A friend and a girl who has run away from home
はたまた新キャラ登場です。さて、段々話が進んでいきます。
シカとアズキが新たに従者となり、ディアン、ループが屋敷に帰ってきて、そしてシアンも住人の一人に住むなってから、早数日が経った。互いに屋敷内でやるべきことをやったり遊んだりと自由な毎日を過ごしていた。
(・・・でも、そろそろ・・・・・・)
代表のために、すぐにでも何かをしたほうがいいのではないか。日々、フェザール家は力をつけてきているのだから。
そう思い至ったアンジェはクロウやみんなを一階の対面室に集め、緊急会議のようなものを行うことにしたのだ。
アンジェに呼ばれ机を挟んで、ずらりと並んだ一同は口火を切ったアンジェへと視線を投げかけた。
「クロウ。あなたの言っていた通り、協力をしてくれる方々が沢山集まってきてくれたのはいいですが・・・これから私達はどうすればいいんですか?」
「そうですね・・・では簡潔に述べましょうか」
クロウは座っていた椅子からすっくと立ち上がり、またもやどこから出したかわからない黒板を持ってくる。
「まず、フェザール家の裏を知らない街の住人を守ることが先決ですね。これからもあの者達に動かれては危険です。」
「それに、昨日はクロウが脅しをしたものの、別の人たちがまた現れる可能性が高いですね。でも、あれだけの数がこんなところまでやってきてたなんて・・・フェザール家の従者は何人程いるんですか?」
アンジェの問いは尤もなもの。そしてクロウのいった言葉はその場にいた皆を硬直させた。
「・・・しめて60人といった所ですね。しかもかなり戦いなれてる人達も含めです」
『60人!?』
みんなの顔色が真っ青になり、既に何人かが恐怖状態に陥る中、ザキはいつものように理解ができていないのだろう。何てことはないとばかりに、けろっとしている。するとクロウは周囲を落ち着けるように微笑して、大きな箱を傍らの棚から持ち出し、テーブルの上へと下ろした。
「そのために、アルイさんに様々な新発明を頼んでいたんです。その中でもこれは、護身用の武器です」
その箱を開けると短剣より、少し大きめなナイフらしきものがたくさん入ってあった。
「アルイの新発明№4『Unsigend Knife』だ。まぁ、さすがに皆は人を殺すほどの奴らじゃないし、護衛用として作らせてもらったよ」
当の開発者であるアルイはそのナイフの柄をもって、いつも容易くクルクルと手の内でまわし始めながらも、得意げに自身の新発明への説明を簡単に口にする。
「このナイフはカートリッジ式でな、麻痺毒を付与したカートリッジと催眠用のカートリッジを用意してある。装着することによりナイフに散布し、傷を与えるだけで効果は抜群だ。殺傷力はそこまでない」
皆は驚きながらも、そのナイフへと視線を落とした。しかし、その中でもアンジェは何かが引っ掛かり、アルイへと手を挙げた。
「アルイさん、さっき№4って言ってましたけど・・・3は既にあるんですか?」
そう。アルイが作った順を考えてみると、3がどうしても抜けていた。しかし、アルイはその問いに対してニッコリとしながらこう答える。
「№3なら、既にヨルちゃんに渡してある。結構ヨルちゃんも気に入ってくれてるみたいだしな」
「はい。これなら面倒がなく出来そうですよ」
その言葉に釣られるように、場にいる全員がヨルの言う「これ」へと視線を移す。しかし、そこにはヨルが大事そうに庭掃除用のホウキを両手で大事そうに抱えている姿しかなく皆が皆、首を傾げた。
「そ、それがアルイさんの作った新発明ですか?」
「・・・普通」
シカとアズキがそう言うがアルイが小さく笑う。
「実はそれ、仕込み刀なんだ。ヨルちゃんの武器を少しだけいじらせてもらってな」
「え!?刀なのそれ!?」
するとヨルが突然ホウキを刀のように持ち、何やらホウキを手首で少しだけ捻る。そのままヨルが引っ張ると、なんとそこには正真正銘の刀が。ヨルの刀の手持ちの部分が木製でできているため、ホウキと思わせて不意打ち。更には中に仕込んだ真刀によって強度も高くなっているから、なんでも対策がとれるという意図で作ったそうだ。
