第八章 27
「ユカ、ミカ、エリカ――か」
シアの横に坐りながら、ドウマは呟いた。
頭文字を繋げれば、ユ・ミ・エ――になる。
このモデル達の名前を見つけてあいつは何を思っただろうか。
「なあに?」
「イツキがどうしてこの事務所を選んだかと思ってね」
「イツキ? だあれ?」
シアが小首を傾げる。
「弟だ」
「オーマの?」
「ああ。誰よりもおまえの幸せを願っていた」
「シアは幸せだよ」
にこり、と笑う。
「シアの中には好きなものがいっぱいあって、そのことを考えると身体がふわふわする。これは幸せだからでしょう?」
「そうだな」
あどけない貌を見つめる。幸せな子供のような貌だった。
「シア――」
「なあに」
「種を作らないか」
シアの眼が少しだけ大きくなった。
「花鬼は花と同じだ。大人になれば一年で枯れる。だが種を作れば、もう一度生まれてくることができる」
「……」
シアは無言だった。
子供のような貌は、どこまで理解しているのかわからない。
「子供の姿で生まれ、そのまま十数年かあるいはそれ以上を過ごし、誰かを愛して大人になる。そしてまた種を作って、生まれてくる。それを永遠に繰り返す。そういう生態だ。……言っていることがわかるか?」
こくん、とシアは頷いた。
ドウマは小さく息を吐いた。
「頼む。おまえをこのまま枯らしたくない」
シアの手がドウマの胸に触れ、小さな頭が、こつん、とドウマの胸に額をつけた。
「シアが子供になったら、オーマが育ててくれる?」
「おう。欲しいものは何でも与えてやる」
「オーマはいっぱい甘やかして育てそうだね」
くすり、とシアは笑った。貌は見えなかったが、シアの声は笑いを含んでいた。
「子供には甘いらしいからな」
「女にも甘いってターニャさんが言っていた」
「あー。それはあるかな」
「年上が好きだって伯爵さんが言っていたね」
「そんなことを思い出すな」
くすくす、とシアが笑う。
「もう一度生まれてシアが大人になったら、また愛してくれる?」
「ああ。そうしてまた種を作って、何度でも生まれて来ればいい」
「ずっとオーマが一緒にいてくれる?」
「ああ――」
「……」
シアの身体が微かに震えた。
「シア?」
「……うれしくて、震えたみたい」




