第二章 4
「やあ。ターニャ」
シアを店の中に入れ、ドウマは扉を閉めた。
《……爆破事件において、警視庁は住所不定、無職、堂間大真(十八歳)を重要参考人として指名手配しました――》
TVのアナウンサーが喋っている。犯罪において、十六歳以上のプライバシーは保護されない。
画面に映るドウマの貌は昨夜のものだった。強化人間のカメラ・アイを通したものだ。提供者はクジ以外に有り得ない。
(やってくれる)
唇の端を上げた。
「さっきから何度か繰り返しているわ。テロ組織にでも就職して?」
カウンターでターニャが口を開いた。煙管をふかしながら笑っている。
ドウマも愉しそうな笑みを浮かべた。
「それなら霞ヶ関でも狙うさ」
シアの背中に軽く触れ、カウンターの前にシアを連れて行く。シアは物珍しげな視線を店内に巡らしていたが、ドウマに導かれるまま椅子に腰かけた。
ターニャの眼がシアに動き、ドウマに戻った。
「年下の連れなんて珍しいわね。爆破事件に関係があるのかしら」
「ああ。調べてもらいたい男がいる」
シアの隣に腰かけながら言う。
「男?」
「名前はクジ。強化人間。たぶん軍人か元軍人だろう。戦術に長けている。シア――この少女だが――を狙っているが、おれが邪魔した途端に爆破事件の容疑者にしてくれた」
「ははん」
「おそらく警察も動かせるはずだ。警察の対応が早過ぎる。おれの個人情報を即座に引き出してきたことから、それなりのパスコードを持っていると考えられる」
向こうが会話からドウマの思考パターンを読み取ろうとしたように、ドウマもクジの情報を読んだ。
「愉しそうね」
ターニャの指摘に、ドウマは口の端で笑った。
――貴様は危険を好む傾向がある。
クジの分析が合っているなら、自分はこの状況を危険だと認識しているわけだ。
「セキュリティレベルは高いぞ。できるか?」
「誰に言ってるの?」
ふっ、と紫煙を吐いて、ターニャが笑う。ドウマは、に、と笑った。
「情報はおれの端末に送ってくれ」
「いいわ。それより――」
ちろり、と白い眼がシアを見る。
「ああ。紹介しよう。シア・ラヴィア。おれの『主人』だ」
「な――」
「主従契約だ。下僕の誓約をした」




