弾けろ財産! ネオ・アロンダイトさん!
※ 本作は、ワタユウさんの著作「吼えろ聖剣! エクスカリバーさん!」の二次創作です。
※ ワタユウさんの許可をいただいて執筆、投稿しております。
戦場帰りの女の子、久部霧子はある日上司に呼び出される。
彼女に差し出されたのは、伝承の魔剣を現代科学で補修した電脳魔剣ネオ・アロンダイトさん。
だが、それを使いこなすのに必要なのは、おカネのチカラであった!
「君は、スーパー聖剣&魔剣大戦というものを知っているかね」
会長室に呼び出された久部霧子は、そんなことを尋ねられた。
萱葺ファウンデーション。世界にその名を轟かすマジぱねぇ財団法人である。やってることは怪しいが社会貢献もバッチリこなす絶妙なバランス感覚で、世間の評価は概ね悪くない。一部のネットコミュニティでは、会長たる萱葺新八郎氏がオカルトに傾倒していてヤバいという噂が広がっていたが、まぁ、それでも、世間の評価は概ね悪くない。
霧子の目の前にいるのが、萱葺新八郎である。
身長250センチ、体重180キロ。凄まじい巨躯を誇るムキムキのマッチョメンであり、法人の長なんかよりも格闘家の方が向いているのではないかというほどの肉体美を誇る。顔は爽やかな好青年であり、メガネがとても似合うという不釣り合いっぷりは、おおよそバランス感覚に優れた萱葺ファウンデーションの会長とは思えないほどアンバランスである。
「存じ上げません。新作のアニメか何かですか?」
「現実に存在するイベントだよ。神話や伝承に残る様々な神剣、聖剣、魔剣、名剣が集い、己が主と共に戦い、この世界でもっとも強き剣を決める」
「はぁ」
霧子には学がない。何しろ幼い頃から紛争地帯で育ち、炎の匂いが染み付いた青春時代を過ごしてきたのだ。ようやく故郷である日本へ帰国でき、運良く萱葺ファウンデーションなどという大財団に就職でき、もう今年で18になるが、そろそろガチで女の子らしい暮らしができるのではないかと、無表情ながらも密かに心を躍らせている。貯金もいっぱい出来た。これでカワイイ女の子っぽい服とかたくさん買って、きゃぴきゃぴした生活を送るのだ。
話がそれた。
とにかく、霧子はそんな感じの子なので、萱葺新八郎の言っていることはマジなのかジョークなのかよくわからない。そういうものなのかな、と思ってしまう。
「私は若き頃にこの一大イベントの存在を突き止め、それに一枚噛みたいとずっと思いながら青春を過ごしてきた」
「虚しい青春ですね」
「日々を戦火に巻かれた君に言われるといろいろ辛辣だな! まぁ話を続けよう。大学時代、イギリスに留学した私は、暇を見つけては遺跡調査の末、とうとう一本の魔剣を発見し、持ち帰ることに成功した」
「泥棒ですね」
「大事の前の小事だよ。だが、魔剣は損傷が激しく、力を失っていた。私は現代科学の力で魔剣を補修したのだ。見たまえ、これこそが、かつて円卓の騎士サー・ランスロットがその手にし、親友ガウェインの弟を切り殺したことで魔剣に堕し力を失い、そうしてまた、現代に蘇った神秘の剣―――、」
萱葺は、自分の机の前までバタバタと駆けていき、ご丁寧にかぶせられていた赤布を、ババッと引っペがした。
「電脳魔剣、ネオ・アロンダイトさんだ!」
そこには、ガ○プラみたいな小さなロボットが、見事なカトキ立ちで静止していた。
事ここにいたり、ようやく霧子も自分が担がれているのではないかと思い始めた。腕時計を確認して、いわく。
「あの、私帰っていいですか? そろそろスイーツ食べ放題の時間が……」
「君はそうしてまた無理にカワイイ女の子みたいなイベントに参加しようとして! そういうのはチーズケーキとモンブランの区別がつくようになってから言いたまえ!」
「………」
図星を突かれて霧子は黙り込む。この間はじめて、ショートケーキとチョコレートケーキの違いを理解したばかりなのだ。
「そもそもこれ、剣じゃないじゃないですか……」
「スーパー聖剣&魔剣大戦に参加する神剣の類には、人の形を模した精霊に変化する力が付与されるのだよ」
「人の形じゃないじゃないですか……」
「うむ。現代科学のチカラで魔剣を補修したら、精霊の方にもフィードバックされてしまったようだね?」
