先輩は何をしていたのか?
大吾さんがまだ大学に通っていたときのこと、今でも解決したわけでは無いが、終わっているであろう話があるそうだ。
大学の一年生、とある助教授の試験で手詰まりを感じていた。そこで伝手を辿ってとある先輩からその助教授の過去問をもらった。まだ准教授ではなく、助教授と呼ばれていた時代で、過去問があれば試験はどうとでもなるような時代だった。
その先輩に一本の日本酒を渡してソレと引き換えに過去問とノートのコピーをもらった。当時はまだ未成年でも酒を買うくらいはろくにチェックされなかった時代だ。少なくとも飲んで酔っぱらいでもしなければ問題になることは無かった。もっとも、飲み方次第では問題になったこともよくあった時代ではある。
おかげで試験は通ったのだが、先輩と連絡が付かない。当時は携帯電話がようやく普及してきた頃なのだが、生憎その先輩の番号は登録していなかった。どうせ大学で会うだろうし、通信料も今とは比べものにならないほど高かったからだ。
先輩の住所も知らないが、どうせ夏休みが明けたら大学に来るだろうと思い、気にしていなかった。その先輩は割と不真面目だが試験は通ってしまうので何かとそういった方面で頼りにされていた。
バイトもしていないので退屈だったのだが、実家に帰って口うるさくされるのも嫌だったので、暇つぶしにパチンコにでも行こうかと思っていた。模範的とは言い難いが、当時の大学生はそういうものだったらしい。
しかし開いた財布を見て思いだした。先輩に買った一升瓶に支払ったお金でかなり金欠になっていた。もちろんパチンコで勝てば問題は無いわけだが、ここで大負けしたら親に『パチンコで負けたから仕送りを頼む』と恥を忍んで頼み込むことになる。それは嫌だったので仕方なくただ、部屋の中で質素な食事だけで過ごした。
しかしある日、彼の元へ人が尋ねてきた。『どちら様でしょう?』と尋ねると、先輩の親族であると名乗った。どうやら先輩と連絡が付かず、一番近くに住んでいる彼が先輩の様子を見てきてくれと頼まれたらしい。しかし先輩の部屋には鍵がかかっており、家賃はしっかり払われているので放置状態だった。
そのせいで先輩と交友関係があった人に何か無かったかと尋ねてきたと言う。しかし、それなら鍵を開けて中を見ればいいではないかと思ったのでそう言うと、途端に口が重くなり、『いや……まあ……部屋には入ったんだがね……』と言う。そもそも何故自分のところに来たのだろうかと言うことも疑問だ。その事を尋ねると渋々先輩の部屋の様相を話してくれた。
「実は……アイツの部屋なんだが、笑うなよ? 部屋の壁に星形の図形が描かれていてそこに一升瓶が供えてあったんだ。何かに祈っていたような有様だった。アイツは日記を付けていたんだがアンタが酒瓶を送った日から日記がついていないんだ。アンタなら何か心当たりがあるんじゃないかと思ってな」
残念だが先輩の情報など知らない。あの人は個人情報を漏らさないような人だったので、そもそもここに親族が来るまで住所など知らなかった。だから答えようがないと伝えると『何か分かったら、この番号にかけてくれ』と言い電話番号を残して去って行った。
結局、夏が開けても先輩は見つからず、行方不明となって、結局除籍処分となり先輩のその後は知らない。ただ、大吾さんは『もしかしたら自分にも責任が少しくらいはあるんですかね? あまりそうは思わないようにしているんですけどね』と言っていた。未だに先輩は見つかっていないし、何か分かったことは無いかと教えられた番号に電話をしたのだが、何があったかは不明だが使用されていない旨をアナウンスされた。
真相は不明だが、先輩は手の届かないところに行ってしまったのだろうと思っている。今となっては、あの時のに先輩にもらった過去問とノートの写しだけが先輩が存在していた証拠になっているという。