「ほぉ、コイツはなかなかの芸術品だな。おっちゃんも感心しちゃうなぁ」
コガネもその刀を興味を示していた。コガネはどうやらかなりの芸術家気質らしく、庭の枝や花を見ては、うまく修正をしている。今の庭は既に、彼の芸術の結晶であるの花の数々が辺りに咲いている現状だ。
「まぁ、その話は置いといてだ。一応アンジェちゃんの分も作っておいたから全員、今日からこれを隠し持つようにしよう」
アルイのその言葉に従うように、そのナイフを各々手に取った彼らは腰元にホルスターをつけたり、ポケットに隠したりと全員装着した。中でも一番悩んだのはアンジェだ。彼女はドレスを身に纏っているため、腰につけると明らかにバレバレになってしまう。なので太ももにベルトのようなものをつけ、そこにナイフをつけるようにした。
「さて・・・では、これから私達がやるべきことを話しましょうか」
クロウは再び黒板に淡々と書き始める。するとクロウは大きく「同盟」と書いてみんなに見せる。
「同盟?」
アンジェがそういうとクロウは小さく頷く。
「はい、同盟です。簡単に説明すると同じ考えを持っている方と結束することが大事なんです」
「私達と同じ考えを持っている方?」
すると丁度そのとき。突然、玄関の方から二台の車が高速で走ってきた。まるで、それはアクション映画のようで皆はそれに目を見開き、半ば呆然と驚きの表情を浮かべている。
その一方は少し前に何人かは見たことがあるであろうリムジン。そして、もう一つの車はそんなに豪華でもないごく普通の軽自動車だった。しかし、アンジェはリムジンよりも小柄な軽自動車の方を見るやいなや、対面室から嬉しげな顔をして一目散に玄関へと走っていく。この屋敷にやってきて日が浅い何人かは不思議な顔をしたが、とりあえず皆は一人飛び出していったアンジェを追いかけた。玄関に行くとアンジェがウキウキと心躍らせながら玄関から客が来るのを落ち着きなく待っていた。そして、その期待に応えるかのようにして玄関の扉が開かれる。そこには、以前屋敷に来た事のあるライバル発言を残して行ったルリーナと、その従者のコクウ。そして隣に立っていたのはアルイ以降の従者たちが見た事のないお客だった。
「アンジェ。お元気でしたか?」
「レンリちゃん! 久しぶりです!」
その少女の髪型はアンジェと少しだけ似ているロングなのだが、アンジェよりも髪が長く、どこかふわふわとした空気感が漂っている。髪の色はピンクで身長はアンジェより小さめだった。
「話はルリーナから聞きましたよ。全く、ルリーナも素直じゃないんですから」
「か、勘違いしないでくださいます!? 言っておきますけど、これは同盟でも協力でもなく、私が貴方達を利用するだけですわ!」
・・・ついていけない。独特な雰囲気が立ち込めるその様相に、何人かが口を開き、唖然としている。レンリと呼ばれていた少女はそれに聡く気づいたのか、会ったことのない人達の前に立ち、自己紹介をする。
「皆さん、初めまして。レノ・ヴィヴィアン・リュシエールと申します。ぜひ、レンリと呼んでくださいね。アンジェがくれた私のお気に入りのあだ名ですから」
レンリはパニエでふわりと浮かぶドレスの腰辺りを少しだけ揺らし、深くお辞儀をして皆に満面な笑みを見せる。そして皆は全員同じ事を思ったのだ。
((ど、同盟というか・・・この人だけは同類のような・・・))
だが、そんなことは流石に本人の前では言えない。そして、止められない話はそのまま続行される。
「あ、一応アンジェよりお姉さんですよ~? 18歳でアンジェとは、昔ながらの友達なんです。あと、私は男性がちょっと苦手なので・・・少し離れて会話をしてくれればありがたいです」
レンリを知らない者全員が心の中で「そんなことは誰も聞いてない」と呟いたが、やはり口には出せない。各々、「そ、そうですか・・・」と身の入らない返事を返したのを聴いたなら、満足げにレンリは微笑み、改めてアンジェへと近づいた。
「Kから聞きましたよ? フェザール家に命を狙われているとか・・・お姉さんである私がそんな話を無視出来る訳がありません。リュシエール家一族、誠意を込めて。セレス家の援護をさせてください」
