人魂の行方
松本さんが子供の頃、夜空に浮かぶ人魂を見たことがあるらしい。ただ、その事は家族や知り合いには秘密にしているそうだ。
ある日、夜まで勉強をしてぼんやりと机から夜空を見つつコーヒーを飲んでいた。そのとき何か奇妙なものを見た。始めは星かなと思ったのだが、動きが速いので星では無く火球だと思った。
しかし火球にしてはなんだか意志を持っているような動きをしている。次第に地上の近くまで降りてきたかと思うと、二階に居た自分の目からはっきり見える位置まで降りてきた。人魂かなとそのときになってようやく直感した。
カーテンを閉めて何も見なかったことにしたいと思ったのだが、アレが突然自宅に飛んできたらと思うと目を離すのも怖かった。怖いの一言で片付けたかったのだが、次第にアレがどこに行くのか気になってきた。家の屋根をはねるように移動する人魂を食い入るように見ていると、突然ぱっとある家の上で消えた。もしかしたら家が燃え上がるのではないかと思ったが、やはり人魂だったのか火がつくことはなかった。火球ではなく何かの光を出している物体だったと思う。
そしてそれを見てから翌日、その家の前をそっと通りがかったのだが、何の変哲もない家で変わった様子も無いのでさっさと昨日のことを忘れて登校した。
問題は数日後だ。その家で赤子が生まれた、その子は大切に育てられていると聞いていたが、しばらくの間顔を見ることはなかったため、すっかりあの人魂のことを忘れていた。
数ヶ月が経ち、いつも通り町を歩いているとベビーカーを押すその家の奥さんが居た。近所だったので会釈をして通り過ぎようとした時、『おねえちゃん、みてた』と赤ちゃんが突然声を出した。まだ言葉はほとんど覚えていないらしいが、その声はアクセントまで完璧なはっきりとした声だった。
戸惑っていると『ごめんなさいね』と奥さんが言ってそそくさとその場を去って行った。きっと『みてた』というのは『見てた?』という意味なのだろう。何を見ていたかはいうまでもない、あの人魂だ。
「さて、ここで私には二つの考えがあるんですよ」
彼女はそこまで話してそう言った。
「どのような考えでしょうか?」
「一つはあの人魂があの家に何か祟りをもたらそうとしていたという平和な考え方です」
あまり平和とは思えないが、まだ何か恐ろしい考えがあるらしい。
「もう一つはどのような考えですか?」
「あまり考えたくはないのですが……あの赤ちゃんの中身があの人魂に変わったって事です。人魂が赤ちゃんに乗り移ったなら……その前にあったはずの赤ちゃんの人格はどこへ行ったか考えたくないんですよ」
あまり考えたくない想像だった。しかし彼女は更に不吉なことを言う。
「あくまで憶測なのですが、その家って赤ちゃんを授からないって愚痴っていたんですよね。田舎ですから、そういった情報が漏れ聞こえてくるんですよ。もしも……もしもですよ? 子供を授かるために何か儀式をしてあの人魂を呼び寄せたとしたら……想像ではあるんですが怖くて仕方ないんですよ」
そう言って彼女は話を終えた。私は何か言おうとしたのだが、彼女はそれを制して『話してスッキリしました』とだけ言って席を立った。真相は気になるが、彼女が話したくも考えたくもないのだからきっと知りたいとも思っていないのだろう。なんとも不完全燃焼な話になってしまったが、疑おうと思えばいくらでも疑えるという怖い話だった。




