「空」を知る
なーがーいー!
すいません取り乱しました。どうして私が書くのは段々長くなっていくんでしょうね。
2000字を目安にしてるんですよ。読みきりやすいように。でも今回なんて3000字超え!ああぁぁぁ…
まぁ愚痴も程ほどに、本編ドウゾっ
「…宇宙!え…」
サシャが「嘘?」と眉を寄せる。
「や、ほんとだよ?ぼく、気づいたらそこにいて…今までずっと、いろんな星を見てきたよ」
「……」
サシャはしばらく顔をしかめていたけど、いきなりぼくの顔に手を伸ばしてきた。
「わ、何するの?」
口と鼻を塞がれる。…なにがしたいんだ?
「うわぁ…あなた本当に生きてるの?」
「え?どうして?」
戸惑いながらも理解した。「ヒト」は呼吸をするんだ。
確かにぼくは、したことがないな…
「じゃああなたは、宇宙から来たんだ?」
「うん。」
「…未確認生命体?」
「…さあ…」
ぼくだって、ぼくのことが知りたい。自分について何もわからないのは、どうにも気分が悪い。
「…じゃあさ、ぼくも質問していい?」
「え?あ、うん」
「この星は、何て言うの?」
サシャがきょとんと首をかしげた。そしてぼくの言葉をやっと理解して、笑う。
「…星の名前って、何であるのか、わかる?」
「え?…ううん」
他の星と区別をする。ぼくが知識としてわかるのは、そのくらいだ。
「宇宙の存在を知って、他に星があると知って、それを意識するからつけられるものなのよ。
…でもね、ユラ。この星の人達には、この星だけでいいの。他の星を意識する必要がないの。もう、満足してるから」
「満足」。
満たされるという感覚。
ぼくにはまだ、その感覚がわからなかった。
「だって他の星を意識すれば、欲を生めば、自分から災いを引き起こしかねないわ。それに、…どうせ宇宙に行けるのは少しの人だけでしょう?私達はだったら、自分の世界に閉じ籠ることを選択したの」
「…閉じ籠ったんだ、この星に」
「そう。もしかしたら誰かが名前をつけたかもしれないけどね、私は知らないわ」
そういって笑うサシャの顔は、いつもよりなんだか頼りなく見えた。
「ほら、早く食べちゃいなさい。出掛けましょ」
「おかわりいいかな?」
「…ていうか食べ終わってたのね」
貰ったベーコンにかじりつきながら、ぼくは天井の向こうにあるはずの、あの青い星に思いを馳せた。
地球。いつか、行ってみたい場所。
でももしかしたらあの星は、綺麗だからこそ、とても悲しい星なのかもしれない。ぼくは漠然とそんなことを思った。
「えっとね、ユラ、何か好き嫌いはある?」
「え?…わかんない」
「またそれか!わかんないのも程々にしなさいよ…」
町の中心部。店が立ち並ぶ大通りで、ぼくはサシャと買い物に来ていた。
「じゃがいもとカボチャと…うん、ソーセージも買っておきましょ。今晩はポトフにしようか…」
「ぽとふ?」
「説明も面倒だし、出来上がったらのお楽しみね」
サシャの買い物は手際よくて、制限ない時間に物言わせて星を見てきたぼくには一瞬だった。
ぼくの着替えやら生活必需品やら食材やら、全部で大きな袋四つ分だ。四つともぼくが抱えているわけだけど。
「…お、重い」
「ハイハイ、我慢我慢」
サシャに軽くあしらわれて、少し「ムッとする」。
「ひどくない…?」
「とんでもないわ、住まわせてもらってるんだからこれくらいはしなさいよ」
「そもそも何でぼくを住まわせようと思ったの…」
サシャが振り向く。ニヤニヤとイタズラ心の宿った笑顔だ、思わず肩を落として「脱力」した。
ふと、サシャの髪が一部だけ反射でてらてらと赤く輝いていることに気づく。もう日は大分傾いていた。
「………。」
「…ユラ?」
サシャに呼ばれて、視線を戻す。
「ん?なあに?」
「…一つ、思い出したの。小さい頃、お父さんやお母さんがいってたこと。」
サシャは空をあおぎながら、張りのない声で話し始めた。
「この星はね、『地球』の兄弟星なんだって。太陽との距離とかが同じで、もとは同じ星だったんだって、お父さんはずっと嬉しそうに言ってた。いつか地球に行きたいって…」