小さなロボット、萱葺の言うところの電脳魔剣ネオ・アロンダイトさんは、片手をあげ、その双眸をギュピィンと光らせた。
『オハヨウゴザイマス、マスター』
「あ、おはようございます」
さっさと日本の平凡な女の子として暮らしたい霧子には、挨拶をされたら反射的に深々とお辞儀をしてしまう習性がある。
が、ここでふと、彼女はネオ・アロンダイトさんの言葉に不吉なものを覚えた。
「マスター?」
「ああん、ネタばらしが早いなぁネオ・アロンダイトさんは」
萱葺はマッスルの上に築かれた柔和な顔立ちを歪め、言った。
「さて、いよいよ本題なのだが、久部霧子クン」
「嫌です」
「まぁそう言わずに」
「嫌です。もう戦うのは、嫌です」
絶対、このネオ・アロンダイトさんを自分に押し付ける気だ、と、霧子は思った。そしてスーパー聖剣&魔剣大戦に身を投じろと。萱葺新八郎はそう言っているのだ。冗談ではない。
もう戦いとはオサラバしたのだ。アフガンで米軍やテロ組織と戦う日々は終わった。振り向けば蘇る悪夢。だがもう、オサラバは言ったはずなのだ。別れたはずなのである。盗まれた過去などくれてやるので、もう戻ってこないで欲しい。地獄を見ればいろいろなものが乾くし、戦いには飽きたのだ。
「久部霧子クン、私が何のために、君を萱葺ファウンデーションに採用したと思っているのかね」
萱葺は顔をしかめたまま言う。
「今の君の仕事を言ってみたまえ」
「廊下の隅のシミを数えることです」
「そんな我社には何の利益もない仕事を今まで任せていたのは、今日この日、すなわちネオ・アロンダイトさんが完成する日を待っていたからなのだ! 中東地帯で無敵とうたわれたパーフェクトソルジャー、久部霧子クン! ネオ・アロンダイトさんは、君がここに来るはるか以前から君を主と選んでいたのだよ! サダメとあればココロを決めたまえ!」
霧子は、その滅多に変化させることにない表情に、わずかに怒りの色を浮かべる。
「会長、私は……」
『オハヨウゴザイマス、マスター』
「あ、おはようございます」
空気を読まないネオ・アロンダイトさんに、丁寧にお辞儀をする。
「そして、このネオ・アロンダイトさんの性能だが」
「あ、勝手に話を進めるんですね」
「私の中では受諾してもらうことが決定事項だからね。やはり聖剣から魔剣に堕落したことと、過去の戦いによる損壊で、その力をかなり失ってしまっている。だが私はここに、現代科学の叡智と神の力を注ぎ込んだのだ」
「はぁ」
「残念ながら我々の科学力では、例えば魔力のような未知のオカルトエネルギーを完全再現できない。それでは並み居る聖剣、魔剣には太刀打ちできないだろう。だが私は代わりに、神の力、すなわち信仰の力を代替エネルギーとしてこのネオ・アロンダイトさんに消費させる手段を思いついたのだ」
「なんですかそれは」
『オハヨウゴザイマス、マスター』
「あ、おはようございます」
萱葺は重々しく頷いて、続ける。
「この世界で生きる人々が、もっとも信仰しているモノを与えるのだ。まさしく現代社会にあるべき神の姿。万国共通の信仰の対象」
そう言った萱葺は、右手の人差し指と親指で下品なハンドサインを作る。
「すなわちおカネだよ」
萱葺はスマートフォンを取り出す、その画面を霧子につきつけた。どこかの銀行口座の残高履歴らしいが、今のところ口座の残金はゼロ円だ。名義を見ると『電脳魔剣ネオ・アロンダイトさん』とあった。
「この口座に振り込まれたおカネこそが、ネオ・アロンダイトさんの純然たるパワーの源となるのだ。パワーが消費されればおカネも消費されるので、定期的に資金を投入し続けなければならない。もちろん費用は我が萱葺ファウンデーションが全面的に負担する。やってくれるね?」
「嫌です」
萱葺新八郎会長は、泣きそうな顔を作った。
「そんなことを言わないでくれ。私は今まで何のために君に、廊下の隅のシミを数えさせてきたんだ……」
『マスター、』
会長を無視して部屋を出ようとした霧子だが、不意にネオ・アロンダイトさんが声をかけてくる。
初めて聞かされた挨拶以外の声に、霧子は思わず振り返ってしまった。
机の上でカトキ立ちしたネオ・アロンダイトさんは、目をチカチカさせながら問いかけを続ける。
