第八章 2
一週間が過ぎた。
魔物と人間の衝突は起こらなかった。
人間を支配する魔物――その情報に一時は緊張状態に陥った両者だが、そんな魔物が存在するなら、とっくの昔に人間を滅ぼそうとするのではないか、そう疑問視する声が上がり、両者の緊張は急速に緩み始めていた。
コントローラが少女という話も、眉唾感に拍車をかけた。
それほどの魔物が少女の下僕になるのか? 有り得ないだろう、という声が大勢を占め、結果、ドウマとシアの存在は都市伝説のようなデマだと片付けられようとしていた。百歩譲ってそんな魔物がいるとして、少女趣味の変態がどれほどのものだというのか――
そこまで聞いて、ドウマは久方ぶりに声をあげて笑った。
「笑いごとじゃないわ」
「そうだよ。変態呼ばわりされて平気なの?」
「問題視するのはそこじゃないわよ」
「計画を立てたのはおまえ達だ。おれの知ったことじゃないが。なるほど。客観的評価はそうなるのか」
くっくっ、とドウマは喉を鳴らした。
シアは眠っている。起きていれば、間違いなく変態ってなあに、って訊いてくるだろう。
「そう言えば、シアの記憶、変人がどうのってやつ。どこから持ってきたんだ。ユミエの記憶とは思えないが」
「映画だよ」
イツキが口にしたタイトルは明らかに官能系だった。
「初対面の男を下僕にするには、それなりの理由が必要だよね。ラヴィアも納得するような。だからちょっとエロくて変わった『母親』のせいにしたんだよ」
「子供の発想じゃないな」
「僕を子供扱いしないでくれる?」
「兄弟喧嘩はそこらへんにして。本題に戻るわ」
ターニャが口を挟んだ。
「要はデマじゃないって証明すればいいのよ。オーマに軍事基地のひとつやふたつ潰してもらって……」
「断る」
「なんですって」
「シアから離れない」
「ちょっと。ぼうや」
「僕をぼうやと呼ぶな」
「イツキ君。オーマに言うこときくように言ってやって」
黒い眼が暗い光を放って、ドウマを見つめた。
「ラヴィアが種を作るまでは兄さんの好きにさせる」
「賢明な判断だ」
口の端でドウマは笑った。
「ちょっと。ちょっと。ああ、もう。じゃあ、離れずに破壊できれば文句ないわね」
「連れて行く、というのも論外だ」
「教団の施設を潰していた時は連れ歩いていたじゃない」
「あの時とは状況が違う。今はあらゆる危険から遠ざけておきたい」
「わかったわよ」
罵るように、ターニャが息を吐いた。




