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怪奇箱  作者: にとろ


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今思えば

 冬の近づいてきた季節のことだ。野木さんは仕事を終えて帰ってくると、シャワーを浴びてベッドに倒れ込んだ。疲れ切っていたので部屋の明かりを消すとあっという間に眠ってしまったのだが、そのときに奇妙な体験をしたそうだ。


 その晩、窓から冷気が吹き込んできたのに刺激されて目が覚めた。ぼんやりしていたのでエアコンの冷房でも間違ってつけただろうかと思ってリモコンを確かめたがそんなことはない。


 それから少し考えると季節は冬になりつつある時期だ。つい肉体労働の後熱いシャワーを浴びて寝ていたので忘れていたが、この季節なら寒いのは当然だ。そんな単純なことに気が付かなかった自分に苛立ちつつ、網戸状態にしていた窓に近づいて閉めようとした。そのときふと外に何かが見えたような気がして覗き込んだ。


 すると暗かったので見えづらいが、黒塗りの車がヘッドライトを煌々と照らしながら次々と勢いよく通っていた。黒塗りと言ってもテカテカとしたいかにもな高級車ではなく、マットブラックの抑えめの黒さだった。こんな時間にご苦労だなあと思いながら窓を閉めて、今度こそベッドの布団をかぶって寝た。


 翌日、カーテンの隙間から差し込んでくる光で目が覚めた。休日なので心地よく目覚めることができ、カーテンをしゃっと開けると、心地よい日光が体に当たる。いい朝だなと思い窓の外を見ると、狭い路地が見えた。


 そう言えばこの家の窓の前は狭い路地で、車なら軽自動車でなんとか、普通車ではゆっくり慎重に走る必要がある。昨日の夜のように大きな車が勢いよく走れる道では決してない。いや、慣れた住人なら一台や二台はあり得たかもしれないが、アレだけの台数が勢いよく規則的に通れるような道ではない。


 あの車は一体なんだったのだろうか? 不思議に思いつつもその日の朝食をとる。何故車があんなに勢いよく通っていたかは不明だが、夢の可能性もあるか、窓は寝ぼけて閉めたんだろうと自分を納得させた。


 車が走っていったのはその一回きりだったのだが、町中をドライブしているときに黒い車の後ろについて気が付いた。前を走っている車があの時見た車とそっくりだった。よく見ると中が見えづらいようにガラスが曇っている。何の車だろうと少し考えて肝が冷えた。


 よく考えると前を走っているのは霊柩車だ。久しく葬儀などに出ていなかったし、実家のある地方で行われていた葬儀は宮方の霊柩車を使うのがお約束になっていたので、霊柩車と言えば金色の細工が施されているもののイメージだったので、あの時は知っていたのが霊柩車だと気付けなかった。しかし、今前を走っているのは主流になっている黒く長いタイプの霊柩車だ。


 何故霊柩車が家の前を何台も勢いよく走り抜けたのかは分からないが、そのときになって思えばアレは間違いなく霊柩車だった。背筋が冷えるのを我慢して、霊柩車と道を分けたところで一安心した。ただそれだけのできごとなのだが、幸いと言うべきかあの霊柩車は誰かを運んでいたのだろうかわからない。自分には関係無いようだった。


 少なくともあの車列を見てから大量に死者が出たようなことはない。一応気味が悪かっただけで実害は無かったそうだ。


 ただ一つ今でも彼が困っているのは、リムジンのような少し長い車を見ると、あの時疾走していた車を思い出して不安になってしまうようになったとのことだ。


 最後に彼は『まあ、誰かが死んだってわけでもないんですけどね』と悲しそうな笑顔をした。彼は今でもその家に住んでいるが二度と同じ現象に出会ったことは無いと言う。

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