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怪奇箱  作者: にとろ


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昇っていくなにか

 山田さんは都市部に出てきて働き、一人暮らしをしているのだが、別に田舎が嫌になって出てきたわけではない。ただ逃げ出さざるを得ないことがあったらしい。


 それは彼が高校生の頃の話だ。


 その日、夏の暑さの中を、続く畦道に百円で買った駄菓子を手に帰っていた。今ほど暑くはないがポッキンアイスがそれなりに美味しく思えるくらいには暑かった。暑いせいで、途中に生えている大木の下で少し休憩をすることにする。


 直射日光さえあたらなければそれなりに耐えられる気温なので、日陰でアイスを食べながら少し休憩をしてさっさと家に帰ろうとした。そのとき、そう言えばウチの田んぼはこの辺だなと思ってそちらに目を向けた。


 何か真っ白で羽の生えたものが田んぼのど真ん中に立っていた。『そこ、ウチの田んぼなんだけど』と言いたいのをぐっと我慢して、注意に行こうと思ったがそれをしなかった。少し見ていると、一歩も動かず姿勢も崩さず浮いていた。そんな非常識なものがあるのかとも思ったが、その人と呼んでいいのか分らないものは、ピクリともせず、立ったままの姿勢で空に向けて浮かんでいき、見えなくなってしまった。


 どうしたものかと思ったが、別に何かあったわけでも無いようだし、田んぼに踏み荒らされた後も見当たらなかったのでそっと家路についた。


 家に帰ると扇風機の前に居座って涼をとる。エアコンの電気代がまだまだ高い頃なので寝苦しいが、扇風機を独り占めする気持ち良さはまだあった。


『母親が呼んだので夕食になったんです』


 問題はその後だったそうだ。食事の時に何気なく『ねえ、田んぼで真っ白な人がいたんだけど知ってる人?』、もしかすると農業を協力してくれる人で、浮かんだのは自分の勘違いかと思った。しかしその言葉を言った途端祖父が難しい顔をした。


『顔は見たか?』


 そう聞かれたので『見えなかった』と答えると、『ならいい、ただお前をこの家に置いておくことは出来なくなった、新居を見つけるまでは面倒を見てやるから引っ越せ』と普段とは全く違う冷たい言葉が出てきた。ただ、そのとき祖父の顔が青ざめていたのを覚えている。


 それからしばし、父親は新しい職場を探しながら引っ越しの手続きをした。祖父が重々しく言っていた割には案外あっさりしているんだなと思う。


 そうして引っ越し先の準備も出来たので、いざ引っ越そうとしたのだが、祖父の姿は見えなかった。何か良くないものを見てしまった空だろうか。なんだか酷く冷たいように感じた。


 それから祖父は没交渉で、祖母がたまに新居に来るくらいだったが、結局祖父は老衰で亡くなってしまうまで会うことは無かった。しかし問題は無くなった後だった。


 自称祖父の愛人を名乗る人が出てきたのだ。その人は昔祖父と婚約までしたそうだが家と家の都合で引き離されたそうだ。当時は珍しいことではなかったらしいが、急にそんな人が出てきたので遺産相続は大揉めした。


 孫である彼には関係の無い話だったが、愛人さんが祖母の存在を知っていて嫌がらせをしているとするなら……きっとあの時田んぼで見た何かの両手が赤く見えたのでそれをよく見るたとき、手の先に見えたものが両手に短くて真っ赤な鎌を持っていたことに妙に納得した。


 農家なのだから鎌だったんだろうな、なんとなく納得してしまった。


 その後揉めたそうだが、一応決着は付いた、ただ彼にはその詳細を教えてくれなかったそうだ。

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