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平穏な日々〜個性豊かな面々〜

無機質なコンクリート敷の長い廊下を抜ければ、広大な中庭と日の光が俺を向かいいれる。


学園全体の面積が巨大な為、中庭自体が恐ろしく広い。見渡す限り綺麗に整備された芝生、どこぞの公園かと思うようにベンチが所々に点在し、喫煙所も設けられている。そして、目を引くであろう、大きな桜の木が左右に一本ずつある。


右手の奥にあるのは、ソメイヨシノ。左手の奥は、シダレザクラ。


その他にも色とりどりの花が花壇を彩っていて、街路樹も設置されている。


今向かっている校舎の進行方向に合わせ、学園の外からアスファルトの広い路面が真っ直ぐにあるのだが、あれは自走用の運搬道路になる。


その幅は、大型トラックが三台並列して走行しても、尚余裕があるほどの広い道路だ。


そんな中庭を真っ直ぐ突き抜け、移動するだけでも10分くらい掛かる所にある校舎の入り口へと向かっていた。


俺達は校舎と呼んでいるが、そこは実質格納庫として使用されている。


巨大な防爆装甲壁の入り口の前に立つと、俺はその巨大さに毎回のように圧倒され、入り口の前で格納庫を見上げてしまう。


そんな風にしていたら、聞き慣れた規則正しい破裂音が聞こえ、俺はその音が近づくのを耳にしながらゆっくりと振り返る。


真っ赤な大型のスポーツタイプのバイクがこっちに向かい加速し、アスファルトの路面を真っ直ぐに進行してくる。


重厚なエンジンの音を奏でながら、俺の真横にバイクを滑らせるように急激な減速ーー


接触するギリギリのラインで、バイクは綺麗に俺の真横で停止し、エンジンを切りながら真っ黒のライダースーツを身につけた人物は、緑のヘルメットを取り外し俺へと笑いかける。


