プールと人魂
持田さんは中学生だった頃、一回だけ怪異に遭ったらしい。害があったわけではないのだが、なんとも印象には残っているそうだ。
彼の通う中学校にはプールがあった。中には中学になるともうプールがないところもあるらしいが、彼の学校にはしっかりと有った。
しかしそのプールには多少不穏な噂があって、夜、プールに人魂が出るというものだ。そんな噂はほとんど誰も信じていなかった。何しろそのプールには死者を出すどころか、事故すら一回も起きていない。そんな所に人魂が出るだろうか? 少なくともそのプールが墓地の跡地だったりはしない。だからそんな化けて出るような者は居ないはずだと結論が出ていた。
中学生なら遊びたいし、あえてプールに忍び込もうなどと言う物好きも居ないので、何故そんな噂が立ったのかは分からなかった。
それは中学に入って、暖かい空気が熱いと言っていいのか微妙な時期になったときのことだ。
小学校ではとやかく言われなかったのだが、中学になると学習塾に通わされてしまった。成績が悪いわけではないが、高校のことを多少は見据えろと言うことだそうだ。
何とか勉強にはついていけていたが、その日は日が沈んでしばらくしてようやく帰宅できるような時間だった。他の生徒は結構な人数が自宅から親が送迎していたのだが、生憎そんな伝手はない。そこで徒歩で帰っていたのだが、うっすら汗ばむような気温にうんざりしていた。
塾の帰りに学校の隣の道路を通るのだが、通りがかったときに何故かプールの方に明かりが見えた。ウチは水泳の強豪では無いはずなのに、そう疑問に思い、プールの見える位置まで移動してみた。すると明かりの光源は火球だった。人魂かどうかは不明だが、確かにそこには火球がフワフワと浮かんでいた。
逃げ出したくなったのだが、何故かそれに釘付けになって目が離せない。しばらく見ているとその火球は水面にポチャンと沈んで光が消えた。それと同時に体が自由になったのでまっしぐらに家に帰った。
オカルトじみた話を家族にする気にもなれず、黙っておいた。そもそもアレが人魂だとしたら誰が化けて出るというのか? 少なくとも誰かに恨みがあるならもう少し効率の良いやり方があるだろう。プールが大好きだった人の人魂かなとも思ったが、だったら市民プールにでも出てくれと思いながらその日は寝た。
さて、翌日は中学の体育でプール開きの日だった。昨日あんなものが入っていたプールで泳ぐのもなとは思ったが、そんな理由を話したところで誰も信じない、その上体育教師が見本のような今で言うパワハラ気質だったので逃げるわけにもいかない。
そんなわけで水着を着て昨日の火球の燃えかすが無いのを見てから飛び込んだ。『飛び込みは止めろ』と言われたのだが、そんなことは知ったことではない。そうして飛び込んだ結果、結局人魂が出てくるようなことは無かった。
ただ、プールの始まりは大抵水が冷たくて仕方ないのだが、その日は水がぬるくて入るときに鳥肌が立つようなことは起きなかった。
『だからまあ……人魂ではないと思うんですよ、ほら、アレって物理的に熱いって話は聞かないじゃないですか?』
彼の結論は何かは分からないが幽霊では無いと言うことらしい。ただ、燃えていたのは事実なのだろうなと思ったと言う。




