第二話
中島春菜は社長から手書きで渡された見積もり表を無心でパソコンに入力してると携帯のアラームがなりだした
時間は16時58分にセットして置いた
犬の散歩時間だ
春菜にとって1番憂鬱な時間
商業高校をまあまあ優秀な成績で卒業して社会人3年目
リーマーショックの影響なのかわからないが高3の時に内定していたIT企業の事務が卒業間際に取り消され大急ぎで就活をした結果決まったのがこの会社『株式会社 長友塗装』
従業員10名の小さな会社だが給料はまあまあいい
社長も奥さんも従業員達も良い人ばかりで働きやすい環境ではある
ただあの犬の散歩以外は
春菜は小さい時は実家で犬を飼っていたし犬は好きなのだか…ゴールデンレトリバーは温厚で人懐こいイメージがあったのだがこの犬は違った
誰にも懐かず気性が粗い
大型犬なので力も強い
機嫌が悪い時は見境なく噛み付いてくる
なので餌をあげる時ですら犬が嫌うスプレーを身体中に振り小屋に向かう
そんな犬の散歩時間は嫌だがそれも仕事のうちと割り切りながらやってる
ため息を尽きながら小屋に向かう
噛まれない様にスプレーを身体中にふりまくる
リードを手首に巻きつけいざ出発いつも決まった道を一時間かけて散歩する
途中何度か休憩を挟み今日も無事に会社まで戻れそうだと思った瞬間急に犬が走り出した。
『えっちょっと何?』
ひっぱられながら会社の前に着くと懐かしき我が母校の制服を来た一人の少年らしき人が倒れていた。
某然と立ち尽くしていると犬がその少年にまたがった
ヤバイ噛み付くと思った瞬間シッポを振りながら少年の顔を舐め始めた。
この犬が餌をあげる時以外にシッポを振るのを初めて見た
少年が起き上がり抱える様にし犬を撫でだした
その顔は笑ってはいるがボコボコ
制服も破けてるし傷だらけ
リンチにでもあったのだろうか?
おそらくはもともとかなりのイケメンであるのは分かるが左眼は腫れ上がりほとんど塞がっている
酷い顔だ
でもどこかで見たことある気がする
じゃれ合う少年と犬を眺めていたら少年がこっちを見て微笑んだ
あんまり関わらない方がいいと判断して
『ムック帰るよ』
犬のリードを引っ張ると少年が驚いた顔をし犬の顔を覗き込む
『ムックだ。そうだムックだ』
『えっ』
社長の親戚?いやあの高校に親戚がいるなんて話は聞いた事がない訳がわからない少年はなおも続ける
『そうだったムックだった。お姉さんありがとう。スッキリしたー』
『…』
『それにしてもお姉さん可愛いね』
『えっ』
なんがスッキリしたの?
なんでボコボコなの?
こんな状況でナンパ?
?マークが頭の中を駆け巡る
それにしてもそこ言葉聞き覚えがある
記憶をたぐりよせる
『…あっ君はあの時の』
思い出したこの少年はあの時に少年に間違いない
少年は笑顔のまま首を傾げてるこの少年は忘れてるらしい
そして少年は笑顔のまままた気絶した