ホームにポップする
金川さんはかつてSNSをやっていた。過去形なのは、今ではすっかりやめたからだ。彼から話がしたいという連絡も携帯電話で受けた。このスマホが事実上標準と化しつつある時期に従来型の携帯電話は久しぶりに見た気がする。
「どうもね、所謂インプレゾンビってヤツが湧くんですよ。鬱陶しいったら無いですね。スマホを持ちたいってのに、アイツがしつこいから……」
それだけなら怪談でもなんでもないだろう。SNSにはブロック機能やミュート機能があるというのにそれを使えばある程度済みそうなものだが……
「インプレゾンビは怪談ではないのでは?」
正直私はがっかりしていた。わざわざ携帯電話をあえて使っているのだからそれなりの理由があるのだろうと思っていた。出てきたネタの小ささに少々とは言え期待外れだなと思う。
「いや……その……ねぇ……」
なんだか妙に歯切れが悪い。私は『何かお力添えをご希望で?』と尋ねると、待ってましたとばかりに彼は話し出した。
インプレゾンビってほとんどが日本語じゃなかったり、エセ日本語やコピペで済ませるじゃないですか? 善悪はさておき無視すれば済むんですよ。
ただね……俺の書き込みがバズった時に限って湧くアカウントがあるんですよ。それも一つや二つじゃなくね、ちゃんと日本語で書き込みに意味がある投稿をするんです。名前も代替○○aとか○○bとかとってつけたような増殖をさせたアカウントなんですよ。
始めはただの粘着だと思って無視していたんです。ただ、あんまりしつこいのでついそのアカウントのプロフィールを覗いたんですよ。見るんじゃなかったと今でも……
そこで彼はいったん言葉に詰まってから話を進める。気が重そうだが話してもらわないことには始まらない。
アイツだったんです……小学生時代に俺たちがイジっていた少し頭の悪いやつで……俺だってすっかり忘れてたのに……
多分いじめていたんだろうなということは彼の言葉の端々から分かる。決してそれを認めないだろうが、周囲から見ればそんなものなのだろう。
「それで、そのアカウントの正体は一体何だったんですか?」
さっさと話を終わらせたいのではっきり言う。オカルトでもなんでもない可能性が高いので早いところ結果が聞きたい。
アカウントを開いたら……俺の写真がびっしりと貼られていたんです。正面から撮った写真とかじゃない、アイツがわざわざ俺の目の届かないところからこっそり撮った写真ばかりで……あのクズ、未だに俺なんかのこと恨みやがって……
ひとまずそのアカウントをブロックしたんですがね、アイツはいくつアカウントを持っているのか、次から次へとアカウントを変えながら俺に粘着してくるんですよ……そんなことできるはずないのに……
「できるはずがないとは? その方が存命なら不可能ではないと思いますが?」
そう私が言うと、彼は言葉に詰まってから話す。
「そんなわけない! アイツは……アイツは俺たちから逃げている時に橋から落ちて両手が不自由になってるんだ! そんな器用なことができるはずがない!」
そういうことか。話すことは特にないな。恨みを買ったらそういう超常現象じみたことも起きるだろう。なにより私に頼られても困る。知ったことではないし、恨みという強い感情は排除するのに随分と苦労するものだ。
「謝罪をされてはどうでしょう? 謝礼はこちらです。それでは」
私は早くこの場を離れたかったので謝礼を渡して席を立った。反省する気もない人を更生させるのは私の領分ではないし、そもそも怪談なのかも怪しい。ただ、これを怪談としたいのは、席を立って会計している時、話を聞いていた喫茶店の店内を見ると彼の方にスマホを向けている人がいたからだ。彼はスマホリングを使ってピンと伸ばした指に、おそらく曲げられないのだろうと思われる傷がついており、その指で器用にスマホを保持していた。
ああ、反省するまで続くだろうなと思い私は足早に去った。彼が生きているものかどうかは不明だが、とにかく関わりたくない相手だったなと思った。




