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怪奇箱  作者: にとろ


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イマジナリーフレンド

 武士さんは子供の頃、自分だけにしか見えていない友達が居た。もっとも、その友達が自分にしか見えていないと知ったのは随分後になってのことである。


 武士さんがまだ田舎に住んでいた頃、子供自体が少なくてあまり遊び相手がいなかった。そのときにきっかけは思い出せないそうだが、女の子が一人、遊び相手にいた。なにしろ狭い田舎だ、貴重な遊び相手なので武士さんはその子と遊び続けていた。


 公園でも野原でも遊んでいたのだが、決して家に来ることはなかった。当時はゲームにネット対戦がなかったので家の中で遊ぶ理由はなかったが、彼女はきちんと武士さんの遊ぼうとしているゲーム機を持ってきて対戦に付き合ったりしてくれていた記憶がある。


 ただ、彼女の家を教えてすらもらえなかったが、どうしてそんなに都合よく自分の持ってきたゲーム機と同じ機種を持っているのかは分からなかった。ただ、その当時はそんなことはどうでもよく、遊び相手として都合が良いなとしか思っていなかった。


 そんな時、ふと自分の持っている彼女への感情が恋心に変わっていることに気が付いた。それからは一緒に遊んでいる時に意識しないことはなかったのだが、そこは子供心であり、まだ小学生の低学年だった当時に、同年代の少女に告白する勇気はなかったそうだ。


 それから、しばらくの間彼女と遊んでいたのだが、別れは突然のことになる。親の転勤で田舎から都市部へ移ることになった。武士さんは公園で泣いていると、その子がハンカチを差し出して『なんで泣いているの?』と聞いてきた。グズりながらもなんとか親が転勤でここを離れなければならなくなったことを伝えたが、そこまでいっても彼女への恋心を伝えることは出来なかった。


 しかしその子は何かを察したのか、『私も一緒に行っていい?』と聞いてきた。『無理だよ』と答えると、彼女は微笑みながら『安心して、一緒に居るよ、また一緒に遊ぼ』と言ってくる。きっとそれは慰めの言葉なのだろうと思い、『ありがとう』と言い彼女との初恋は終わった……はずだった。


 それから引っ越しの時に彼が「アンタはよく、一人で遊んでいたね」と言われ、彼女が自分にしか見えていないことを知った。


 都市部に出ると同年代の友達も出来、その子のことは久しく忘れつつあった。小学校を卒業する頃には恋愛というものに向き合えるようになり、あの田舎でのことはすっかり思い出のものとなっていた。そんな武士さんが高校生になった頃、恋人が出来た、上手くやっていける相手であり、都合の良いことに志望していた大学も同じだった。そしてそのまま進学し、今の奥さんと結婚することになった。しかし、その後、武士さんを過去が追いかけてきた。


「子供がね、出来たんですよ」


 大学を卒業してすぐ、奥さんは子供を身ごもった。仕事にも精が出てやりがいというものを感じていた。そうして子供が産まれるまでは典型的な幸せな家庭を築くことが出来ていた。


 子供が生まれたのを喜んで、家族での暮らしをしていたのだが最近悩んでいることがあるらしい。


「まだ三歳なんですけどね……娘に面影があるんです」


 それはあの田舎で遊んでいた子の印象が強く出ている。美少女ではあるのだが、どうしても彼女の言葉が忘れられない。『一緒に居るよ』という言葉は今の彼にとっては呪いのようなものになっている。


「考えたくないんですが……もし自分の娘にあの想像上の子が乗り移っていたらと思うと怖くなるんですよ。どうすればいいんでしょうね……」


 彼は本気で悩んでいるようだが、心霊ではないような気がした、その直感に少しだけ後悔しているのだが、おそらくこれは彼の問題だろうと思っていた。彼が昔想像上の友達を作った時のイメージに引っ張られているに違いない。ただ……彼がそれにとらわれているのは良くないことだと思う。


「大丈夫ですよ、娘さんは娘さんです。他の誰でもありません」


 私は気休め程度にしかならないだろうがその言葉を投げかけて安心してもらった。話したことで少し落ち着いたのか、私の謝礼を受け取り彼は席を立った。そうして喫茶店を出て行く彼を見送ったのだが、後ろでこっそりあるいている女児をみてしまった。これは彼の娘に乗り移っていない確かな証拠にはなるが、果たして『あなたに取り憑いているので娘さんには憑いていませんよ』というのが安心させる言葉だとは思えなかったので黙っておいた。

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