夏の川にて
これは恵さんから伺った話です。彼女は女子校に通っていたそうですが、そこには夏になると幽霊が出てくるという噂が立っていました。
しかし小学校の頃の話なので記憶が曖昧な部分も多いそうですが、幽霊の一件だけははっきり今でも思い出せるそうです。
なんでも、昔のことなので水泳の授業は近くの川で行っていたそうです。昔ということで時代柄治水もしっかりしておらず、時折急な流れが来たり、突然深くなっている場所が合ったりと様々な危険があったそうです。
「時代のせいで済ませていいのか……やはりそんな授業なので死者も出るような時代だったそうです」
ただ、恵さんが小学生だった頃には川で死者は出ていないのだと付け加えた。そしてある夏の川で起きた出来事だ。
その年、教師が泳ぎの指導をしたのだが、安全に酷くうるさい教師だった。腰までしか水が無い場所を丁寧に選んで泳がせていた。だから全員安心して授業を受けていた。
ただ、一人のせいとが突然川の深みにはまった。川底をコンクリで覆っているわけでもないので深さはバラバラで、非常に深い場所もある。それが突然脈絡も無くあるものだから、運悪くそこを踏んでしまうと着くはずだった足が付かずパニックになる。
教師が大急ぎで助けに駆けつけ、無事その生徒は救助されたのだが、ガクガクと震えが止まっていない。『大丈夫か?』と声をかけているが、水を飲んだわけでもなさそうなのに声が上手く出ていない。
しっかり耳を口に近づけて話をしようとしていたのだが、その教師が傍目に見ていて分かるほど教師が狼狽えていた。
すぐに『帰るぞ!』と言い、生徒を担いで川から離れ、急いで学校に帰った。しかし教師が狼狽えているのは生徒が溺れそうになったからだとは思えなかった。生徒の方はすっかり平気そうなのだが、教師は川に近づくことを禁止してそれから卒業まで水泳の授業はなかった。
ただ、噂が立ったのは、教師が生徒を助け上げたときに『カナ……ユカリ……マイ』と人名らしきものを唱え続けていたのを聞いた生徒がいたからだ。
教師陣ではその事は禁句となっているようだが、どうやら昔から今まで、川で水害や水泳の自己で無くなった生徒の名前を唱えるように言っていたと噂になった。
もちろんそんな噂には箝口令が敷かれ、真相は完全に闇の中なのだが、生徒の間ではあの川には死霊が集まっているともっぱらの噂になった。
恵さんもあえてその噂を検証しようとはしなかったので、結局生徒たちの間での噂でしかないのだが、その話を教師たちが恐れていたことから、きっと本当のことなのだろうとみんなで噂をして痛そうだ。
今ではその小学校にも、立派なプールが出来て、川の方は治水が進み、遊泳禁止になっていて、そもそも川に入れないようにフェンスまで出来てしまっていると言う。




