第三章 2
「オーマ」
シアが呼んだ。
シャワーは終わったらしく、下着のようなナイトウェアを着ている。濡れた髪が人魚の髪のような艶やかな光を放っているが、残念ながら半分以上がバスタオルの中だ。
シアはリビングを素通りして寝室に入った。
マンションの全室がそうなのか知らないが、シアの部屋は部屋を区切る壁は存在するが、ドアが無かった。
ソファから腰を上げ、ドウマはシアの後を追った。寝室に通じる矩形の入口で足を止める。寝室は暗く、リビングの明かりが矩形の形に寝室に差し込んでいるが、奥に置かれたベッドにまでは届いていない。
シアはベッドの端に腰掛けていた。
バスタオルはベッドの下に落ちている。
白い腕。白い足。普通なら誘っていると見るが、シアの場合は微妙だ。
「キスがしたい」
子供のように言う。
「モデルの契約で禁止されたんじゃなかったかな」
「人前では、と言ってたよ」
くすくす、と無邪気に笑う。
「ああ。そう言っていたな」
「こっち来て――」
言われるままにベッドに近づいた。
透明な眼が幼い子供のように見上げてくる。
ドウマは腰の位置で身体を折り、シアの唇に軽くキスをした。そのまま離れようとしたが、シアの手が上着の裾を掴んでいた。
「もっと」
子供が飴をねだるように言う。
あどけない貌はどこまで理解しているかわからない。
苦笑しながら、シアの細い顎に指をかけた。
シアの唇が、もっと――とねだった時の母音の形に開いている。
その唇に今度は本気で唇を重ねた。
「ん――」
シアが小さく声を洩らした。
口づけたまま軽く体重をかけると、シアの身体がベッドに倒れていく。ドウマもベッドに乗った。左膝と左肘で身体を支える。
シアの舌を捕え誘うように舌を動かすと、柔らかな舌が応えて動き始めた。
甘い匂いが鼻腔を満たす。
シアの吐息とシアの髪の匂い。シャワーの後なのに、シアの髪は蜜の匂いを放っている。
シアの舌がついてこられなくなった。
唇を離し、ドウマは身体を起こした。
「子供にはここまでだ」
「子供じゃないよ」
ベッドに倒れたままシアが言う。月光色の髪がシーツの上に広がっている。
放心したような幼い貌を見つめてから、ドウマはベッドから降りた。
「どこに行くの?」
背後でシアが言う。
「屋上で寝る。――おやすみ」




