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怪奇箱  作者: にとろ


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飲むかい?

 笠根さんがある日、同僚と飲み歩いて帰っていた時の話だ。彼は当時飲み屋街の近くに住んでいたので、友人を誘って飲み放題の居酒屋に行き、会社の愚痴を言い合いつつ浴びるように酒を飲んだ。二人ともブラック企業勤務だったので会社の悪口は大層盛り上がる。


 そうして飲んでいると、友人がそろそろ終電だからとお金をおいて店を出ていった。自分は時間ギリギリまで居ることも出来たが、愚痴る相手もいない酒というのも美味しくない。仕方ないかと思いながら会計を済ませ店を出た。そろそろ秋を過ぎつつあり、心地よい寒さが身体を包む。もう一軒寄ろうかという誘惑を断って、帰途を進んでいった。


 しかし当然だが飲めるだけ飲んでいる状態でまともにまっすぐ歩けるわけもない。仕事のストレス発散に大いに飲んだ結果、千鳥足でフラフラと帰っていた。


 側頭部に固いものが当たって少し意識がはっきりした。どうもブロック塀に頭をぶつけていたらしい、酔っぱらうにもほどがあるなと自嘲気味になりつつ先へ進もうとした。そこで『おにいさん、アンタそんなじゃアカンよ』と声をかけられた。声の方を見ると、そこそこの年に見える老婆が立っていた。どうやら家のブロック塀に頭をあてていたので心配されたようだ。


「申し訳ない、よくあることなのでお構いなく」


 どこまで呂律が回っていたかは不明だが、そういった言葉をおばあさんに言った。しかしその人は納得していないらしく『ちょっと待ちんさい』と言い、開いていた玄関から少しの間中に入ってからすぐに一杯の水が入ったコップを持って出てきた。


「ほら、これ飲みなさい、少しは楽になるから」


 そう言われ見ると透明な水がとても美味しそうに思えた。そう言えばアルコールの代謝には水が必要だったななどと思いつつ、有り難くそのコップを受け取ろうとした。そこで違和感に気が付いた。そこは自宅の近所の家なのだが、少し前に無人のはずの家が不審火で全焼していた。火元は不明だが放火とも思えないと噂になっていたのを覚えている。


 家を見ると立派な切妻屋根の二階建てがしっかりと建っていた。なんだか寒気がしたかと思うと、胃の方から酸っぱいものがこみ上げ、急いで近くの側溝に胃の中のものを全て吐いてしまった。口の中に酸っぱさが残って気持ちが悪いのでその水で口をゆすごうかと思い婆さんの方を見ると、そこには誰も立っておらず、ただ黒焦げになった家の骨組みが塀の中にあるだけだった。


 急いで帰宅をして水をがぶ飲みし、ひどく酔っていたからあんなものを見たのだと自分を納得させることにした。そうして一晩寝ると、翌日は頭痛が酷く、二日酔いの典型のような状態だったので水で頭痛薬を飲んで少し外を歩いてみると、やはりあの家は黒焦げの柱のみが残っていた。


 そして近所だから知っているのだが、あの家の火災で死者どころか怪我人も出ていない。それどころか、そもそも親子が住んでいただけなので老婆が住んでいたことはないはずだ。では昨日あの家に入っていたのは誰なのか? そしてあの水のように見えたもの一体何だったのか? アレを飲んでしまっていたらどうなっていたのか、全て考えると恐ろしくなってしまうそうだ。


「それから出来るだけ深酒も程々にして、お金に余裕があれば近所でもタクシーを使っています。え? その焼けた家ですか? 取り壊されてもいませんよ、取り壊すにもお金がかかるからじゃないでしょうか」


 彼がその日一回だけ見たあの家は一体何だったのか? それの答えは未だに出ていない。なお、家が焼けた家族は全員存命だと確認したと言っていた。

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