表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

Desk Letter

作者: 〇三一六

 また今日もけだるい授業が始まる。別にやりたい事があるからこの授業を受けている訳ではない。あくまでも単位のためだけにこの授業を選んだだけだ。出席さえすれば単位をもらえるなんて甘い考えがいけなかったと今になって後悔している自分がここにいた。

授業がつまらないとは言えども、座席は1番後ろの窓際なのと、うるさくしてさえいなければ寝ていても怒られることはないというのがこの授業の数少ない長所だろう。

 初老の教授が淡々と授業を進めているころ、いつも僕は教授の声を子守唄にして睡眠学習に入るのだが、今日はいつもと違ってなかなか眠りにつけない。そのときはずっと街の背景が空の青から茜色に変わり行く様をボーっと眺めているのだが、今日の曇り空を眺めていても面白くもない。

仕方がないので今日は真面目に授業を聞こうと思っても、普段聞いていないせいか、何がなんだかさっぱりわからない。

 こんな日は途中でサボるに限ると思った僕は配布されたレジュメをファイルに綴じて帰り支度をすることにした。

レジュメをどけると、机のどこの誰かが書いたのかわからない落書きが目に入る。その落書きはあるキャラクターであったり、くだらないメッセージであったりと授業が退屈なのは僕以外にもいることがよくわかる。

 そして数ある落書きの中のひとつに僕は心惹かれてしてまった。どうして惹かれてしまったのか僕にもわからない。ただ「お話しましょう」と女性らしい丸みが帯びたきれいな文字が僕の中の何かを刺激したことは確かだ。

気がつけば僕は帰り支度を済ませたかばんをひとまず机の上から再びいすの横に置いてシャープペンを手に取っていた。

 このメッセージを書いた人はきっと流れるような黒髪の可憐な女性なのだろうとつまらない想像を脳内に駆け巡らせながら、「僕でよければお話しませんか」と僕は淡い期待とともに無機質なプラスチックの長机にシャープペンを走らせた。だがそれと同時に、冗談交じりのおふざけではないだろうかと言う不安が無かったと言えばそれは嘘になる。


 淡い期待と不安とともに気がつけば1週間が経っていた。あいかわらず無機質のプラスチックの長机にはシャープペンの落書き。もちろん僕が心惹かれたあのメッセージも、それに対しての僕の返事も。

見ると、僕のメッセージか矢印が引かれてあり、「私は心理学部の2回生です。よろしくね。あなたは?」というメッセージがあった。もちろん筆跡もあの人のものだとすぐに分かった。

学部は違えども二回生といえば僕と同い年。すぐに僕は「僕は人文学部の2回生です。こちらこそよろしく」と直ぐに返事を返した。


 それからというものの、僕とあの人のメールとは違うメッセージのやりとりを毎週のように交わす。「あの人は僕のメッセージを見てくれているのだろうか」という返事を知りたくても知れない不安とどのような返事が来るのかという楽しみは文通に似通ったものがある。


 メッセージの内容はこの1週間何が起きたのかを書いてそれについてのメッセージを書いて、また日記を書くという繰り返しというような交換日記を机で繰り広げられていた。

やがて机が黒鉛色に染めてしまうと、今度は付箋を机の中に貼り付けてメッセージを交わすようになっていった。付箋になると、あの人のメッセージも女の子らしく色とりどりのペンであしらったメッセージになっていた。そして僕のメッセージも自然とシャーペンだけの殺風景なメッセージから色ボールペンでカラフルに仕上げたメッセージに変わっていた。


 時は流れ、前期もそろそろ終わりを告げようとしている。週を重ねる度に、僕のあの人に対する想いも強くなって来ている。1度会って話をしてみたい。そんな気持ちが僕を支配する。 前期の授業の最終の1週前。僕は意を決して「来週の火曜日の夕方、キャンパスの噴水の前で会いませんか?」とシャープペンだけで書いたシンプルな付箋をまたいつものように机の裏に貼り付けた。貼りつけようとする手が緊張して震えている。心臓の鼓動が体中を伝って細かく僕の体を脈を打つのが分かる。付箋を貼り終えても、家に帰っても、そして1週間経ってもずっと早いテンポで僕の心臓が脈を打ち続けた。


 そして前期の最終週。机の裏にはあの人の付箋も、僕の付箋も何も無かった。この時点で僕の恋は終わったと悟ればよかったのだが、この事実を認めたくない思いで僕は授業が終わってから直ぐにキャンパスの噴水へ一直線に向かった。キャンパスには付箋が1枚。それにはこう書いてあった。

「私も会いたいけれど、ごめんなさい。あなたに会うことができません。いままで楽しかった です。ありがとう。」

と。

茜色に染めた空は僕をむなしく照らす。

あの人は誰なのかまったくわからないまま、メッセージはこれを最後に途絶えてしまった。

本当に失恋したのか、それとも幻なのかもすべて分からないまま。


すべては夏の夕暮れに消えた。


はじめまして。

机の落書きを見ていたら、この話がすぐに浮かんできました。

他にも小説っぽい文章を書いたりしているんですけど、恋愛のジャンルは初めてで、あえてチャレンジという意味も込めて初投稿作品は恋愛(?)の短編を書いてみました。




またネタが浮かんだら不定期に小説を書いていくと思いますのでよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 二人が出会わないこそのラストはよかったと思います。 [一言] がんばれ
[一言] 机の落書きといえば、自分も学生の頃には書いていたし、面白いものがあれば素直に笑ったりしていました。 そんな過去へとすっと回帰するような感触を抱きながら読ませていただきました。 二人が出会って…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