「わりいわりい、いつものように重役出勤でよ。何だ?零も今日は重役だったか?」


「……少し捕まってな。お前と一緒にするな、ろう


「ああ、姉御に捕まったのか?そりゃ災難だったな。まあいいじゃねぇか、零さっさと入っちまうか?一服してくっか?」


そう言って狼ーー中谷狼己なかたにろうきは、ライダースーツのジッパーを下ろし、中から覗くブレザーのポケットから煙草を取り出すと火をつけていく。


「そうやって、普通に火をつける辺りがお前らしいな。後で見つかったら、またどやされるぞ?」


「構うことねーよ。どうせ真面目が怒るだけだしなぁ……それよか零、どうやらべっぴんさんが来るらしいが、お前知らねーか?」


紫煙を吐き出しながら、狼はそう言って俺へと笑いかけ、俺は肩をすくめて、多分彼女の事だろうと思いながら適当に首を縦に振っておく。


「だろうな。姉御に捕まった理由はそこだろうと思ったんだよ。相変わらず女が寄ってくるからな、お前はよ」


「おい、俺は女ホイホイじゃないぞ?もう少し、普通の奴がいればいいと思ってる被害者だぞ?」


そんな俺の発言が面白いのか、ろうは笑いながら、そうだろうなぁ。と言い、煙草を地面に捨て踏み潰す。


長身の体躯が、アスファルトを踏みながら、ゆっくりと俺へと向き直る。


身長差は歴然だ。狼の身長は180センチを超えており、俺は見上げるようにしながら狼へと視線を向ける。


肌は真っ黒に焼けており、狼は島国育ちだと言っていて、あっちは日に焼けるのが当たり前らしい。


海に行きほぼ毎日のように泳いだり、釣りをしていたらしく、将来はライフセーバーか、釣りを稼業にしたかったんだぜ?と言っていたのを思い出す。


そんな夢を語った狼は、ここに来たことについては、特に何も話さなかった。


狼という人を知ると、夢を捨てた訳では無いだろうと思っているが、それが当たっているかどうか解らない。


そんな事を考えていると、狼は煙草をくわえ火をつけていて、それが実に様になっているのだ。


身長があるぶん、筋肉のつきかたも違うかもしれないが、理想的な筋肉のつきかたをしているんじゃないかと思う。


一見すれば細身に見えなくもないが、ライダースーツが、狼の体の線を誤魔化しているとも言えるだろう。


煙草をくわえながら、腕を組んで俺を見る狼の筋肉が盛り上がり、ライダースーツの胸元から覗く胸筋が、Yシャツを押し広げる。


腕も体躯に合わせたような長さはあるが、足は少し短いらしい。訓練の一貫で、長距離マラソンをした際の事を思いだす。


「もう少し足が長けりゃ1歩の違いでもっと早く終わるんだがなぁ〜ダリイわ」


そんな事を嘆いていながら、この学園の中で5番目という速さでゴールしたのは、狼の身体能力の現れだろう。ちなみに、俺は同じ時間に始めて、終わったのが昼間だった記憶は苦い思い出だ。


一般的な水準から見れば速いらしいが、最下位がほぼ確定している出来レース。これで速いと言われても、まるで実感など湧くわけがない。


「おい、零。さっきから何黙ってんだ?何か、考えてんのか?」


「ああ……悪いな。あの地獄のマラソンを思い出してな。二度としたくないなと思っていたんだ」


狼は、そんな俺の発言に顎に手を置いて思い出すような仕草をし、何か解ったのだろう。長く引き締まった胴体を揺らして頷き返す。


「ああ、あれか!あれはなぁ……森林地帯が無けりゃな。あれのせいでクソ面倒なんだよなー」


そんな事を言いながら、煙草を地面に捨てると踏み潰し、狼は穏やかな笑顔を俺に向ける。


美形と言われればその通りだが、目が少し細長いせいか、普段は一見すれば睨みを効かせているように思える。


瞳の色は茶色で、整った顔立ちに合わせるような大きさ。口は男ならではの、少々大きい感じではあるが、それは些細な事で納まるだろう。


筋肉のせいか、輪郭は少し丸みを帯びているが、全体的に見れば、それが逆に狼のこの性格に合っていると思う。


狼が手を伸ばし、金髪の短めの髪を指でつまむと、この髪型は、雑誌に掲載されていたのを思い出す。


美紀が俺の家に来た時に、あーだこーだ言っていた時に見たものだ。確か、スパイクソリッドショートという髪型。


どこぞのヤマアラシのように髪が立っていて、どうやってヘルメットを被ったまま髪型を維持しているのか?それは疑問だが、バイクを運転したことがない為そう思うのかもしれない。


狼の穏やかな笑顔を見ていると、何処かのメンズ雑誌の表紙を飾れそうな、そんな外見と印象を持ち合わせているなと思う。


俺とは違う。別の人生とか、決められたレールみたいな物が、生まれた瞬間から違うのだろう。


狼が進む道は、こんな死にに来るような道ではなく……


「零。大丈夫か?姉御の機嫌でも損ねたから、後でくるとばっちりでも考えてんのか?」


「……いや、すまない。シュミレーターの訓練をどうするか考えていたんだ。相棒が、きちんと作動すればいいんだがな」


「ああ〜桜月おうげつか。零のは、特注品だからな。どうせまた……無茶な注文でもしたんだろ?」


その問いに頷きながら、俺は、無意識に頬を指でかいていたのに気づき、さりげなく顎へと手を動かしながら、顔を防爆装甲壁へと向けるとゆっくりと壁が動き出した。


「お?珍しいな。この時間に中から人が出てくるなんてよ」


「ああ、珍しいな。何かあったのかもしれないが……」


壁が動き出すのにあわせるように、中から白煙が立ち込めーー


「くっそぉおおお!!また失敗かぁああー!!僕の何がイケナイと言うんだ!?」


「御兄様、いけないも何も……あんな無茶な機動と、近接戦闘の武装オンリーだと言うのに……遠距離武装の指示を出されては、いくらワタクシとは言え、どうも出来ませんわ」


「何故だ!?あの場で必殺技のように、華麗に一掃出来るハズだぞ!!僕には、わかるんだよ。この内なる僕の力が解放されて!!一瞬で周囲の敵を殲滅し!!華麗に爆発の中を躍り出て……そう!!僕が英雄として讃えられるのだ!!周囲の賞賛の声が、全方向から聞こえてくる。そうだ、我がマイシスターよ。耳を澄ませーーほら、聞こえるだろう?タ・フ・ガ・イ!タ・フ・ガ・イ!」