『マスター。マスターハ、ワタシノコトガ、オ気ニ召サナカッタノデショウカ?』
「そういうわけではないけど……」
『マスター、ワタシニハ、コノ戦イヲ通シテ、会イタイ友ガ2人イマス』
「お友達?」
足を止め、とうとう身体ごと振り返ってしまう。萱葺会長がニンマリと笑っていたが、無視した。
『エクスカリバート、ガラティーン。カツテ共ニ円卓ノ騎士タチノ剣トシテ戦ッタ戦友デス。ワタシハガラティーンノ主、ガウェインノ弟ヲ斬リ、今ハ魔剣トナリマシタガ、一度デ良イ。会ッテ話ヲシタイノデス』
「………」
轡を並べた友。それは決して、霧子にも無関係な言葉ではない。
心の乾いた戦場で、彼女を僅かにでも潤し、人間性を保たてせてくれたのは、やはり戦友であった。自分より一回りも大きく、歳と経験を重ね、頼れる仲間たちだった彼らは、もういない。過酷な紛争の中で、霧子はすべての戦友を失った。
カワイイ女の子らしい生活を求める理由の半分は、それが彼らの望みだったからというのもある。キリコには銃より花が似合うと言ってくれた彼らの気持ちに報いたかった。
そうした友が、ネオ・アロンダイトさんにもいるというのだろうか。
しかし、またその身を戦場に投げ込むというのは、
霧子には逡巡がある。
「さぁ、どうするかね。久部霧子クン」
「私は……」
霧子が、回答に迷っていた、その時である。
けたたましいサイレンの音が、会長室に響き渡った。緊急事態を告げる赤色灯が光り、いきなり室内を赤く染め上げる。霧子が萱葺ファウンデーションに就職してから、こんなことは一度もなかった。
過去の経験からそううろたえることのない霧子だが、状況はすぐには飲み込めない。
「会長、これは……?」
「来てしまったようだな。ほかの聖剣&魔剣使いだ! 私がイギリスからアロンダイトを持ち去ったという情報は、しばらく前に何者かにリークされた痕跡があったが……やはり、来たな」
萱葺会長は受話器を取り、ビル内の各部署に内線をかけた。『各ブロック閉鎖、シャッターを下ろせ!』『なに、シャッターが突破された!?』『カヤブキ・ガーディアンズを……か、壊滅だと!?』『奴は今どこにいる!?』『最上階!?』『会長室の前だと!?』というやり取りを経て、重厚な扉がぶち破られる。
『展開早イデスネ』
「そだね……」
わかりやすいのは、いいことではないか。
そこに立っていたのは、煌びやかな剣を携えた、一人の男である。彼が聖剣&魔剣使いであることは明白だ。ビル内の並み居る防御システムを次々突破してきたことから考えて、人一人を容易に殺傷しうる能力はあると考えて良い。
どうすればいいか。霧子は迷った。迷ったが、すぐに覚悟を決めた。
手を伸ばした先にあるのは、ネオ・アロンダイトさんではない。自らの懐である。そこから一丁の自動拳銃を取り出し、グリップを握り、引き金に手をかけるまで、わずか1秒にも満たない。
放たれた鉛玉は、見事に男の脳天に命中し、その内容物をぶちまけた。萱葺会長がひゅう、と唇を吹く。
「見事だ。何故カワイイ普通の女の子に憧れる君が、この平和な法治国家でグロック19を持ち歩いているのかという疑問はさておいて」
だが、と、萱葺は言った。
「聖剣&魔剣使いというものを君は侮っている。特に、その男の使う剣、それは……」
「………?」
霧子は訝しげに思いながらも、グリップから手を離さない。
直後、男はゆっくりと立ち上がった。弾けとんだ顔の上部が、じわじわと再生していく。霧子は目を剥いた。辛うじて、彼が決して死んでいないのだということを理解する。人体の急所が、急所たり得ていない。
『これこそが私の力……! 私の力ある限り、我が主は不滅!』
声は、男の握る剣から聞こえたように思う。男もまた、顔の再生を完全に終え、にやりと笑った。
「そう、エクスカリパーがある限り、俺は決して死なねぇし負けねぇ!」
「ネオ・アロンダイトさん、エクスカリバーだって」
『エクスカリパーデス。マスター、ニセモノデス』
ネオ・アロンダイトさんが冷静に答える。これが聖剣&魔剣なのか。現代兵器が通用しない。霧子の頬を、つー、と汗がこぼれ落ちた。
