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怪奇箱  作者: にとろ


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神も仏も争うもの

 四半世紀前の話、山田さんは受験戦争に身を投じていた。ただ、少々参加するのが遅かった。何しろ中学三年の五月、ゴールデンウィークを遊び倒した後で周囲の子たちが受験に本気になっていると気が付いたのだ。


 そうなるともう努力をするしか無いのだが、何しろ一年のころからやる気のなかった者が三年になってようやくやる気を出したのだ。一年次に使っていた参考書をやり直すハメになった。


 つまらないものを延々とやっていくのは辛いものだ。何より辛いのが周囲の者は全員自分より遙かに進んだところまで履修していることだ。あまりに耐えられない辛さだ。


 国数英だけでは入れる高校を狙ったのだが、自宅から通える範囲にあるのはそう多くない。かといって五教科を要求する高校を狙うにはあまりにも遅すぎた。


 英語なんてろくに分かったものじゃない、数学はわけのわからない記号がならんでいる、国語に至っては現代文すら怪しい始末だ。現代文の教科書を開いてみたが、授業を受けたはずなのに初めて読むような話ばかりが載っていた。そんな調子なので古文と漢文はもうどうしようもないレベルだった。


 夏が来た頃、もうすでに手を尽していたため、もうこうなったらどうにでもなれと神社仏閣に片っ端から向かった。たくさん通えば一つくらい御利益のある場所や神があるだろうと開き直って自転車で行ける範囲の神と仏には片っ端から頼み込んで、その上でなんでキリスト教には学業成就の教会がないんだと勝手に憤慨した。


 そうして受験の時期が近寄ってきた頃、突然ある夜夢を見た。


 その夢には仁王像のような姿をした巨人や、錫杖を持った僧のような巨人、力こそ弱そうだが非常に不気味な即身仏のようなものが浮かんでいたり、鎧武者のような巨人が刀で他に斬りかかってりしてそれはもう酷い戦争の様相を呈していた。


 神々の大戦争のような夢を見てから目が覚めた。随分と気分の悪い夢だったが、神頼みなんてしているからあんな夢を見るんだと思い、机に向かって参考書を出そうと引き出しを開けた。


 そこには破られたお札やボロボロに壊れたお守りなどがあり、ごみの山のような状態になっていた。それをどう片付けたものかと思っていると、一つのお守りが無事に形を残したまま残っていた。そう言えば戦ったんだから最後に誰かは勝ったんだろうなあとぼんやり思う。


 なんとなくそのお守りは勝ち残ったということで御利益があるような気がして大事に持ち歩いていた。


 そのおかげだったのか、受験は無事なんとかなった。なんとかなったと言っても滑り止めにギリギリ合格したようなものだったが、ひとまず自宅から通える範囲に進学できた。


 結果として神仏に祈ったのは正解だったと思っていたのだが、それから大学の受験時にまた神頼みをしようとしたら、多くの神社や寺で神主や住職に見つかるとやんわり出て行ってくれと言われることになった。


 正直心当たりがあったので大学は普通に勉強の成果で通えるところに行った。


 後悔しているかどうかで言えばしていないのだが、頼っていなければあの頃高校さえ怪しかったものだと思えばそれ以降は多少のデメリットは受け入れた。


 今では普通レベルの企業には就職できたので、なんとか人並みの生活は送れているそうだ。今では神にも仏にも頼らない生活をしているが、なんとかなっているのでたぶん大丈夫なのだろうと思っているそうだ。

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