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怪奇箱  作者: にとろ


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引っ越しの理由

 中村さんが大学生の頃の話だ。地元を離れ都市部のアパートで一人暮らしをしていた。全て一人の裁量で生活が出来るというのを大いに楽しんで、友人も次第に増えてきた。大学ともなると高校までとは全く価値観が違うヤツも平気で友人になる。そんなわけでなかなか楽しいキャンパスライフを謳歌していた。


 その日も遅くまで入学時に買わされたPCでゲームを楽しんでいた。MMORPGでトレード希望を出して放置していたものが取り引きが成立したかを確かめている時に玄関チャイムが鳴った。もう夜であり、こんな時間に誰だと思ったが、どうせ商人キャラを放置しているだけなので玄関に向かった。


 ドアスコープを覗くと見知った顔が見えた。大学で友人になった大木という男だ。大木は割と実家が太いので立派なマンションで暮らしているようなヤツだ。


 ドアを開けると大木が慌てて部屋に入ってきた。走ってきたのか息を切らしているので『どうしたんだ?』と尋ねた。すると大木は、『頼む、今日だけで良いから何も言わずに泊めてくれ』と言ってきた。理由もいわないのかと思っていたが、コイツが家から何かを盗むようなやつでは無いと知っていたので、一晩だけだぞと言って部屋に泊めてやった。客用の布団などないから畳の上に直接寝てくれと言ったが『ありがとう、たすかる』と言い、不平の一つも言わず畳の上で横になると寝てしまった。


 何があったのかは気になったのだが、急いで聞くようなことでもないだろうと思い自分も寝た。翌日、大木はお礼を言ってから『不動産屋に行ってくるよ』と言って部屋を出て行った。何かあったんだろうと思いながらも問い詰めるようなことでもないだろうと思いながら見送った。


 その晩、スマホの通話アプリに着信があった。アイツは今ビジネスホテルに泊まっているらしい。月末で通信量に余裕はまだあったので、いい加減何があったのか教えてくれないかと尋ねた。すると少し黙ってから『まあ……もう関わらないだろうしいいか』と言ってから話を始めた。


 そのとき住んでいたマンションでは、妙に寝苦しいことが多かった。数日に一度は胸の上に重しを載せられたような感覚を覚えるのだと言う。目を開けられず、しばし見えない重さに耐えていると次第にふっとその重さが消えるのだ。


「それで引っ越すことにしたのか? 事故物件か何かだったのか?」


 そう訊ねると『分からん、ただ……』と言って引っ越すのを決めた決定的な出来事を語った。


 あの日、中村さんのところに来た時、早めに寝ており、その日も寝苦しさがやって来た。ただ、その日はいつもと違い目が開いた。眼球だけを動かして自分の胸のあたりを見ると、赤ん坊……とまではいかないだろうか、それでもまともに立てないであろうくらいの幼い子供が自分の上に乗っていた。


 ただ、それだけならお祓いでもしようかと思っていたのだが、その子供の小さな手が大木さんの首に伸びてきた。締められるのかと身構えたのだが、子供は首に手をあてて力を入れているようだが、幼さのせいか首を絞めるには全く力が足りない。普段からフィットネスジムに通っていると、この子供の力が全く無いことが嫌でも分かってしまう。


 そのとき涙が流れた。怖いのではなくこんな子供が必死に恨みを込めて首を絞めようとしている事への悲しさだ。やるせない思いが満ちてきた頃に子供がかき消えて体に自由が戻った。二度とあんなものは見たくないのでその晩は泊めてもらってすぐに不動産屋に行って引っ越し先を決め、それまではビジネスホテルで過ごすそうだ。


「怖いんじゃないんだよ……あそこで何があったのか知らないけどさ、まだ手に力を入れられないような子供が必死になってるんだよ。アレならまだ悪霊がすごい力で締めてきた方がマシだと思うね。ほんと、やるせないものだったよ」


 そう行って大木さんは引っ越すまでホテル暮らしだよと言っていた。その物件で何があったのか、もしかしたら隠しごとがあるのかもしれないが、関わりたくないので詮索する気にもなれないそうだ。


 そんなわけで、アイツは部屋を引っ越しましたよ。怖いものって言うのは人それぞれなんですねえ……


 そう言って中村さんはしみじみと話を終えた。

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