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怪奇箱  作者: にとろ


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古井戸の正体

 麻衣さんの実家は山を保有していた。まだ幼い頃、その山で遊んでいたこともあったが、どうしてもそこにだけは行くなといわれていた場所がある。


 それは古い井戸なのだが、落ちたら危ないからと近寄るのを禁止されていた。しかし時々その井戸に祖父か祖母がついてこいと言い、その井戸に連れて行かれたことがある。そのときに『麻衣は跡を取るけえな』と言われていたのだが当時は意味がよく分からないままだった。


 今にして思えば、両親は井戸のところに行っているのを見たことがないので何故自分なのか不思議で仕方ない。しかし、そういうものだと思っていた。


 しかし、ある時祖父が病に倒れ、先は長くないと言われて何回も病院にお見舞いに行って顔を出していた。そんなことをしている時、ある日家に居ると祖母が呼ぶ。『おじいちゃんのことかな?』と思い祖母の部屋に入ると、祖母は座布団の上に座るよう言い、和室の襖を開けて廊下に誰も居ないことを確認してぴしゃりと襖を閉める。これはただ事では無いのだろうと直感してしまう。


「さて、あんた、おじいちゃんが跡を継げと言っていたろう? 言っておきたいことがあってね」


 そして祖母は重い口を開いた。


「いいかい、あんたを連れて行っていた井戸だけどね、アレは水を汲むためのものじゃないんだ」


「え? だってどう見ても井戸じゃ……」


 滑車にボロボロに朽ちた桶がついていたのも覚えている。明らかに井戸として使用するように作られていた。


「アンタももう高校生だからね、話しておいた方がいいさね、私もそう長くないかもしれないからね」


 それから大きなため息と共にあの井戸の忌まわしい謂れを話し始めた。


 祖母の代から更に前、まだ第二次大戦より前の話だ。当時は今ほど豊かな医療は提供されておらず、不治の病とされていたものも多かった。今では治療法が確立している結核でも当時は非常に忌み嫌われていた。ハンセン病なども当時は不治の病とされていたもので有名だろう。医学の発展で治療法が見つかるまで、それらは危険で近寄ってはならない病気だとされていた。


「ま、今のアンタには信じられないだろうけどね。昔はインフルエンザに予防注射さえしてなかったよ」


 となると病気が伝染すると恐れられ、病に感染したものは『村八分』にされていた。しかしその家族まで累がおよぶのはよくないと考えた集落の長が一つの井戸を作らせた。そしてそこに『水を汲もうとした時誤って』患者が次々と転落していった。


「アンタなら大体想像つくだろう? アレは井戸なんかじゃ無いのさ、いくつもの人を食った墓穴なんだよ」


 忌まわしい過去の話を聞いて背筋が寒くなった。確かにかつては村八分にされたらロクに生きていけないとは聞いたが……まさかそんなおぞましいことが自分の近くで起きているとは思わなかった。


 それで医療が発展してからあの井戸は使われなくなったんだけどね、どうしても埋められなかったのさ。実際あそこに井戸の神様なんていやしないんだから埋められるはずだったんだけどねえ……埋めようとする度に事故が起きたのさ。それでウチにあの井戸の管理という貧乏くじが回ってきたのさね。まあおかげでそれなりの金額をもらったそうだけどね。


「それで、麻衣、あなたは高校を卒業したらここを出て行きなさい。なに、こんなところの心配なんてしなさんな。私と爺さんの代で終わらせるからね。アンタを大学に行かせてやれないのは心残りだけどねえ……またお金をもらったらここのお守りをさせられるからね。アンタは自由になりなさい」


 そう言って祖母は話を終えた。某県で彼女が祖母からされた話だそうだが、真相は不明だ。ただ、麻衣さんは高校を卒業してすぐ上京し、運良く就職にも困らず今はすっかり田舎のことは忘れようとしている。


「おばあちゃんやおじいちゃんには悪いですが、私も自分の身が可愛いですからね。こうして逃げちゃったんですよ」


 そう言って彼女は酒をあおった。今のところ何も起きていないそうだが、祖父母の死に目に会えなかったのは後悔している。それでもあの場所に帰るつもりは一切無いらしい。

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