アンジェはその言葉を聞いて、とても喜ばしげな表情を浮かべた。因みにKと言うのはレンリの直属のメイドの名である。とはいえ沈黙したきり、レンリの後ろでずっと絶えずガタガタと震えていたため、皆はあまり触れないことにしていたが・・・さすがに気になったクロウはKに呼びかける。
「Kさん。いい加減、私たちに慣れたらどうですか?」
Kと呼ばれた人物はクロウの言葉に肩を大きくびくつかせて反射的に驚き、恐る恐る、みんなに顔を見せる。白い肌と薄青色のショートヘアーと伏し目がちな目で、一見かなり凛々しい雰囲気を漂わせているのだが・・・
「そ、そんな無茶なことを言わないでくださいませ。お嬢様に付いて来たのでさえ、いつもはらはらし通しなのに・・・今日はこんな大人数だなんて、私を殺す気ですか・・・!」
そう。彼女は極度の人見知りなのである。しかし、なぜかレンリとだけはまともに話せるという、ちょっとばかり特殊な人物なのだ。
そんな彼女がクロウに話しかけられたことにより、周囲の視線が集まっているのに気付いたのか、落ち着きなく視線を泳がせながら唇を震わせ、たどたどしく口を開く。
「・・・あ。・・・ああ・・・・・・Kと申します。・・・会話は・・・・・・お断り致しておりますので、ご了承ください・・・。」
((うっわぁ・・・これは重症だ・・・))
この反応には、屋敷にいる皆が嫌な汗を掻く。しかし、もう馴れたものなのだろう。ルリーナはここから話を変えるべく口を開こうとするが、何故か顔を真っ赤にして顔を俯かせ、何も言えずにいる。レンリはそんなルリーナの背中を何度か軽く叩き、落ち着かせた。それで我に返ったルリーナは深呼吸を二回して落ち着きを取り戻し、少し視線を逸らしながらもつんけんと言葉を紡ぎ始めた。
「ら、ライバルがいなくなったら面白くありませんわ。競い合ってこそのライバルですもの。ですから今回は仕方なく協力させてもらいますわ。
まぁ、こんな事をしても名誉は全て私が貰い受けますからね。これはハンデのようなものですわよ。感謝なさってくださいませ」
「ちょっと、ルリーナちゃん。私は二人のお姉さんなのよ。二人が互いに争うなんて私が許しませんよ?」
強情っ張りなルリーナの隣で付き添っていたコクウは大きなため息をつき、その一方で、エリーはそれを見てhshsしている。そして、他の皆は理解が全然出来ていない。この状況は些かまずいと思ったクロウは大きく手を二度叩いた。
「とりあえず。話をまとめるためにも一度食堂に向かいましょう。流石に対面室にこれほどの人たちは入らないでしょうし」
それに異論はないのか、指示に従って計16名がぞろぞろと食堂へと歩いていく。しかし、アンジェはとある光景をみてしまった。クロウがコクウとにらみ合いながら通りすがった所を。
「?」
そんな二人の態度を疑問に思うアンジェだったが、一先ず今は食堂に向かうことにしたのだ。
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「さて。話をまとめると、この三貴族が同盟を組み、フェザールに対抗するのです」
大抵の自己紹介と互いの情報交換を済まして話を戻すことにした。かかった時間は約1時間。まぁ、何せ総計16人もいるため当然だろう。しかしアンジェからしてみるとすごい光景だ。今までは家族と3人の従者。そしてレンリの家系や従者としかあったことがなかったのに、今となってはこれ程の人達に囲まれている。それが、たまらなく嬉しかった。そして、クロウが説明をしている時、シアンは手を挙げる。
「で、でも、どこまで対抗するんですか? 流石に殺し合いとかはダメなんじゃあ・・・」
「ええ、それは心得ていますよシアンさん。ですが、流石に相手も本気を出してくると思うんです」
クロウが真剣な顔で説明をするとまだ幼いループが少しだけ怖がるように服の裾を強く握り締めた。それに気付いた父親であるディアンは、そんなループの頭を優しく撫でる。
「そして私たちは街の人から見れば知名度は低いです。ですから、まずは街の皆さんに自分達の存在を知らせ、対抗馬になることで相手の動きが取りにくくするんです」
「ですけど、どうやって存在を知らせるんですか?」
「・・・アピール?」
クロウは小さく頷いた。