感情のこもらない、淡々とした口調。ぼくにはそれが、どうしても虚しく思えた。
「…さっきさぁ、何でぼくを住まわせようと思ったのって聞いてきたよね。私のお父さんね、宇宙への第一歩だなんていって、飛行機をつくったの。予行演習では成功してたし、本番では私達ものせてもらう約束だった。…私の、幼馴染みも」
サシャの顔がわずかに歪んだ。見られたくないのか顔を背けて、上を見上げている。
「…でもね。本番でまさかの失敗だったんだ。お父さんはその時死んじゃった。私の幼馴染みは…遺体さえ、見つからなかった。」
強引に顔をぬぐって、サシャはいつも通りの笑顔で振り向いた。…ぼくを見つめてくる彼女から目を背けようとして、できなかった。ぼくは違うと、いってあげられなかった。
「お察しの通り、ユラは私の幼馴染みに似てたの。…記憶喪失だってあながち言い出さないとも言いきれないような変な子だったけどね」
大好きだったんだ。サシャは呟くように囁いた。
「去年お母さんも死んじゃったから、もう完全な一人身だったわけですよ。それで話し相手がほしいっていうのもあって、たまたま都合のいい人材を見つけたから近くにおいたって訳」
おどけたように笑うのは、もう空元気としか思えなくて、ぼくは何とか話をそらそうと頭を巡らせた。
「…ぼくは、気づいたら宇宙にいたんだ。ここに来るまでも他の星をたくさん巡って、だからぼくは多分その子じゃ…」
サシャと目が合う。無意識だろうけど、そこにはすがるような光が隠されているような気がしてしまって、どうしてもその先が言えない。
「…じゃあユラは物知りなんだね。たくさんの星を見てきたんでしょ?」
「え?…う、うん…」
「ふうん。じゃあさ、私と勝負しよう」
「…え?」
「呆気にとられた」。ぽかんと小さく口を開ける。
「あなたは確かにすべてを知っているかもしれない。でもね、あなたが知り得ないもの、私はきっとひとつ知ってるわ」
…すべて知ってるっていうのは買い被りだけど、さすがにサシャに負ける気はしなかった。セカイに聞けばいいんだし。
「私が勝ったら、今まで見てきた星の話を聞かせて?」
「…わかった」
「じゃ、私の問題に答えられたらユラの勝ち。いくよ?」
サシャはぴっと人差し指を空に突き上げて、楽しそうに笑った。
「もうすぐ日が暮れる。この時、空はどうなってる?」
…そんなの簡単だ。
何だと思えば、こんなに安易なことか。ぼくはまばたきをひとつして、即答した。
「西の空は赤く夕焼けで、東は深い青に染まるんでしょ?日が沈むなら、当然のことじゃないか」
サシャは何も言わずに愉快そうに目を細めて、空を指差した。 「…?」
「ほら。見てごらん」
サシャの指差した方向に目を向ける。
「…わぁ」
…そこには、その問いの解答があった。
じゃあぼくの答えは間違っていたかっていうと、それも違うだろう。要は、説明が不足していたのか。
「ユラは夕暮れをそうとしか認識していなかったのだろうけどね。実際見ないとわからないことってあるものよ」
確かに、西の空は赤く夕焼けで、東は深い青に染まっている。けど、その上には白い砂粒みたいな星が散らばって、わずかに残る雲は日の光に燃えていた。
それだけじゃあない、そもそもの空の色が思っていたものとは全く違う。絵の具を塗りたくったような不自然な赤ではなくて、藍の上に赤や、黄色や、金色を少しずつ垂らしたみたいな、それぞれが滲んで透明な色を作り出していた。
「私の勝ちね」
サシャの言葉に、ゆっくりと頷く。噛み締めるように。
眺め続けていると空は群青に浸食されていき、やがて底のない黒に染まった。それは自分だけが取り残されていく様で、…何故だろう、少し苦いものが胸に広がった。
「…帰ろうか」
「うん」
サシャはぼくの手を握って、連れ立って歩き出す。
人の手って、ぬくいんだな。
ぼくはこの日から、暗闇に臆病になった。
さて、ネタが切れてきましたかね。どうしてやりましょうかこの先…
新キャラでも登場させますかね。でもそれはもう少し後がいいな。
少し間が空くかもしれませんが、今後ともよろしくお願いします。