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夏の匂い

鼻の奥に触れた高温多湿な爽やかな匂いは不思議と僕に夏の訪れを感じさせていた。

中学に入学してから早くも二ヶ月半を過ぎて緊張や期待や不安を良い意味でも悪い意味でも搔き消していた。小学校から仲の良かった翔とは同じ部活に入ったが毎日遅くまで公園で話したり焚き火をしたりと、とにかく部活には全く興味がなかった。僕は昔からスポーツはかなり出来たほうで翔も同じだった。だからこそ部活はつまらなかった。

その日、僕らは当然のように部活には出ず、日もかなり伸びた事もあって公園で語っていた。僕らは語る事をカタルシスと呼んでいた。

「試験勉強なんてしないよな」「あのアイドルの子めっちゃめちゃ可愛くない?」などどうでも良い事を延々とカタルシスした。そんな時翔が突然「そーいやさ、おまえに渡すもんあった」なんだそれ。ポカンとしてる僕を横目に制服の内ポケットの中のそれを探していた「三年のやつから」そう言って僕に複雑に折りたたまれた手紙を投げた、何が何だか分からないし正直、誰からの手紙だか見当もつかなかった。

開けてみると「初めまして〜、部活おいで〜」と丸文字のゆるい内容だった。最後に「あかね」とだけ。

見る限り女の子からの手紙で内心すごく嬉しかった、

そして明日は部活に出ようと簡単な中学男子の心は思い立ってしまった。それを翔に言うと「いいよ、おれもついてってやるよ」とだけ言ってその日のカタルシスは終わった。

家に着きもしかしたらこの手紙は部活に出ない僕らに怒って書いたのかもしれないし、ましてや二週間は顔も出していない部活に行くのはちょっと嫌だなと思いながらもいつの間にか寝ていた

次の日はあっとゆう間にやってきた。

登校中は昨日の手紙のことなんか忘れていた、教室に入るとみんなはいつも通り、翔と挨拶を交わしこれまたいつも通りの授業を終えて帰ろうとした時、部活の事なんかすっかり忘れていた、翔も忘れていたようで急いで着替えて体育館に向かった。

体育館の前で一回しか履いていないバスケットシューズを履いていると中からは靴と床の擦れるキュキュと気持ちのいい音や準備体操などの掛け声などが聞こえてくる、緊張しながらもドアを開け「お疲れ様でーす、遅れてすいませーん」と大声で言いながら入った、みんなは僕らが来ることを予想してたはずもなく、きょとんとしていた、だが顧問の先生は優しく「やっと来たか、待ってたぞ馬鹿ども、さっさと準備運動しろ」と言ってくれた、体育館の隅で俺らは簡単に柔軟体操して練習に参加していた、なかなか楽しいものだったが何か大事な事を忘れていた気がする。

部活も終わり、みんなで着替えて帰ろうとした時、翔の姿は見えなかった、たまにあいつはそうゆうルーズとゆうかマイペースな所がある。

たまには1人で帰るのもいいかもなと校舎をでて校門に差し掛かった時「今日は来たんだね!」と後ろから声がする、女子バスケ部の三年生の2人だった、1人は部長だから顔は知っていた、もう1人は全く知らない人だった。中村先輩お疲れ様です、はい、来てみました。とあざといくらいハキハキと答えた。部長の名前は確か中村さんだったようなと考えているともう1人の人が言った「手紙読んでくれた〜?初めましてだよね〜?だいき君でしょ〜?」僕は手紙の事を思い出した。どうやら彼女が手紙をくれたあかねだった。

お疲れ様です、あなたがあかねさんですか?初めまして、だいきです

軽過ぎる自己紹介をして彼女はゆるい声で話し始めた「一応先輩だけど、敬語やめて〜おばちゃんみたいだから〜、あとあっちゃんでいいよ」難しい事を言う人だなと心の中で思いながら

分かった、よろしくねあっちゃんとぎこちなくなりながら言った。その後の会話はほとんど内容がなく少し歩きながら話し帰った、手紙のあかねとゆう人に会えた喜びと思いの外、優しく髪の毛が綺麗で可愛らしい笑顔が印象的だったのを家に着き思い出していた。

それからはなぜか部活に行こうと思えなく、またいつも通りのカタルシスの生活が一週間くらい続いた。

毎日のように翔と話しても飽きないのは意味がわからなかったでも絶対に飽きなかった。

時々、あっちゃんさんの話を翔に聞くとどうやら翔とあっちゃんさんは小学校の時、仲が良かったらしく、彼女が卒業してからも家が近くだったこともありたまに遊んだりしてたのだ、そして中学に入学してからも学校で会えば話をしていたのだとか、

たまたま僕と翔がいる時にあっちゃんは僕の事を知り、恥ずかしくて話しかけられなかったので手紙を書いたらしい。

謎が謎を呼んでいる気がした、なぜ恥ずかしいのにあの時は話しかけてきたのか、なぜ手紙なのか、なぜ僕なのか

まあそんな事はどうでも良かった。とにかく可愛い先輩から手紙を貰えたことが嬉しかったし、この先もう少し仲良くなれればいいなぁと呑気なことを考えていた。

雨の日々が続いたが雲の隙間から覗かせる太陽がなんだか街や学校を浄化してくれているように思えた。

気持ちのいい風が教室の窓から入り、廊下の窓から出る。夏の匂いは強くなった気がした。

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