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怪奇箱  作者: にとろ


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烏帽子の男

 仙道さんの実家には古びた倉がある。その隅には決して触ってはならないと言いつけられていた仏壇があった。


 家の中には仏壇が無いのにどうして倉の中には置いてあるのだろうと不思議に思ったことはある。また、時折その仏壇に祖母がお供えをしているのも知っている。ただ、そういうものだと思っていたのであえて聞くこともしなかった。その仏壇に誰が祀られているのかも家族は誰も言わなかった。


 ただ、お墓参りはしっかりするのに仏壇にはなにもしていない様子から何か触れない方が良いものなのだろうとは思った。


 ある日、仙道さんは些細なきっかけからいじめられ始めた。理由は何だったかなどもう記憶に無いが、ほんの些細なことだったのだと思う。ただ男女両方を敵に回して酷い目に遭っただけだ。


 登校すると鉛筆がおられて机の中に入っていたり、教科書を開くと汚い言葉が書かれていた程度の事だが、小学生だったのでかなり堪えた。今にして思えば教師にそこまで求めるのも酷だったのかもしれないが、とにかく味方になってくれる人は居なかった。両親にはなんとなく言いづらかったのでだんまりを決め込んでじっと耐えた。


 それが一週間ほど続いた夜だろうか、夢の中に烏帽子をかぶった陰陽師が現れた。その男は嫌らしい笑みを浮かべていた。ただ、その日はイライラしていたのでそのイライラ顔にも勝るような睨み方をすると、その視線を理解したのか、何故か口角を上げてニヤッと笑いふっと消えた。


 翌日、いじめはすっかり無くなった。クラスがそれどころではなくなったからだ。いじめていた主犯たちが相次いで骨折や捻挫、火傷などの怪我をして数日から数ヶ月学校を休むことになったからだ。教師は触れなかったが、クラスメイトたちは傷跡が残るんじゃないかなどと口さがなく言っていた。


 偶然とは思えず家に帰るなり、一番熱心に仏壇の手入れをしていた祖母に烏帽子の男のことを話した。なんとなくだがあの仏壇とは無関係とは思えなかった。


 半泣きで全ての事情を話すと、祖母は泣きそうな顔になりながら『そうか、そうか……』と抱きしめてきた。それからあの仏壇の謂れを話してくれた。


 なんでも、ご先祖がそれなりの金額を払って手に入れた仏壇だそうで、なにが祀ってあるかは分からないが、いずれこの家に必要になるものが祀ってあると言われていたらしい。


 その言い伝え通り、一人娘が無事助けられたわけだ。それからいじめっ子が学校に復学した頃にはすっかり見る影も無い怪我をしていたのが分かった。


 そんないじめっ子は影響力を失い、中学に上がる時に全員散り散りに地域の中学に進学せず居なくなった。


 そして卒業の日、祖母が倉の方へ呼ぶので行ってみると、そこには無残に壊れた仏壇があった。


「お役目を果たしたんだねえ……」


 そうしみじみと祖母は言ったが、果たしてそれが善良なものなのだろうかとは疑問が残った。その後、婿を取って家を継いだので自分がいなければ家は途絶えていた、その意味では仏壇が家を救ったといっていいだろう。


「話は以上なんですけど、あの仏壇は良いものだったんでしょうか? どうも祟り神の類いのような気がして怖くなるんですけどね……助けられたのは確かなんですけど、もう少し助けかたってなかったのかなって……」


 仙道さんはそう言って話を終える。もう役目を終えた仏壇は廃棄されたので真相は闇の中だが、たとえどんな方法であれ、彼女が助けられたことには変わりないのだからたとえそれがどんな悪鬼羅刹だろうと確かに家のためにはなったのだろう。


「貴重なお話ありがとうございます」


 そう言って彼女と別れた。私が席を立った時に背筋が寒くなったのは気のせいだと思いたい。

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