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怪奇箱  作者: にとろ


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目立つ本

 深見さんはそれなりに前、後味の悪い体験をしたそうだ。あまりいい思い出ではないと前置きして話してくれた。


 まだ親からお小遣いをもらって買い物をしているような歳だった頃の話だ。趣味は本を読むことでゲームをやるより好きだった。別に高尚な趣味だとかそういうわけではない。ただ単に反射神経が弱かったし、頭脳戦をやるには当時では情報が少なすぎた。今でこそ低レベルクリアの動画を探せばいくらでも見つかるが、当時はそんなノウハウは見つけられなかったので、自分の才能と関係無く楽しめる本が好きだった。


 親はそんな趣味を褒めていたが、実際に読んだことが無いのだろう、実際買っている本を読んだら教育に悪くて卒倒するんじゃないかというような本を好んで読んでいた。


 わざわざ言うこともあるまいと思い黙っていたところ、勝手に賢いと思い込まれてしまったそうだ。本人にすれば勝手に期待しないでくれと言いたかったが、黙っていれば叱られないので沈黙は金だと思っていた。


 そんなある日、部屋で何度読んだか分からない本を読んでいると、親が部屋に入ってきて封筒を渡してきた。


「職場でもらったんだけど、あんたにあげるわ」


 そう言って渡された封筒を開けるとそれなりの金額の図書カードが入っていた。喜んでもらって本をしまうとさっさと書店に向かった。ネット書店がまだ有名ではなかったし、図書カードの額面は結構な額だったので早速買ってしまおうと思い家を出た。


 書店に入ると小説のコーナーに並ぶ本の背表紙を眺めていった。といっても規則的な色で背表紙が統一されているので、タイトルが気になったものを引き抜いてあらすじを見ていた。


 そんな時、真っ赤な本が目に付いた。いや、本当は朱色に近かったかもしれないが今では真相は不明だ。とにかくその本には背表紙に文字がなく、ただ赤いだけだったので興味が湧いてそれのあらすじを見ようとした。しかしあらすじは裏にもなく、カバー袖にあるのかと思ってめくってみたが、そこも真っ赤になっており、一切のあらすじは不明だ。


 それどころか値段も書いておらずバーコードが印刷されているだけだ。俄然興味が湧いたので、ダメなら戻せば良いだけと思いレジで値段を確かめてもらうことにした。すると偶然にもその本の値段は図書カードの額面とピッタリ一致した。なんとなく運命的なものを感じて図書カードを迷わず差し出した。


 そして家に帰るとその本を読んでみた。だが、三分の一ほど読んだところで挫折してしまった。その本には昔からの人類に起きてきた災害が詳細に書かれている。歴史書というわけでもないのだが、妙に描写がリアルで気持ちが悪かった。


 普段教育に悪いものを読んでいる彼もそれには耐えられなかったというのだから大概だろう。


 本を本棚にそっと戻して、これは読まない方がいいんじゃないかと思って考えないようにしたのだが、背表紙が鮮やかな赤いろなだけに目立つ。その日は一日落ち着かなかった。


 翌日、本棚を見ると昨日の赤い本がなくなっていた。考えればキリがないし、もったいない気もしたが、読まない正当な理由ができたので無くなったのをいいことに気にしないことにした。


「と、まあそれが怪談だと思っているんですよ……」


 なんだか歯切れの悪い言い方をするので、まだ何かあったのでは無いかと彼に教えてくれないかと尋ねた。すると嫌そうにしながらもこの話の不気味なところを話してくれた。


「その赤い本なんですが、始めのページに載っていた災害が昔の大火だったんです。それ自体はともかくとして、本が消えて数日後に町内で火事があったんですよ。無人の家から出火したんです。無人だったので怪我人はいませんが……偶然ですよね?」


 私は「気のせいでしょう」と思ってもいないことを言って誤魔化し、微笑んで話を終えた。

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