「しかし、宣伝で街歩きなんてしたら、あっという間にフェザール家に知られて手を打たれてしまいます。そして、何よりあまり人を巻き込むのは宜しくない。なのでひっそりと知名度上げる方法を考えなければいけない・・・」
「ひっそり・・・? ど、どうすればいいんですか?」
アンジェがそう、クロウに質問をしようとした時だった。食堂に入るための扉が開く音がすると共に、誰かが入ってきた。そこには扉によりかかるようにして女の子がたった一人で立っていて、具合が悪いのか、少し辛そうな表情を浮かべて。肩辺りまである濃青の髪で身長はシカ、アズキと同じ位といったところだろうか。そして服は少し汚れた白いYシャツに丈の短いスカートを着ていた。
「が、学校なんてどう? 此処のお嬢様は街の事や世界の事がよく分かっていないんでしょ。そして存在を知らせる理由も付け加えて、学校で勉強をしながら知名度を上げるってのは、どう? 中々のものでしょ・・・」
そういって女の子は倒れこんでしまう。そしてその倒れた女の子の顔を見てディアンは思わず声を上げた。
「こ、この子は・・・確か、この前花屋で・・・」
「し、知ってるんですか?」
アンジェがディアンへと問いかけると彼は小さく頷いた。
「ちょっと前にね。しかしなぜここに?」
するとまた女の子が苦しそうに声を出す。
「・・・家出してだよ。あんな家族の所にいてたまるか・・・」
皆は小さく「え?」と声を出す。そしてその言葉の真意をレンリが補足をする。
「実は、ここに来る途中で着いて来たんです。フェザール家について、私も加えてくれって」
そして少女は再び口を開く。
「相手の裏の事を知ってるのに、恐れて逃げる家系に住むなんて私は嫌よ。だから、私は私であいつらに立ち向かう。情報屋から話を聞いたのよ。知名度が全然ない貴族のお嬢様がフェザール家の真実を探ってるって」
情報屋。今のミュルティールではひっそりと、だがよくいる職業だ。情報を新聞よりも先に仕入れ、高値でその情報を依頼人に教えるという仕事をしている。そして、その場の何人かは理解した。情報屋が感づくまでに自分たちの事が知られていると。そしてアンジェはその子の目を見る。彼女の目は、なにか暗いものを抱えているかのような目をしていた。アンジェはそれを見て少し表情を歪めそうになったが、その子の元へとゆっくりと歩いていく。
「すみません。お名前を教えてくれませんか?」
「・・・カナリア」
名前を聞くとアンジェはニッコリと笑う。
「じゃあ、カナちゃんですね。私はアンジェリカ。アンジェって呼んでください」
「そ、そう・・・あと私、家ないから、出来ればここで雇わせてもらいたい」
「ええ、一向に構いませんよ?」
皆が「え!?」と驚く。当主であるディアンと、執事長であるクロウも流石に笑ってしまう。
「まぁ、お嬢様が決めたのなら仕方がありませんね。カナさん。よろしくお願いしますね」
こうして新たにカナリアもセレス家の従者に加わり、戦力がどんどん備わってきた。アンジェは従者の皆を見て口元を綻ばせる。さぞかし、皆が従者になってくれたのが嬉しかったのだろう。しかし、それとは裏腹にレンリがアンジェを見て誰にも気付かれないように少しだけ視線を落とした。
「・・・それにしてもカナちゃん。体が汚れてますね。とりあえずこっち来てください」
「え? ちょ、ちょっとま・・・・」
アンジェは唐突にそう思い至ったかのように言い放つと、カナリアを引っ張ってどこかに行ってしまった。それを見てディアンはまたクスクスと笑う。しかし、レンリは未だ晴れない表情のままだった。そしてレンリはゆっくりと口を開く。
「あの・・・皆さん。話しておきたいことが、あるんですけれど・・・聞いてくださいませんか?」
・・・昔のアンジェは、あんなに明るい子じゃなかったんです」
レンリがそう切り出すとクロウやディアンは一瞬にして真剣な表情に変わった。しかし他の全員は不思議そうな顔をする。それもそうだろう、彼らは明るいアンジェの姿しか見てきていないのだから。
「ど、どういうことですか?レンリさん」
「・・・意味不明」
シカとアズキはそう言うとレンリはすっくとと立ち上がる。
「・・・それじゃ、少しお話しましょうか。アンジェの過去を」
