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「自分」を知る

ふわふわのベッドが気持ちいい。

あの埃臭さは大分消えたけど、あれはあれで懐かしい感じがして嫌いじゃなかったんだよなあ。

「ねぇ、ルカ?」

「…何?」

新しく備え付けられたベッドにダイブしていたルカに話しかけた。…って、はしゃいでる?

「…テンション高いね?」

「あ、いや、別に?」

ルカが恥じるようにベッドでうつ伏せになった。恥ずかしがることなのかな…

あ、わかった。素直じゃないんだ。

「ユラ、だっけ?何だよ」

「ん?いや、…ルカって畑仕事できる?」

「…ハタケシゴト?」

「うん。…もしかして、知らない?」

「うん」

「洗濯は?」

「知らない」

「皿洗いは?」

「知ら…あー。えっとね、セカイに訊けばわかるけど。でも今は面倒くさい」

…あ。

ルカも、できるんだ。セカイに訊ねることが。

このセカイを理解す()ることが。

そしてふと思い出した。唯一、セカイに訊ねても教えてはくれなかった、ぼくがずっと知りたいと思っていること。

ぼくはそれを、ルカに訊いてみることにした。

「ねえ、じゃあルカは自分について…何か、わかる?」

「自分についてって…」

ルカは戸惑ったように眉根を寄せた。

「自分ができることについてはわかってるつもりだけど。あと知ってるのは、…おれ達がどうやって生まれたのか、とか?」

「ーえ」

うそ。

「し、知ってるの!?教えて!」

「わっ、え、良いけど…どうしたの?血相変えて」

一瞬たじろいだルカに詰め寄るようにして頼み込んだ。ルカは怪訝そうに首をかしげたけど、もうそんなのどうでも良い。

自分について知らないなんて、こんなもやもやすることはもうごめんだった。

「ヒトってほら、いるでしょ」

「うん」

「あれが、何かの拍子にあの黒い場所…宇宙に触れてしまったとする」

「うんうん」

「すると、なんとゆーか、こう…未確認のすっげー力持ってる物…質?なのかな?粒子?…あるじゃん、宇宙にたくさん」

「あー、言おうとしていることは何となく」

「それが集まってきて、結合して、

おれ達の完成ですよ」

「……」

え、それって、

「ぼくもヒトだったってこと…?」

「ああ、うん」

今までで一番といっても過言ではないくらい、ビックリした。

ヒトという存在さえこの星に来るまで知らなかったのに、ぼくもヒトだっただなんて。

「ていうか、なんでルカはそんなことしってるのさ」

「…気づいたら宇宙にいて。自分っていう意識に疑問を持って、自分のルーツをたどったからなぁ…」

「え、覚えてないのに?」

そう言うとルカは飛びきり怪訝そうな顔をして、「まさか気づいてないの?」と首をかしげた。

「何を?」

「時空移動。できるんだよ、おれ達」

……いやいやいや。

聞いてませんけど、そんなこと!?

「だって、その…さっき言った、超物質(スーパーガイ)の能力によっちゃできないことでもないよ?ていうか、おれも聞いていい?今までユラが見てきた星で、『生物がいた形跡のある荒れた星』はあった?」

……。

ない、かもしれない。

それってつまり…

「やっぱり、ユラだって無意識に使いこなしてるじゃん。ユラは、『その星の全盛期時代』に来てるんだよ、…多分」

…ルカは軽々とその現状を語ってみせるけど。

ぼくは一気に明かされた現実に頭が追い付いていかなくって、背筋を凍らせる正体不明の物悲しい怖さをただ堪えるしかなかった。

実感の全くわかない現状、ふと思い出したのはいつかの「化け物」という呼び名。

ああそうか、ぼくは確かに化け物かもしれない。

だって自分でも、自分がわからないんだから。

「でもそれって逆にさ」

ルカが再び口を開く。

「この星も、あとは廃れてく一方ってことなんだよね」

「…サシャも、宇宙につれていけたら良いのに」

「…そりゃダメだろ。自然の摂理、ってのがある」

ルカは少し沈んだ面持ちをしていて、気分を変えるように大あくびしてから「もう寝るオヤスミ」とベッドに潜り込んだ。

「…おやすみなさい」

しばらくして聞こえてくる、静かな寝息。

ぼくはなかなか静まらないある種の興奮を胸に抱きながら、それを封じるように目を閉じた。

今日はいろいろあった。服を破って買い出しにいってルカに会って自分を知って…

…あれ?

…そういえば。

何でルカは、「眠ること」を知っていたのだろう?




「ふあぁ」

「ルカも意外に可愛いアクビをするんだね」

「うぁ?何かいった?」

寝起きのルカには棘がないことを発見。

いや、いつもは棘がある訳じゃないけど…ルカは、ぼくよりも会話に馴染んだ感じがして、口調も人間のそれらしいものだし。

でも今はぼーっとしていて、大きなつり目もどこか眠そうに垂れ下がっている。低血圧なのかな。

「よーし、今日はハタケシゴトを手伝ってもらうからね!」

「ユラ何意気込んでんの…?」

焦点がブレて未だ宙をさ迷っていたルカの視線が、ふとぼくに止まる。

「?」

「シャツ。前後ろだよ、それ」

「あ」

指摘されて慌てて直した。

指摘した本人はといえば、服はボタンをかけ違ったり裏表になったりもしていなくて、…ただしだらしなくベッドに伏せている。

「ねぇねぇそういえばさ」

「ん?どしたの」

「ユラ、昨日の夜一回起きたでしょ」

「え?何で知ってるの!?」

「…反応がおかしいから一応聞いてみるけど、何してたの?」

「えっ、いやぁ、…お水飲みに?」

「…昨日の夜を見てこようか?」

ルカの冷たい視線が痛い。そういえばルカもぼくも時空移動とやらができるんだっけ、それじゃ敵いっこないか…

「冷蔵庫の中を漁ってました」

「サシャに報告しとくね」

「それだけはやめてー!」

…そして始まるオニゴッコ。

「…で?ぼくが起きてたから何なんだよっ」

「いやぁ…何となく?おれもあれで一回起きちゃったし…」

「ふぅん?ルカ、寝る時間は長い割に眠りは浅いんだね」

うん、と頷いてからもう一度大あくびをしたルカ。その手を引っ張ってベッドから引きずり下ろした。

「なんだよー…」

「だからほらっ、ハタケシゴトするんだよ今日は!」

ぼくはルカにいろいろ教えてあげなくちゃなんだから、しっかりしなくちゃ。

ぼくがここに来た時の、サシャみたいに。

小鳥達が窓から覗き込んで首をかしげている。

今日も、長くなりそうな一日だ。



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