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怪奇箱  作者: にとろ


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金色の猿

 小糸さんはある時不思議なものを見たのだが、彼女曰く『無知って本当に怖いんですね』と語っていた。それはまだ彼女が中学生だった頃の事だ。


 その日、いつも通り学校までの道を歩いているとき、あくびをしながら上を向くと何か光るモノが見えた。見間違いかと思って目を擦ってそちらをよく見る。そこに居たのは金色の毛をした猿だった。こんな町中に猿!? と驚いたのだがどう見ても猿だ。いや、毛が金色なのもおかしいが、そもそもここら辺に猿が出てくることすら珍しい。


 足を止めてその猿をじっと見ていたのだが、周りを見ると全員気にしないように歩いて過ぎ去っている。そこであの猿は自分にしか見えていないのだろうと気が付いた。この世の者ではないのかもしれないし、そっと立ち去ろうとしたときだ、猿がぴょんと跳んで一軒の家の屋根から窓ガラスに突っ込んだと思うと、そのまますり抜けて部屋に飛び込んでいった。


 アレは一体なんだったのだろうと思いながらそのまま学校に行った。その日は何も起きなかった。しかしそれからしばし後、その家の前に引っ越し業者のトラックが止まっているのを見た。嫌な予感がしたので、不幸でもあったのかとそれとなく帰宅して母親に話を聞いた。すると『あまり言いふらすんじゃないよ』と言ってから事情を話してくれた。


 なんでもその家は宝くじを当てて、まとまったお金が入ってきたので引っ越してしまったそうだ。ただ、お金のことだからあまり言うなと強く釘を刺された。


 しばらくは黙っていたのだが、その家が空き家になっているのを見る度に気になったので、あまり他人にいうべきでも無いだろうということで、祖母だけにあの猿を見たことを言うことにした。


「おばあちゃん、信じて貰えないかもしれないけど、あの引っ越した家あるでしょ? 私あそこで……」


 そうして猿を見た一件を話すと、祖母はため息をついてから言う。


「本当に馬鹿なことをするんだねえ……いいかい、あの猿のことは黙っておきなよ。あれが出たらその家に住み続けなきゃならんのにねえ……まあ、アンタも直に分かるよ」


 それだけ言ってお茶をすすった。どうやらこれ以上話す気はないようなので、あの家を時々気にしながら生活をしていた。それから少しして、あの宝くじを当てた家が新事業の融資だと言って詐欺に引っかかったと聞いた。宝くじで当たったお金のほとんどを失い、固定資産税も高いので安アパートに家族で引っ越したそうだ。


 その事に祖母の説明を求めるとあの猿のことを語った。


「あの猿はね、家にお金をもたらすんだよ。でもね、人にお金をもたらすんじゃないよ、家にお金を運んでくれるんだ。だからあの猿が入った家は引っ越しちゃダメなのさ。ま、あそこは新参者だったからそんなこと知らなかったんだろうけどね。お金が入ったから引っ越すなんてバカなことさね」


 祖母がうんざりした様子であの猿のことを言うので、そういうものなのかと納得したが、それと同時にローカルルールを教えてもらえないのも大変なんだなと思った。


 あの金色の猿にはいろいろ謂れがあるらしいが、それを詳しくは教えてもらえなかった。ただ、彼女は最後に『あの猿は一応良いものなんでしょうけど……ウチには来て欲しいとは思いませんねえ』と語った。

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