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~アンジェ視点~
「・・・なんで私だけじゃなくてあなたもお風呂に入ってるの?」
「え?だってカナちゃん汚れてたから・・・」
「じゃあ私だけ入ればいいでしょ!? なんであんたまで入る意味あるのよ!?」
ここはセレス家の大浴場。かなり大きめに出来ており、10人以上は余裕で入る。それぞれの場所にシャワー、シャンプーなどが沢山あり、奥には露天風呂も・・・
「何自分の家のお風呂解説してるの!? いいから理由喋ってよ!!」
怒られてしまった。しかし私はカナちゃんの背中を石鹸で洗いながら会話をする。
「カナちゃんと色々お話したくって・・・その、家族について」
「え? ・・・私は家族に捨てられたも同然。両親は花屋を経営してて、結構有名になってた。だけどあの貴族のせいで両親は騙されて借金。そして別の国に逃げたのよ。私の言う事を聞いていれば、あんなことにならなかったのに」
カナちゃんは自分の過去を明かしてくれた。私はもっとカナちゃんの事を知りたくなってきた。だって、少しだけ私と同じなんですもの。
「・・・それに比べ、貴方はいい家系で住んでいるからいいじゃん。別に気にすることじゃないよ」
私はその言葉を聞いて動きを止める。
「・・・?」
カナちゃんは私を見た。その時の私の顔は、さっきまでの笑顔とは全然違う暗い顔だったと思う。この顔は多分お父様にしか見せなかったから。それをカナちゃんに見られてしまった。カナちゃんはそんな私の顔を見て驚いている。まるで私を私じゃない、別人と思っているような。
「・・・私。本当はこの家の娘じゃないんです。皆には言っていませんでしたが」
「ど、どういうこと?」
カナちゃんは私に質問をする。そして私は変わらぬ表情で、少しだけ抽象的に説明を返した。
「お父様とルーの髪の色は黄色。それに比べて私は白銀・・・どう言う意味かわかりますか?」
それでもカナちゃんは理解できていなさそうな顔をする。なので私の過去を少しだけ説明をした。と言っても、曖昧な記憶ですが。
「私、別の貴族で暮らしていたんです。5歳位まででしょうか・・・ほんの少しの記憶しかないです。そしていつの間にここの娘になっていたんです。でも、そんな私をお父様は本物の家族のように接してくれた。そんな感じです」
するとカナちゃんは不思議そうな顔から突然真剣な表情に変え、私を見てくる。
「・・・寂しくないの? 本当の家族じゃなくても・・・」
私は過去のことを振り返ろうとするが、これ以上のことはまったく覚えていない。しかし・・・
「・・・家族の顔も何があったのかも忘れてしまいました。でも一つだけ覚えていることがあるんです。私、兄様がいたんですよ」
「に、兄様?」
カナちゃんはそこが引っかかったのか私の言葉に反応した。私はゆっくりと口を開き、カナちゃんに説明をする。
「兄様はとても優しかった・・・どんな時でも私のそばにいてくれて私を支えてくれました。それくらいしか覚えていません。どうして私がここにいるのかも忘れました。もし会えるならもう一度会いたい。そして何があったのかを知りたい・・・それだけです。そのためにも私、この国を平和にしないと」
私は段々と表情を元に戻し、カナちゃんに笑顔を見せる。
「・・・お父様のおかげで私は幸せになれた。だから今の私がここにいるんです。カナちゃん。あなたも、ここで幸せになりましょうね」
「わ、分かったよ・・・あ、アンジェ」
私はその名前の呼び方で元気が出た。滅多にないお嬢様以外の呼ばれ方に私は喜びを隠せなかった。
「はい!! カナちゃん!」
「・・・あと、二人だけで話す場合メムって言って。カナリアは偽名だから。仲のいい人にしか本名を明かさないから。いい?」
「は、はい! メムちゃん!」
裸の付き合いとはこの事を言うのだろうか、私はさらに強くメムちゃんを抱きしめる。しかし、メムはなぜだか嫌な表情を浮かべた。
「・・・アンジェ、わざとやってる?」
「え?何がですか?」
メムちゃんは私の胸をじーっと見つめる。そしてなぜだか更に嫌な顔をする。そして更には私の素肌を触ってきた。
