表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪奇箱  作者: にとろ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/24

喪服の老婆

 雪さんは二十歳を超えた時から時折出会うものがあると言う。それは決して良いものではないのだろうが、全く心当たりが無いそうだ。


 始めは成人式の日だった。一通りのことを終えて夜に飲んでいるとその店の近くの席に喪服を着た老婆が座った。せっかくの晴れの日に縁起でも無いなと少し思ったけれど、身内の不幸を制御できるわけではないので黙って飲んでいた。ふと横を見ると老婆がこちらをじっと見ている。気持ち悪いなとは思ってもそれを表立って言わない程度にはモラルがある。ただあまり気分がよくないので早々に会計を済ませて帰宅した。


 その翌日、弟が交通事故で手の骨を折った。悪いことに受験が済んでいないというのにそんなことになり、結局彼は一年の浪人をすることになった。


「それからも時々あのおばあさんが出てくるんですよね……」


 彼女の人生の節目にその老婆は視界の隅に喪服を着た姿で入ってくる。出来るだけ見ないようにするのだが、喪服というのはやはり目立つ。一瞬見えるだけなのだが、どうしても『ああ、アレだ』と認識してしまう。そのたびに友人や家族等彼女との中が良い人が何か怪我や事故にあう。人こそ死なないものの、友人の飼っているペットが原因不明の急死をしたと聞いた時には土下座をしたくなった。


 それでもあの女から離れることは出来ない。そして毎回同じ姿をしているので、この世のものではないのだろうと思う。少なくともまったく同じ喪服を変わらない状態で着られ、着ている本人が全く老いないとすればそれはこの世のものとは言えない。もしもあの老婆が世代交代をしていないとしたらの話だが……


 世代交代するストーカーなんて考えると、それはそれで幽霊より怖いのではないかとまで思ってしまう。あの老婆が出てこないであろうところに逃げたこともあるが、遠くの方に見えたりと、どうしても何かの日には現れる。最近では何か祝日から記念日等、何かありそうな日には事前に出来るだけ人から離れた場所に逃げているのだが、確かに見えない時もある、しかし見えた時には必ず何かが起きるのだ。


 怖いのだが対処のしようがない。簡単に逃げられるような相手ではないのだろう。


「誰かと付き合ったり、ましてや子供が出来た時にあの化け物が見えたらって思うとどうしても人と深く関わり合いになろうという気になれないんです。何か対処法はありませんかね?」


 私は正直その問いかけに困った。とりあえず縁切り神社を紹介した。私はこの選択を今でも後悔している。この話を聞いてしばらく経ったあと、彼女から連絡があり、『見えなくなりました』というメールが届いたので、ひとまず解決したのかと思ったのだが、最後の文でそれが間違いだと思った。


『同僚に喪服の老婆を見たってヤツがいるんですよね、離れたいので私は退職して別の地方へ行こうと思います』


 何の解決もしていない、老婆の取り憑く対象が変わっただけだ。私は彼女の現在を知らないが、きっと今でも元気にしているのだろう、彼女が逃げ出した会社が倒産したという記事を見て、その老婆がこれからどこに行くのかと思うと怖くなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