「名前」を知る
とりあえず、3話目です。
今回はわりと短めですかね?4話のネタはもう決まってるので、頑張ります。
「こんなところで寝たら、風邪引くよ。」
…?
この音…違う。この声は、何?
うっすらと目を開ける。そこには、…ああ、
さっきの学校とやらで会った「ヒト」が立っていた。
こう思うってことはぼくは、この「ヒト」を他の「ヒト」と区別してるってことだよな。いつの間に、ぼくは一体どうしたんだろう…
この「ヒト」に会ってから、いや、この星に来てからわからないことばかりだ。
「…聞いてる?」
「う、ん」
ゆっくり体を起こすと、鈍くではあるが節々が痛んだ。再生はしても、ダメージは残るのか。
「ボロボロね、その服。それで傷1つないなんてね…。いいわ、こうしてまた会ったのも何かの縁だもの。服、あげるからついてきて」
ぶっきらぼうなのか何なのか、その「ヒト」はぷいっと顔を背けて歩き出した。置いていかれないようについていく。
「…で?名前は?」
名前…それは確か、この「ヒト」という生き物独特の個体に対する呼称ではなかったか。
もちろん、ぼくにそんなものはないんだけど…
口ごもっていると、「ヒト」は苛立ったように眉を寄せた。
「ねぇ、会ったときから思ってたけど、何で急に黙るの?」
仕方ない。不自然なことこの上ないのだろうけど、本当のことを口にする。
「…ぼく、…まだ、名前がないから」
「…え?」
「ヒト」は驚くような仕草をしたものの、実際そうは見えなかった。そのまま「ヒト」は話し出す。
「…まぁいいわ。最初からまともじゃないことはわかってたし。…じゃあ私だけ名乗るけど、私はサシャ。サシャ・グレース、よろしくね?」
「ヒト」…サシャはそういって笑った。「…サシャ」口の中で彼女の名前を繰り返す。
生き物のうちの一個体を区別するなんて初めてのことだから、新鮮だった。
「…な、何よ」
呼んだと勘違いしたのだろうか、サシャが頬を赤くしながら少し怒るみたいに睨んでくる。
「あ、ううん…」
「……」
サシャは口を尖らせてた歩き出したけど、ある時突然ピタッと立ち止まった。「…な、何?」
サシャは振り向いて、妙案を思い付いたとばかりに人差し指を立てた。
「じゃあ、私があなたの名前をつけてあげようか?」
「…えぇ?」
「いいじゃない。…ねぇ、あなたどこか行くところあるの?」
「え、いや、…ない、けど」
「そ。じゃ、私の家の近くに空き家あるのよね。そこに住めば良いわ!」
矢継ぎ早な彼女の申し出に、頭がついていかない。いや、理解はしているのだけど、思考がぐちゃぐちゃで「混乱」している。
「え?えっと…」
「うん、決まりね!」
「…え」
「何よ。断るならちゃんと理由を述べてよね」
「……」
無理だ。正直、この「混乱」の訳は「嫌だ」より「何で?」に近いのだけど、どうすればいいのだろう…
このままあの黒い世界に戻って星を選び直すか?…いやでも、まだこの星についてぼくはまだ理解らないことが多すぎる。それは強烈に「不快」だ。
「ほら、理由なんてないでしょ。じゃ、言う通りにすればいいわ、『ユラ』」
「…『ユラ』?」
「あなたの名前。どう?」
どうって…
「よし、じゃあユラ。これからあなたの家に案内するわね」
サシャは弾むような足取りで先を行く。
…ていうか、歩くの、速い。
それにしても何故サシャは、急にこんなことを言い出したのだろう。…ぼくは、「知りたい」と願いそうになったけど、結局セカイに問うことはなかった。
サシャが、離れないように手を握ってきたから。
そうだ。彼女の全てを知ることは簡単だけど、そんなのつまんない。そもそも本当に知りたいなら、セカイに星のことを訊ねれば良いのだから。
「よろしくね、ユラ」
彼女のそんな拙い言葉に、ぼくは噛み締めるように頷いたのだった。
前回言っていた通り、名前、つけました。
なんかすごいスッキリした気分です。今度は「ユラ」の名前の由来を書きたいなぁ。
ちょっと忙しくなるので次投稿がいつになるかはわかりませんが、今後ともよろしくお願いしますm(__)m