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「抵抗」を知る

楽しそうに笑うルカ。

嬉しそうなルカ、慈しむ表情のルカ。

思い出す度に、目の前に横たわる彼との違いが浮き彫りになる。

そっと目を細めて、魘されているルカの耳元に口を寄せた。

「…リリイ」

彼女の名を小さく呟く。ルカはぐっと眉を寄せた。

「んんッ…」

「リリイ ルベリアル アリシア ロン アスタ フラン レニ クロム ロヴル リルヴィアーナ ライン リベアクリス レヴィラ-」

「う"ッ、あ…」

「ユラ!何をいってるの?」

無意識のうち、聞きたくないとでも言うように身をよじらせたルカを見てサシャがぼくを止めた。でも、ぼくは続ける。

声は、届いてるはずだから。

「レヴィライア イルナアーツ フロライド セイラ アッシュ…

ねぇ、起きてよルカ。起きて、…本当は、覚えてるんでしょ?」

ぼくが唱えていたのは、今までルカと関わってきたヒト達の名前。

多分、ルカという意識自体はそのヒト達の名を忘れようとしている。けど、ルカの深い深いところで、それはきっとどうしようもなく残って固まってしまっているはずなんだ。

「…ルカ?」

サシャの心配そうな呼び掛け。ルカのまぶたがぴくりと一度だけ痙攣して、

ルカは目を覚ました。

「ルカっ…!」

「覚えてるんだろ」

サシャはルカに飛びついたけど、ぼくはあくまで落ち着きを払って追求した。

「…ユラ」

抱きついて泣きわめくサシャをなだめ、混乱したように首を捻ったルカと目が合った。そして、状況もろくに把握できていないだろうに、何かを察して表情から一切の感情を排除する。

「ねぇ、覚えてないわけがないよね。何ならもう一度暗唱しようか?」

「…何を?」

ルカはまだ、思い出そうとしない。

「何って、ルカのここが一番わかってるはずだよ。ねぇ、リリイ」

半身を起こしたルカの胸の辺りを指差して、言い放った。

ルカが目を見開く。

「……誰だ、それ」

「覚えてるでしょ」

「知らないよ」

「嫌でも思い出すよ」

「何で」

ルカの言葉には抑揚がなくて、目も伏せられぼくを見ようとはしない。無意識に彼は、思い出すことを抗っていた。

「…苦しくても悲しくても、思い出さなきゃルカが壊れちゃうよ。だから、嫌でも思い出させる。

絶対に。」

「…やめろ」

ルカが頭を抱え込んで、顔を歪めた。もう少しだろうか。

「リリイを、君は知ってるよね。君のとても大切なヒトの名前」

「やめろっ…」

「でも君はこの名前を聞きたくない。だって、彼女は…」

「やめろ!!」

淡々と、事実のみを告げるぼくにルカが叫んだ。拳が震え、ルカは大きく見開いた瞳からぽろぽろと涙をこぼしていた。感情が少しも滲まない表情、こめかみからは汗がつたい、ルカが肩を小さく痙攣させる。全てを、思い出そうとしているのかも知れなかった。

「…やだ」

「え?」

駄々っ子のような、ルカにしてはあまりに幼い声。

「イヤだ、嫌だ嫌だ嫌だ!」

「ルカ?」

不安そうに状況を傍観していたサシャが、ルカの異変に声をかけてぼくを見た。ぼくは瞬き一つをして彼女に目配せをする。

「あッ、…はあ、はあ、はあ、」

息を荒らげ始めたルカを置いて、そっときびすを返した。あとは、自ずと思い出すだろう。サシャもぼくに続く。

「ルカは、大丈夫なの?」

「…さあ、どうだろうね」

二人で出た廊下にはしばらくの間、ルカの苦しげな慟哭が響いていた。




サシャ宅のリビングに降りると、サシャはココアを淹れてくれた。

でもサシャもぼくもそれには手をつけないで、ただじっとルカを待つ。

沈黙に耐えかねて、サシャが口を開いた。

「…ユラがルカに話していたのって、あれ、なに?」

「え?ああ…」

そうか、サシャには何もいっていなかった。ルカの過去を見に行ったことはおろか、ぼくらの存在についてさえ。

「…ええとね、ルカが教えてくれたんだ。ぼくらみたいな存在はね、サシャみたいなヒトと宇宙にある…超物質?超粒子?…ええと、スーパーガイが融合してできるんだって。」

だからそのスーパーガイによって、時空移動等が可能。それを利用してルカの昔話を覗き見てきたのだ、とサシャに説明する。

静かに相づちを打つサシャは、ぼくの覚えている限りの今までの話をした時と同じ目をしていた。真剣に未知を見つめる、ぼくらには居心地の悪くはない瞳。

「…それってさ、自分の好きな時間に行けるんだよね?」

「うん、そうだよ」

即答すると、サシャはそっと目を伏せた。長いまつげが揺れる。

「…今度さ、頼み事してもいいかな」

「?…いいけど」

サシャがそんなこと言い出すなんて珍しい。

「…怒らない?」

「え?怒るったって…」

困惑して言葉を濁すとサシャはため息をひとつ。恐る恐る、口を開いた。

「…ユラリス…が、どうなったのか。教えてほしいの」

「…は?」

「いや、まだ生きてるかもしれないとか、そんな馬鹿なことは思ってないよ?ただ、もうちゃんと区切りをつけたいというか、納得して進んでおきたいというか…」

うまく言えず狼狽したサシャは、でもまっすぐな目をしていた。

間違っても、過去にすがることはないくらいには。

「…ユラリスの、最後?」

「…うん。うん」

最後、と口にすると、サシャは少しだけ顔を歪めた。でも自分に言い聞かせるように、しっかりゆっくり頷く。

「…いいよ」

「え?」

「何、聞き返してるのさ。いいよ、ぼく、視てくるよ」

呆けた彼女の顔を覗き込んで、にっ、と笑う。

サシャは、安堵したような、緊張の糸が切れたようなそんな顔をした。よかった、と口の中で呟いている。

「…ルカ、大丈夫なの?」

「…さあ、ルカ次第だよ」

ぼくは、きっと大丈夫と信じてる。だって、ルカだもの。

ぼくの知ってるルカは、ちゃんと弱いけど、ちゃんと強い。

「…暇だね」

ほうっと息をついて、サシャが呟いた。

「あ、ルカがあんな状態でこういうのも不謹慎か。ごめん」

「や、平気じゃない?」

さっきから、微妙な沈黙が途切れ途切れに生まれる。今度はぼくがため息をついて、サシャに言った。

「もう、視てきちゃおうか」

「え?」

「ユラリスの、最後。つまんないでしょう」

「それは、そうかもだけど…」サシャが語尾を濁した。

ふと考えた。ぼくは、サシャの中で、何なんだろう。

最初は、ユラリスの代用品だった。けれど、ルカもこの家にやって来て、いつからかぼくの存在にユラリスという意味はなくなっていった気がする。

サシャは、ぼくからみれば「たいせつなヒト」なのだけど…

そもそもサシャにとってユラリスは何だったのか。そして今のぼくの、ここでの存在価値は何なのか。確かめるためにも、ぼくは、視にいきたいと思った。だから…

ね?

「じゃあ、行ってきます」


ぼくは、ぼくとよく似た名前の彼を、

あの子のために、あの子の記憶から掬い取る。




続きどうしましょう


最近、掛け持ちするかどうか迷ってます…

ファンタジーものと、悲恋(?)ものが候補に上がってます

いずれ掛け持ちするかもしれませんが、よければそちらも見てやってください

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