「ヒト」を知る
2話投稿です。
早くも挫けそうです。
「ぼく」がこれから何を理解してどう変わっていくのか、書けていけたらいいなと思います。
今度は、どの星を見ようかな。
動物がたくさんいる星がいい。生き物が多くてカラフルな、そんな星がいい。
でももうこの辺りは見尽くしちゃった。そうだ、次見る星はあてずっぽうに決めよう。どうせ、いつかは全部見終えるんだから。
細い指を振って、ぼくは小さな星に決めた。その横の青い星はぼくのお気に入りで、一番最後に覗くことに決めているのだ。
さて、今度は何を知るのかな。ぼくは暗い穴から抜け出すみたいにその星へ飛び込んだ。
緑色の「葉」も、水色の「空」も、
見た瞬間に理解る。そのものの定義、概念、状態、沢山の情報が頭の中に流れ込んでくる。
この感覚。…ああ、懐かしいな。
ふと、左方向から音がした。耳に届いて変わる、「音」から「声」 への認識。
その「声」の持ち主はぼくとひどく似た姿形をしていた。今まで見た生き物の何よりも。
あの生き物を「ヒト」というのか。「ヒト」には「性別」があって、あれは「女」なんだな。
この「ヒト」は植物の利用方法を知っている。あとは「生きるためにすべきこと」を知っている。
目の前に佇む「ヒト」の頭の中から、新たな情報を自らにインプットしていく。ほら、またぼくは理解ることができた。
「ヒト」から声が発せられる。それによってぼくはこの星の言語や発声方法を知った。
「あなた、誰?」
「…きみ、は?」
ぎこちなくなりながら、何とか返す。
「見かけない顔ね。何でここにいるの?」
セカイは、ぼくの求めたことに従順に答えてくれる。その「ヒト」の言動が理解できなくて、知りたいとさえ思えばあとは容易いことだった。
ここは「学校」。知らない誰かがいる方がおかしいんだ。
「ぼくは…」
何て説明すればいいんだろう。「ヒト」ではない。ぼくはこの、やたら動きにくい「空気」 とやらをエネルギーにしていない もの。
気づけばぼくは、自分のことは何も知らなかった。
モヤモヤした不快感。今まで感じたことのなかったそれは、また新たな感覚をぼくにもたらしたけど、どうにも気持ち悪い。
「わかった。とりあえず、この学校の敷地から出ていきなさい」
「…?え、」
「四の五の言わずに言う通りにしなさい。さもなければ先生に言いつけるわよ」
……。
その「ヒト」から大体の知識はコピーさせてもらっていたから、「ヒト」が言っていることは難なく理解できた。でも、やっぱり腑に落ちないのは自分の存在だ。ぼくは何なんだろう?
それを考えていたら、町を覗いても上の空で、他の「ヒト」にぶつかったりもした。
あーあ…
あれ。また新しい感覚だ。あの「ヒト」の知識の記録からすると、…ああ、「倦怠感」っていうんだ、この感覚は。
「だるい」。なんかもう、考えるのが「面倒くさく」なってきたなあ。
それにしても、セカイはいつもぼくの知りたいことに答えてくれるのに、何でぼくについては何も答えてくれないんだろう。肝心なときに「役立たず」だな。
…おかしい。
こんなに新しい感覚を知って、いつもは高揚するのに。
今はそんなの、どうでもいいや。
この違いは、何でなんだろう。
左肩に軽く衝撃が走った。誰かにぶつかってしまったようで、頭を下げてまた歩きだした。
「おい兄ちゃん、ちょっと待とうぜ?」
ぶつかった相手はなぜかとても派手な格好をした二人組で、こちらを振り向いてにやにやと笑っていた。
「今の、痛かったなー。腕折れそうなんだけど。慰謝料ちょーだいよぉ」
変に絡んできた。「怪訝に思い」ながらも、さっきの「ヒト」の知識に検索をかけると、目の前の「ヒト」を明確に示す言葉が出てきた。
「…ああ、ゴロツキか」
「あぁ!?」
あ。まずい。
完全に怒らせてしまったようだ。
頭のてっぺんに走る「痛み」。ぼくはなされるがまま、裏路地に連れていかれた。
「う、うあぁぁ!」
「ひぃっ…ば、化け物!」
二人組が、腰でも抜けたみたいに慌てて駆け出していく。
何だよ。「痛」かったのはこっちなのに。
…ていうかぼく、「痛み」を感じることができるんだな。知らなかった。でも、…やっぱりぼくは「ヒト」じゃないみたいだ。
二人組に痛め付けられた身体はもう、元通りに再生していた。
五感は「ヒト」と同じみたいなんだけどな。ぼくは一体何なんだろ。
また大通りに戻る気にもなれず、そのまま暗くなった空をみあげた。ぽっかり浮かぶあの青い星は、「ヒト」曰く「地球」というらしい。
楽しみは、後にとっておこう。何もない砂地の星や、氷の大地がただ広がる星とかを全て知り終えてから、あの「地球」を理解しにいこう。
そんなことをぼんやり考えていたら、段々と意識が水底に沈んでいくような感覚を覚えた。
それははじめての「眠気」で、抗うのも億劫でそのまま身を委ねた。
「ねぇ。」
なに?うるさいよ。
「ねぇってば。起きなさいよ」
せっかく眠たいんだ、放っといてくれ。
「こんなところで寝たら、風邪引くよ。」
…?
この音…違う。この声は、何?
うっすらと目を開ける。そこには、…ああ、
さっきの学校とやらで会った「ヒト」が立っていた。
…じ、次話も頑張ります。
そろそろ主人公に名前をつけてあげたいです。