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怪奇箱  作者: にとろ


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普通の写真

 丸井さんは心霊写真を撮影することが趣味だそうだ。そんな彼が、『どうしたらいいんですか?』と私に話を持ちかけたことから始まる。


「心霊写真が撮れちゃったんですよ……」


 彼のお望みの通り心霊写真が撮れたそうだが彼の顔は暗いものだった。何とも不安そうな顔をしている。


「始めは廃墟の写真を取るのが楽しみだったんです」


 廃工場、廃病院、廃校、様々なところにこっそり忍び込み写真を撮っていた。しかしそれまでは普通に人に捨てられたものを撮るのが楽しかったのだが、ある時からせっかくだから幽霊も撮影してみようと思い立った。


 そうなると様々な場所で撮影を始めた。夜になるとこっそり家を出て、いろいろなところを回る。管理の甘い寺や神社、新興宗教の建物だって望遠レンズを使って撮った。それでも心霊写真など撮れなかったが、めげずに霊が出そうな曰く付きの場所をめぐっていった。


 時には事故の多い交差点や、事故物件なども撮影していった。しまいには墓地だって入れるところには入って好き放題撮影をしたそうだ。しかし一枚たりとも心霊写真は撮れなかった。いい加減諦めようかとも思ったのだが、今更これまで撮った回数を考えるとあっさりとは諦められず、それからも何かがあった場所を暇さえあれば撮影していた。


「それでも心霊写真っていうのは撮れないんですよね……やはり霊の類いはそう簡単に姿を見せてくれないんだなと思いましたよ。やっととれたかと思ってぬか喜びしたのがこんなものです」


 そう言って差し出す写真には黒い影が映っていたり、ぼんやりとした灯りが映っていたりした。


「これは……カメラのストラップですか? こちらは街灯の映り込みにも見えますが」


 私のその言葉に彼は深く頷いて言う。


「そうなんですよ……やはりそんな簡単に心霊写真が撮れたら苦労はしないんだなって思いますよ。暗い中チェックするといかにもって感じがしたんですけど、カメラのデータをPCに読ませてはっきりした大きな画面で見ると失望していました」


 どうやらこれが本物の心霊写真でないことは彼も承知のようだ。


「でも……意外なところで本物が撮れたんですよ」


 そう言って彼はしっかりとした厚手の封筒に入った写真を取りだして私に差し出した。


「まさか自撮りが心霊写真になるなんて思いませんでした。真っ暗なのに光る生首が浮かぶなんて不気味すぎるんですよ。明かりなんて無いのに人魂のようなものも見えますし、絶対に映っちゃいけないものが映っているんですよ。それ、どこで撮ったと思います? 明かりが無いから分からないかも知れませんが自分の部屋なんですよ。灯台下暗しというか、まさかそんな身近に心霊スポットがあるかなんて思いもしませんでしたよ」


 一息にまくしたてる丸井さんに『貴重なものをお見せいただきありがとうございます。ですがこれはしかるべき場所に処分をお願いした方が良いかもしれませんね』と言い写真を返した。


 そうすると彼は激高して『こんなに貴重な写真を処分しろって言うんですか! 失望しました! あなたが怪談を集めていると言うから見せたのに!』と言って謝礼を出す暇もなく席を立って話を聞いていたファミレスを出て行ってしまった。私はガラス越しに彼を見送りながら思う。


 あんな『ただの自撮り』に一体彼が何を見たのかは分からない。ただ、あの写真と言うよりも彼自身に何かの問題があるのは明白だ。彼と連絡は取れないが、出来ることなら悪癖を直し、きちんとした場所でお祓いでも受けていることを祈るばかりである。

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