エクスカリパーを携えた男は床を蹴り、霧子に肉薄した。人体のなしうる限界速度を凌駕した動き。その斬撃に霧子が辛うじて反応を間に合わせ、回避に成功したのは、戦場で積み重ねた経験の賜物にほかならない。少しでも遅ければ、彼女の首はあえなく宙に飛んでいたはずだ。
男はハイテンションに叫び声をあげた。
「ハッハァ! アロンダイトのマスターは活きが良いなぁ! つぶし甲斐があるぜぇ!」
霧子は避けた先で両手を床に突き、それをバネとして萱葺会長の机の前まで跳ぶ。すぐ後ろには萱葺新八郎、そして電脳魔剣ネオ・アロンダイトさんがいた。ネオ・アロンダイトさんは、両目をチカチカ光らせて語りかけてくる。
『マスター、ワタシト契約ヲシテクダサイ』
「契約……?」
『マスターヲ、ワタシノ正式ナ使用者トシテ認識スル儀式デス』
しかし、それを認めるということは、萱葺会長の思惑通りになるということではないのか。スーパー聖剣&魔剣大戦に身を投じるということになるのではないのか。霧子の脳裏に、あのアフガニスタンの戦火が蘇る。あのおぞましい、炎の記憶が蘇る。
いや、
どのみち、ここで剣を取らなければ負けてしまうのか。霧子は頷いた。
「わかった、やる」
「素晴らしいィッ!」
「会長は黙っていてください」
ネオ・アロンダイトさんの瞳がブォンと輝き、空中に立体映像が投影される。その長ったらしい文章に、一瞬、霧子は辟易とし、エクスカリパーのマスターを見た。彼は入口で剣を弄びながらこっちを見ている。
「契約か? いいぜ、しろよ。そのほうが楽しめそうだ」
「あ、うん。どうも」
霧子は立体映像に視線を戻す。そこには『契約同意書』とあった。
『コノ契約内容ニ納得デキル場合ハ、同意ボタンヲ……』
押した。読んでいる暇はない。いつ、エクスカリパーのマスターが心変わりを起こすかわかったものではないのだ。その瞬間、電脳魔剣ネオ・アロンダイトさんの身体が薄い輝きを放ち始め、ゆっくりと宙に浮かび上がる。
『久部霧子ヲ、正式ナマスタートシテ認証シマシタ。新タナ脅威目標ヲ認識シ、魔剣フォームヘト、スタイルシフトシマス』
がきょいん、がきょいん、という音がして、ネオ・アロンダイトさんの身体が変形を始める。やがてそれは、質量保存の法則をはじめとした様々な物理学に真っ向から喧嘩を売るような過程を経て、ひと振りの剣へと姿を変えた。
魔剣の名に相応しいミステリアスなフォルムに、近未来的な金属パーツが付随している。空中に浮かんでいたそれに、霧子が手を伸ばすと、確かな重量をもって彼女の手に吸い付いた。
「これが、電脳魔剣ネオ・アロンダイトさん……!」
「ハッハッハ、サマになったな! マスター同士の戦いはこうじゃねぇとなぁ!」
男はやかましい声で床を蹴りたて、霧子に迫る。横薙ぎの一撃をしゃがんでかわし、霧子はネオ・アロンダイトさんを逆袈裟に振るう。刃が肉を掠める、確かな感触があった。だが、男はひるまない。
「なんだぁ? それであの有名なアロンダイトなのかぁ!?」
エクスカリパーが、頭上から勢いよく振り下ろされた。ネオ・アロンダイトさんを盾代わりに受け止める。剣を伝っての振動が、霧子の腕を痺れさせた。
「霧子クン、これよりネオ・アロンダイトさんの銀行口座に振込を行う! まずは1万円だ!」
萱葺会長は叫びながらキーボードに指を走らせ、エンターキーを押す。その瞬間、ネオ・アロンダイトさんの剣身が輝きを放ち始めた。光は霧子の身体にも逆流し、途端に、身体が軽くなるような感覚を覚える。霧子は腹筋と背筋のバネだけで上体を起こし、受け止めたエクスカリパーごと男を押し返した。
『コレガ聖剣&魔剣ノ力デス。マスター』
ネオ・アロンダイトさんが言う。
『1万円分ノパワーガ今ワタシニ宿リ、ソノ10%ガマスターニモキャッシュバックサレテイマス』
「現金でもらうことはできないの……?」
『残念ナガラ不可能デス。ポイント還元ノヨウナモノデス』
霧子は左手で剣を構え直し、右手で再び拳銃を握った。重く大振りなネオ・アロンダイトさんも、力がキャッシュバックされている状態なら片手で振り回すことが可能だ。
牽制目的で引き金を引く。床に敷かれた高級な絨毯に次々と穴があいていく。だが、男はエクスカリパーを構え、迷うことなく突撃してきた。
