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怪奇箱  作者: にとろ


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深夜営業

 史郎さんは休みの前日、夜中に散歩をするのが趣味だった。都心ほど夜でも人が起きているような地域でもなく、街灯のぼんやりした明かりを見ながら歩くのは楽しかった。冬でもやっている習慣だったが、やはり春と秋が一番丁度良い季節だそうだ。夏に入りかけだったり、夏の残り香のある季節だとちょうどいい気温で歩いて行ける。


 そんなことを続けていたある日、その日は休みの前だというのに来週のことを考えると気が重かった。終業直前によくもまあ急ぎの仕事を入れてくれるものだ。余裕は休みが明けて三日、大したことのないタスクだったが、休み明けから忙しいことを思うと気が滅入った。


 休みなのだから先のことなど気にせず歩けば良いものを、その日はついつい酒のロング缶を一本空けてから散歩をする。人のいない道というのはどうしてこうも歩いていて気持ちが良いのだろうか? 深く考えること無くその辺を歩けるというのは良いことなのだろうと心底思う。


 そのまま歩いていき、スーパーやコンビニなど、二十四時間営業の店舗に行き当たったらその店に入って適当なものを買い、それを出てから満足げにビニール袋で提げて歩く。良くはないのだろうが、アルコールもいくらか買っている。最近ではコンビニでそこそこまともな酒が買えるので良い時代だと思う。少なくともこんな深夜に開いている店舗でアルコールが買えるのは画期的だ。


 ついつい酒と肴を店による度に買うのでかさばってしまう。そろそろ帰るかと思って家への道を歩くと、途中に明かりの点いた家があった。自分のことを棚に上げて、こんなところにまだ起きている人がいるのかと思ってその建物に近づくと、そこは民家ではなく居酒屋だった。


 今の時間は時計を持っていないので不明だが、まだ営業中ということは朝が近いということもないだろう。そこでその居酒屋に入ってみた。


 中は小綺麗ないかにも居酒屋と言って想像できる場所で、席に着くとお通しが運ばれてきた。よくある枝豆だと思いつつ食べてみたところ、今まで食べていた枝豆とは全く違う美味しさだった。


 それからビールを無くなる度に注文して、唐揚げやたこわさなどの肴を食べ続けた。味が非常に良いのだが、どうしてこんな店が無名なのだろうかと不思議だった。


 一通り食べた後、満足していると眠気がやって来た。潰れてしまうと考えたときにはもう意識が途切れた。


 目が覚めたとき、何故か寝室にいた。あの状態でどうやって帰ってきたのかは疑問だ。そこで昨日の居酒屋があったであろう場所に行ったのだが、空き地が吹きさらしになっているだけだった。あの時見たのはなんだったのだろう? 自分は確かに飲んで食べたはずだ。その証拠に目が覚めると二日酔いになっていたし、財布からは現金が減っていた。夢ではないならあそこはなんだったのだろう?


 そこで思いだしてしまった。その居酒屋にいた客に、知り合い『だった』人が何人かいた。過去形だ、何しろその人達はもうすでに亡くなっている。ではあそこで見たのはなんだったのか? 深く考えると気持ちの悪いことだし、黄泉戸喫(よもつへぐい)と言う言葉も知っている。あまり考えない方が良いんだろうと思い、その店を深く調べることはやめておいた。

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