアァァ――ァァアアッッ!!??」

「なっ…ちょっ…!どういうことだよっ!?」

「意味不明なんだけど…っ!!」


 彼らは自分の攻撃魔法…ギフトが何の前触れもなく突然消えた事に驚きを禁じえません。

 けれども、そんな彼らを構う事なく僕のギフトの副作用が彼らを襲います。


「なんか力が…出ない…!」

「すげー身体が重い…」

「やべぇ…頭が」


 4人は苦しそうにその場に座り込みました。


「オ…マエ……!」


 諏訪君がわずかに顔を上げ、僕を睨みました。

 その眼光の鋭さに僕は身を強張らせます。

 僕はしばらく放心状態でしたが、なんとかフラフラの足を動かし、その場を後にしました。


(……こうして逃げる時くらいしか使い道がないなぁ。…僕のこの、生まれ持っての魔法は…)

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