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「おいしい」を知る

サブタイトルを見て、「なんだこれ」って人もいたとおもいます。

ごめんなさい。これしか思い付かなかったんです。

「ヒト」「名前」と来て「おいしい」って…

ほんと…なんだこれ…

土地的には狭くても、二階建てのログハウスみたいな建物。

サシャに案内されたのはそんな家で、ぼくはこれからここに「住む」らしい。

そもそも「住む」ことが何なのかわからなかった訳だけれど、「食べて寝てくつろぐところ」なんてわかってもどうしていいかわからない。

ものを食べたことなんて、ない。ぼくはただ存在し続けるだけだったんだなと、今更に実感する。

寝るなんていっても眠気を感じたのさえ今日がはじめてなのだ。一体これでどうしろというのか。

「あーもう、とりあえず今日はここで休みなさい。明日はいろいろ買い出しにいくから」

サシャはそういって自宅に引き上げてしまうし、ぼくはボロボロになった服を着替えてからぼんやりと宙を見つめるに徹していた。

そしてふと、今日抱いた疑問を思い出す。ぼくは一体何者なのか、ってことだ。

そういえば、ぼくは確か初めてサシャに会ったとき彼女をぼくに似ていると思ったんだ。つまりそれはぼくはヒトと同じ姿だってことなんだろうけど、明らかにヒトではないし…

今まで出会った生き物の中で、一番ぼくに近いのはヒトだ。でも結局ヒトじゃないのなら、もしかしたら他の星にぼくのナカマがいるのかもしれない。

…ナカマかあ。

いつか出会えるといいな。

生き物を理解する上で、どうしても腑に落ちないことがあった。共生とか、団体行動とか、いつも一人だったぼくにはわからなかったし、そもそも一人なのだと気づいたのはその時だった。

でも、もしナカマに会うことができたのなら、少しはわかるかもしれない。

ベッドの上に寝転がる。しばらく使っていないのか、少し埃臭い。

…ぼく自身が「理解すること」の概念なんじゃないかって考えたこともあったな。

なんというか…ものすごく身勝手な考えだ。理解することってこんなに難しいし奥深いのに。

さて、サシャは明日は買い出しにいくと言っていたっけ。

買い出し…何の?というか何で?

…やめた。

今日は考えるのは、もうやめにしよう。わからないことがあまりに多すぎる。

そうして何となく目を閉じていると、ぼくはいつのまにか意識を失っていた。



…ねぇ、××ー…?

聞いてる?あ、良かった起きてた。

私ね、××に言いたいことがあるの。

え?今は内緒!明日、教えてあげる!…



目を覚ましてから眠ったことに気づいた。

背骨が小気味良くポキポキ鳴って、体を起こす。なるほど、気分がいいし疲れもとれている。だから生き物は「眠る」んだな。

それにしても、何かの声に呼ばれた気がするんだけど…思い出せない。ただ、やけに懐かしい感じがした。広い草原でうたた寝をするような、そんな感じ。

「ユラ!起きてる?」

玄関の扉がノックされる。サシャに教えてもらった通り鍵を開けると、サシャが顔を覗かせた。

「おはよう!今日は町に…ってあんたはまったくもう…」

サシャが肩を落とす。…?

「気づいてないの?シャツは裏返しだしズボンも後ろ前だよ、それ!」

…あ。

そうか…そうだった。

まぁ、着替えるなんて習慣なかったから、昨日サシャに教えてもらったばかりだしね…

「って何で今脱いで直そうとしてるの!?やめてよ、私が帰ってからでいいじゃない!」

…ヒトってよくわかんない。

何故か赤面するサシャは早口で捲し立てた。

「とりあえず、さっさと支度して!で、支度できたら私の家まで来てね。昨日教えたから場所わかるでしょ?そしたら朝御飯食べて、買い出し行きましょ」

バタンと扉がしまる。サシャは自宅に戻っていった。

部屋におかれている鏡に姿を映すと、ちぐはぐな服装の自分がいた。…うーん、もう少しちゃんと着れるはずなんだけど。

ふと、自分の顔に目がいった。白に近い薄茶の髪、白がかった黄色い目。

なんとなくこんなものだとわかっていたけど、ちゃんと意識するのは初めてだな。そうか、ぼくはこんな容姿をしているのか。

服をなんとか直してから、サシャに言われたように鍵をかけて家を出た。新しく覚えなくちゃいけないことが多いな。

確か、ここからサシャの家はあまり離れていなかった。道なりに進んでいくと、レンガの家が見えてくる。あった。

「サシャ?入ってもいい?」

「…あのねぇ、こういうときはまず名乗るものよ。『ユラだよー、いれてー』とかさぁ…気を付けなさい」

扉から出てきたサシャがまず不機嫌そうに言う。ああそうか、…ぼくは『ユラ』なんだっけ。

部屋に促され、席につく。テーブルにはまだ温かい、卵を焼いたものや肉があった。

「…?」

ぼくには「食べる」なんて習慣はない。だから、これが何で何を意味するのかすら、ぼくには検討もつかなかった。

目の前に座ったサシャが、手を合わせる。

「いただきます」

そして二本の棒で器用に卵をつかみ、口に運び咀嚼した。

「…い、いただきます」

とりあえず真似してみる。

「あっ」サシャは難なくこなしたけど、この棒で卵をつかむのはなかなか難しい。やっとのことで棒にのせ、口にいれてみる。

「…わ」

卵のまろやかな味に混じって、こうばしい香り。

「どう?」

サシャがこちらを見てニヤニヤ笑った。

「なんか…ほくほくしてるね。とろとろで、あったかくて、…体のまん中がさ、こう、ぽかぽかしてくる」

「驚くほどボキャブラリーが少ないのね」

サシャが呆れ顔をした。そして得意気に言い放つ。

「ユラ、それをね、『おいしい』っていうのよ!」

「へぇ…」

「なあに、知らなかったの?」

『おいしい』…か。

うん。

サシャのつくったものは全部、『おいしい』と思った。

「…ねぇ。そろそろさ、聞いてもいい?」

夢中で肉の切り身を貪っていると、サシャが神妙な面持ちで切り出した。

「………」

「とりあえずベーコンを食べるのをやめなさい」

あ。これ、ベーコンて言うんだ。

サシャから味覚についての情報を前みたいにインプットさせてもらうと、味は驚くほど鮮明に感じられた。

それが新鮮で、『おいし』くて、ついついたくさん食べてしまう。

「聞いてる?」

「………」渋々手と口を止める。

「ねえ。…あなたは、どこから来たの?」

「……?」

どこから?

「…何を知りたいのかわからないけど、ぼくは、この星に来る前は黒くて広いところにいたよ」

「黒くて広い…ところ?」

わかっていないようなので、この星のヒト達の言葉に変換した。あとから考えると、こんな素直に素性を明かすなんて自分の身を守るためにもしてはいけないことだとわかるけど、でも多分こうしなくちゃぼくらの物語は始まらなかった。

もっとも、始まったのはこれよりもずっと後なんだけど…


「うん。…ここのヒト達でいう、『宇宙』ってところ」



実はこのあとの一話分くらいまで書くつもりだったのですけど…

長くなるのでやめました。それでも前回短かった分、やっぱり長いかな?

とりあえず、今後ともよろしくお願いします。

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