第二章 3
《……昨夜未明、ヨツハ商事のビル屋上で発生した爆破事件において――》
三次元に投映されたTV画面で、バーチャルアナウンサーがニュースを読み上げている。
薄暗い空間であった。
壁と天井をTV画面の青い光が照らすともなく照らしている。
漂う紫煙と酒の匂い。
Barであった。カウンターの後ろの壁には棚が設けられており、酒のボトルとグラスで埋め尽くされている。
店内にはテーブル席が三つとカウンターに五脚の椅子。それほど広い店ではない。
カウンターの中に女が立っていた。
背の高い女だった。細い首。細長い腕。
細い指は金色の煙管を持っている。そこから漂う紫煙。
褐色の肢体に足首まであるオリーブ色のチャイナドレスを着ている。スリットが入り、左脚はほとんど足の付け根あたりまで見えている。
髪の色はわからない。細かな宝石のついた金色の布を頭に巻きつけているからだ。
額には赤いビンディ。
アイシャドウで彩られた切れ長の眼は、虹彩が白色だった。
縦に細長い瞳孔が、眼の中に生じた裂け目のようである。人間の眼ではない。
その眼が入口に向いた。
ほぼ同時に入口の扉が店内側に開き、若い男と少女が現れた。
男は一九〇センチに近い長身である。艶やかな黒髪。精悍な貌。少女は人形のように整った貌だった。月光色の髪がゆるやかに波うちながら腰まで伸びている。
女の白い眼が、妖艶な笑みを浮かべるように細くなった。
「いらっしゃい。オーマ」
ちろり、と蛇のように笑って、女は言った。




