第七章 7
ベッドに横たえられた少女。
白いシルクのワンピース。月光色の髪がシーツに広がっている。
眠っているのか、瞼を閉じている。
「研究を開始しますか?」
声をかけたが、少年の視線は少女から動かない。ベッドの脇に立ち、少女を見下ろしている。レイエンはベッドの足側に控え、少年と少女を視野に入れていた。
「傷をつけるのは許さない」
少年が口を開いた。
声に、頑なな響きがあった。
「採血と細胞の採取なら傷つけるというほどのものではありませんが」
「針を刺すのもだめだ」
お気に入りの玩具を手に入れた子供が、誰にも触らせたくない――と言っているようだった。レイエンは小さく息を吐いた。
「唾液の採取は?」
少年は答えない。
「眠っている間に髪の毛をひと房いただくことは?」
「全部だめだ。出ていけ」
「髪の毛くらい、いいんじゃないかな」
声がした。レイエンは背後を振り向いた。
入口のドア近くに、すらりとした長身の男が立っていた。いつの間に入って来たのか、ドアの開いた気配さえ感じられなかった。
男は三つ揃えのスーツを身に着けていた。
派手なコバルトブルーのスーツに同色の中折帽子。ネクタイはオレンジ。サングラスもオレンジだった。気障な恰好だが、どこかしら光沢を帯びた褐色の肌によく似合っていた。
首は長く、男にしては華奢な体型である。
「誰なの? どうやってここに――」
「僕の知り合いだ」
少年が答えると、男は口許に笑みを浮かべながらベッドに近づいて来た。レイエンの横をすり抜け、ベッドを挟んで少年の対面をとった。腰の位置で上半身を折って、少女の寝顔を覗き込む。
「綺麗な髪の毛だから切りたくない気持ちもわかるけどね」
細長い指を少女の髪の毛に伸ばした。
「触るな」
「独占欲も過ぎると嫌われるよ」
「――」
「前髪を揃えると、印象が変わってそれもまた可愛いと思うけどね。見たくないかい?」
「……」
「ま。ここは、ぼうやの意向に従いましょうか。――新しいブラシを用意しなよ」
後半はレイエンに向けられた言葉だ。サングラスのせいで眼線は不明だが、貌はレイエンの方に向けられている。
「ブラシ――ですか」
敬語を使うべきか迷ったが、御子様の知り合いなら無下にはできない。
「髪の手入れはするでしょ。二、三回使った頃に回収しなよ」
意図を理解した。
「かしこまりました」
一礼して退がる。向けた背中で、
「勝手なことを」
少年の不機嫌そうな声を聴いた。
「部下には部下用の玩具を与えるものだよ」
男の声。自動で開いたドアがレイエンの背後で閉まる。閉まり切る直前、男の声が続けるのを聴いた。
「裏切る気を起こさないようにね」