そんな声が聞こえてきて、同時に何故かーーアモーレ!の第一声に合わせ、曲が大音量で流れ出す。


「御兄様……ワタクシには聞こえますわ。ええ!御兄様を呼ぶ声が聞こえますわ!」


白煙の中を堂々とこっちに向かい歩いてくる人影は、声を聞くだけで誰だか解り、いつものように大音量で流れ出した曲のせいか、俺達は互いに顔を見合わせながらため息を吐く。


「フハハハハ!!そうだろう?そうだろうとも!マイシスター!僕を呼ぶ声が、きちんと聞こえるだろう!?ヌハハーーブゲ!?」


「うるせえんだよ!あ、わりいわりい。つい、反射的に殴っちまった……ドリル女、ボリューム落とせよ?」


「御兄様!?顔が、饅頭潰れたみたいになってますわ!ドリルって言わないで下さるかしら!?仕方ありませんわね。えっと……このラジカセも、だいぶ古くさくなってしまったから……ボリュームのつまみを動かしても、うんともすんともいいませんわ」


そう言って、目の前の彼女は、手に持った古びたラジカセのつまみを一生懸命回すが、何事もないかのように曲は流れ続ける。


ラジカセは、元は銀色をしていたのだろう。左半分くらいは銀色が褪せてはいるが残っていて、残りの半分は赤いペンキでも塗ったのか……素人まるだしの塗装が哀愁を感じさせる。


所々カセットテープが擦りきれかかっているのか、音が不安定に聞こえる辺りも、何だか妙な頑張りを見せられているようで、俺は頭をかきながら無言で手を差し出してしまう。


「……くぅ!!この!なんで言うこと聞かないのかしら!?……ハッ!!なんですの?新藤レージ?」


「人の名前をいい加減に覚えろ。田中芹深たなかせりみ、いいから貸してみろ。機械音痴何だから、ラジカセも難しいだろう?」


「その名で呼ばないで下さる!?ワタクシの名は、タナコンダ=セイン・リュ・ミサ!!そう!ワタクシの名は略してーーセミ!これがワタクシの、華麗なる英雄の名ですのよ!こんなラジカセくらい……ちょっと叩けばーー」


手に持ったラジカセを平手で殴り付ける彼女ーーせりに対して、俺は慌てたようにラジカセを掴みながら、なるべく丁寧に説明を始める。


「待て待て!そんな乱暴に叩いても寿命が縮むだけだ。いいか?ここに停止と書いてあるよな?これをグイッと押せば止まるんだ。簡単だから、次からはちゃんと押せよ?」


「……ハッ!!新藤レイイチ!不用意に近づかないで下さる!?アナタのような人が近づくと、ワタクシは……き、きんちょ、しないですわ!!バカにしないで下さるかしら!?」


意味不明だ。相変わらずの芹の発言に肩をすくめながら、俺は一歩退くと、芹は残念そうな表情になり、俺は意味が解らず、頭をかきながら隣にいる狼へと顔を向けると、狼はニヤニヤした表情をしながら俺の肩を軽く叩きこう言った。


「変人に好かれるなお前は」


「褒めてるのか?けなすなら、もっといい言葉を思い付いてくれ。俺は好かれているとは、思った事が無いがな」


「言ってろよ。零、お前はやっぱり女ホイホイだからな」


狼のそんな発言に俺は頭をかきながら困った表情をし、そんなやり取りの間に、地面に倒れこんでいた男は、いきなり起き上がる。


「おのれ!いきなり僕を殴るとはいい度胸だ!黒マッチョ!む?シーレ君か、やあ、おはよう。今日も爽やかな朝だね」


「シーレは止めれと何度言えば……いい朝だな。田中広貞たなかひろさだ


「ちっが〜う!!シーレ君よ!何度も言うがいいか、僕の名は!タナコンダ=ヒーロー・サントス・ダマスカス!!そう、これが僕の英雄の名なのだ!略して、ヒーロー!!」


「略してねえよ!!」


俺と狼は同時に声を上げ、愉快そうに高らかな笑い声を上げる男ーーほぼ全員が『タナコン』と呼ぶ強烈なインパクトの男を見ながら、俺はため息を吐き出し、ゆっくりと空を見上げる。


今日も平穏な日々だといいなと、そんな事を内心で思っていた


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