「ひゃあ!? な、何するんですか!?」
「むぅ・・・私だってあと2年すればこれ位・・・」
「ちょ・・・く、くすぐったいですよぉ・・・や、やめてぇ・・・」
二人でもめ合っていた瞬間だった。突然、扉からエリーや、ヨルちゃんなど、女性皆がお風呂に入ってきたのだ。
「お嬢様ぁ~♥ 背中を流して差し上げます~」
バスタオルで体を隠してエリーは入ってきた。しかも鼻血が大量な状態で。これが原因でお風呂が真っ赤に染まったせいで、2ヶ月くらい前に私と一緒に入浴するのを禁止にしたのに・・・
「お嬢様!私達もいれてください」
ヨルちゃんはいつも結っていた髪を解いてエリー同様バスタオルを巻いてきた。
「お嬢様とお風呂に入れるなんて俺、すんごい嬉しいですよ~」
「・・・好感度上昇」
シカちゃんとアズキちゃんはなぜか水着を着てお風呂に入ってきた。プールじゃないんですから・・・
「お姉さま!私も~」
妹であるルーなんかは恥じらいなんかなく堂々と裸で入って来た。・・・せめて何かで隠しなさいよまったく。
「ま、全く。貴方はどこまで私を困らせるのですか」
「ルリーナちゃん。貴方はどこまで頑固なんですか・・・」
「む、無理無理無理無理・・・余所の屋敷のお風呂とか本気で無理、しかもみんなで入るとか無理にも程がある・・・ありえないですってば本当に・・・」
それだけではなく、ルリーナちゃんとレンリちゃん、そしてKさんも入ってきた・・・流石にもう驚かない。しかし私が不思議に思ったのはエリーやヨルちゃん、シカちゃんになぜか目の周りが赤くなっていた。まるで泣いていたかのような・・・
「お嬢様! 私は生涯、お嬢様についていきますからね!」
「私もです!そしてこの国を平和にしましょう! いや、もういっそ世界を!」
「それだけじゃなくてお兄様探しも手伝いますよ!ね、アズキちゃん!」
「・・・同意」
エリー、ヨルちゃん、シカちゃん、アズキちゃんは私に抱きついてきた。もちろんメムちゃんをも巻き込んで。それよりなぜ皆兄様の事を!?も、もしかしてレンリちゃんが教えたのでしょうか。そしてルーも私の手を握り、少し涙ぐんで私に話かける。
「お姉様・・・私、血が繋がってなくてもずっとお姉様の事が好きです。だから、お姉様も私の事を嫌いにならないでください」
「ルー・・・嫌いになりませんよ。ごめんなさい。変に気を遣わせちゃって」
私はルーの頭を撫で、笑顔を見せる。するとルーも段々笑顔が戻った。こんな可愛い妹を泣かせるなんて、姉失格ですね。
「皆、私に力を貸してください。そして、必ずこの国を平和にさせましょう!」
『はい!!』
セレス家一行計6人が返事をし、メムちゃんを巻き込んで皆で抱き合う。しかし、お風呂でこんなことするとは・・・まぁ、今日はいいですよね。こう言う裸の付き合いもなかなか楽しいですし。しかし何故かまたメムが嫌な顔をする。
「あ、あんたら・・・全員私より胸がデカいんじゃあ~!!!」
その瞬間。メムが抱きついた状態で暴れだす・・・胸がコンプレックスなのかな?覚えておこう。
「あれが主人と、それに従う者がする光景ですの? ありえませんわ」
「そうですか?私はいいと思いますよ? ね? Kさん」
「・・・もういっその事、溺れて何もかもなかったことにしようか・・・・・・いや、で、でもお嬢様を守らないとだし・・・うう・・・末期だ、もう死にたい・・・」
二人は私たちの光景を見て笑っていて、Kさんは最早精神を保つので精一杯だった。本当に変わった人だなぁ・・・Kさん。
「あ、そうだアンジェ。明日早速入学する学校に訪問しおうと思うの。一緒に行く?」
「はい!行きます。うう~すごく楽しみです!」
「私の話を無視すんな!天然ボインどもめ!」
そんなお風呂での楽しい出来事でした。
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「楽しそうだね! ここまで声が聞こえてくるよ~」
「そ、そうだね。でもあんまりこう言うのは聞かない方がいいよ?」
女子が全員浴場に行ってしまった頃、男子は全員食堂で待機をしていた。黄金は枝切りのハサミの手入れ、ディアンは新聞を読んだりと、各自好きに自由行動をとっていた。