「いきなり強くなったが、まだまだ効かねぇぜぇっ!」
「ええい、ならば次は10万円だ!」
萱葺会長の叫びと共に、ネオ・アロンダイトさんはその輝きを増す。同時に、霧子の身体もさらに軽くなる。突っ込んできた男の刃を片手で迎撃し、そのまま拳銃の銃身で思いっきり横っ面を殴りつけた。男が吹き飛ぶ。口内から何本かの歯が砕けて、飛んだ。
「会長、戦力の逐次投入は基本、愚策です」
霧子は拳銃をしまい、両手でネオ・アロンダイトさんを構えて言う。
「一気に畳み掛けます」
「そうか、わかった! ならば初陣だけに、豪華に1億ぶち込んでみるか!!」
萱葺の言葉には、ちょっぴり狂気が混じっていた。さすがにそれはやりすぎでは、と思った霧子が振り向くと、まさに萱葺新八郎が、その人差し指をエンターキーにかけんとしているところであった。
直後、ネオ・アロンダイトさんの剣身から、凄まじい光と熱のエネルギーが放出される。光はやがて会長室全体を覆い尽くし、物理的な破壊力を伴ってビル全体に伝播した。日本が世界に誇る超巨大財団法人萱葺ファウンデーションの本部ビルが、倒壊を始める。光の余波はそれだけに収まらず、周囲のビルにまでくい込んだ。
その日、新宿オフィス街の一区画が消滅した。
萱葺ファウンデーションは倒産し、日本の経済は長期にわたり回復不能と思われるほどの重傷を負った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
けしかけたのは自分だ。半分ほど、自分に責任がある。
ボロアパートの一角で、ちゃぶ台の上に置いたネオ・アロンダイトさん(ヒューマノイドフォーム)を眺めながら、久部霧子は思う。あの後も、萱葺新八郎の行方はようとして知れない。萱葺ファウンデーションは倒産し、あれ以来、霧子の銀行口座には給料が振り込まれていない。
霧子は、スーパー聖剣&魔剣大戦に本格参入する決意を固めた。ネオ・アロンダイトさんの戦友を探す目的と、もうひとつ。勝ち抜くことで得られるという『なんでも願いを叶えてもらう権利』を手に入れるためだ。ひとまず、ぶっ壊れた新宿のオフィス街を元に戻すにはそれしかない。
ただ、ひとつだけ問題があった。
カネである。
電脳魔剣ネオ・アロンダイトさんのエネルギー源はカネだ。少なくとも、1度につき1万円から10万円チャージしなければまともな戦闘を行えない。霧子は現在、日々アルバイトを掛け持ちすることで生活費を稼ぎ、カワイイ普通の女の子ライフのために貯めていた貯金を、泣く泣く切り崩しながら戦いに臨んでいる。
押し入れの中で埃をかぶっていた拳銃やら、アサルトカービンやら、そうしたものもまた、戦いを有利に導いてくれる道具である。これらを売っぱらえばまとまったカネも手に入るだろうが、アシのつかないルートに霧子は心当たりがなかった。
どのみち、自分は武器を捨てられないし、カワイイ服も買えないし、未だにモンブランとチーズケーキの区別はつかない。普通の女の子としての人生は、程遠く、今もまた離れつつある。
『マスター、』
ちゃぶ台の上で、ネオ・アロンダイトさんが言った。
『付近ノ公園デ戦闘ノ気配ヲ探知。オソラクハ、聖剣&魔剣使イデス』
「最近、サイクル……早いね……」
霧子は小さくため息をつき、立ち上がった。ネオ・アロンダイトさんもピョンとちゃぶ台を飛び降り、そのままバーニアスラスターを噴かせて霧子の肩にちょこんと乗る。
霧子は押し入れを開けると、自動拳銃を懐にねじ込み、アサルトカービンを肩にかけ、弾薬を身体に巻いて、出かけの準備を整えた。このやたらと硝煙臭いアイテムの数々が、おしゃれなハンドバッグや化粧道具になるのは、いったいいつの日なのだろうか。
『エクスカリバーカ、ガラティーンダト、イイノデスガ……』
「そうだね……。そっちも、探してあげないとね」
肩に乗っかったまま呟くネオ・アロンダイトさんに小さく答えて、霧子は家を出た。
二次創作を快く許可してくれたワタユウさんに精一杯のありがとうを!
エクスカリバーさんの二次創作はまだまだたくさんあるぞ! 本編と一緒に広がっていくエクスカリバーさんワールドを堪能しよう!