「へ、お前が言っても皆歓迎してくれるんじゃないか? 特にエリーが」
「い、嫌だよ! 僕だって男だもん!!」
からかうようなアルイの言葉に、ザキは顔を真っ赤にしながら手をブンブンと振る。それを見てシアンもアルイも顔を見合わせて笑っていた。
「ふふ、ザキさん。お嬢様達が来る前に食事の準備をいたしましょうか」
そう言ってクロウが食堂から出ようとした時だった。突然、コクウがシルバーナイフを持ってクロウに攻撃を仕掛けた。しかしクロウはそれを優雅にかわし、コクウの後ろに立ち、同じようにナイフを構える。
「・・・流石元暗殺者。動きはまだできるようですね? 三月鴉さん」
「・・・なんのことでしょうか」
クロウはコクウを離し、ナイフを服の中に隠す。
「・・・私は貴方とは別の組織に入っていた。でも、もうそれは昔の話です。今はルリーナお嬢様に仕える執事。そしてお嬢様に過去を打ち明け、許しを得たのです。しかし、貴方はどうですか? 皆さんに隠していることがあるのではないのですか?」
コクウは淡々とした口調でそう詰問するとクロウはただ黙っていた。しかし表情は何も変わっていない。ただ、お互いを見つめていた。
「・・・まぁ、それもあの人のためだと思っているのだと、私は信じたいですがね」
そう言ってコクウは食堂の出口を開ける。
「食事の用意、私も手伝いますよ。これでも調理は得意なので・・・」
「・・・分かりました」
そう言ってクロウとコクウは食堂から出て行った。
「ねぇ、コガネ。クロウの事どれくらい知ってるの? 昔から知り合いなんでしょ?」
「ぼ、僕も知りたいです」
ザキとシアンは黄金に聞こうとする。しかし、黄金は小さな声で言う。
「・・・あぁ、あいつが子供の時から知ってるさ。まぁ、それはあいつに聞きな。俺から言う事じゃないさ」
そして食堂が静かになる。アルイはザキの頭を撫で、場の空気を良くしようとした。シアンもザキに話しかけ、本を読んであげようとしていた。今日は少し不思議な事が多かった一日であった・・・
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深夜、ミュルティールのとある森。
「くそっ!こ、こいつ。化物か!?」
どんどん逃げていく執事服を着た男達。その奥には一人の男が立っている。
「・・・逃がすかよ」
剣をひと振りしただけで嵐のような風が舞い、男達が飛んでいく。
「た、助けてくれ・・・」
男達は恐怖に陥っていた。そしてその男はどんどんその者達に近付く。そして目の前に立ち、口を開く。
「今、お前らが口にしてた「アンジェ」について教えてもらおうか?」
「い、言えるか! お、俺達が殺される!」
その瞬間その男は剣を思いっきり地面に刺す。
「・・・その前に、俺に殺されたいのか?」
「わ、分かった! 言う! 言うから、殺すのだけはやめてくれ!」
その男はその言葉を聞いて剣を腰元の鞘へと手馴れた動作でしまう。
「・・・アンジェ。ついに、会えるのか・・・」
薄暗い夜に光る白い髪、その男の目は、悲しい目をしていた。
コガネ「うぃーっす。おっちゃんだよ~」
ディアン「アンジェの父親のディアン・フェリシティ・セレスです」
コガネ「なんだかんだでもう5話か・・・早いような遅いような」
ディアン「時の流れというのは気難しいものなんだよコガネ君」
コガネ「次回は色々と真実なりなんなり明かされるらしいですよ」
ディアン「ほうほう・・・それは楽しみだ」
コガネ「そういえば旦那さんと話したことなんてあんまりなかったなぁ・・・今度酒でも盛りませんか?」
ディアン「おや、いいですね。その時はこの中年の男を呼んでくれれば幸いですね」
ループ「お父様!早くジカイヨコクしようよ!」
シアン「まさかここでも出してもらえるなんて嬉しいですよ僕・・・」
コガネ「おうおう、急に人が増えたなぁ」
ディアン「フフフ・・・では四人で次回予告と行こう・・・せーの」
『次回!第六話!{They are an elder brother and a princess true to school}(学校に真実に兄とお姫様)お楽しみに!』
アンジェ「あなたも私の従者になりませんか?」