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怪奇箱  作者: にとろ


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ユーザ名が変えられない

 亜川さんはレトロゲームを集めるのを趣味にしている。ROMカセット時代のものが好きだそうだ。そんな彼女が古い思い出に脅かされたという。


「とあるゲームの話なんですけど、アレが偶然だったのかどうかは自信が無いんです」


 その日は休日ということで朝食にトーストを食べていた。パンをトースターにガチャッとセットするのがゲームのカセットを挿すのに似ていて気に入っている。現在の薄くて小さいカートリッジでは味わえない体験だと思う。それからコーヒーを淹れて朝食を済ませた。


 窓の外は晴れており、外出するには良い天気だと思う。そこで多少小さめの鞄を一つ持ってレトロゲームショップに向かった。行きつけの店なのだが、大きな鞄を持っていくと買いすぎてしまうので、小さな鞄に入る範囲で買い物をすることに決めていた。


 気持ちよく外出すると花粉症のせいか、くしゃみが三回出た。そう言えばくしゃみの回数でなんとかという迷信があったような気がしたけれど、そんなことを気にしても思い出せる気がしないので気にせず出かけた。


 そのショップでは古くはブラウン管でないと使えないようなゲーム機や、乾電池を使っているのにすぐに電池が切れるゲーム機も置いてある。ちなみに後者はACアダプタをしっかり持っているので実質据え置きゲーム機のように使っている。


 今日は携帯ゲームを買おうと思っていたので、灰色のカセットがずらりと並ぶ場所に向かった。箱つきなのは珍しいがそれなりに値が張る物も多い、いつものワゴンに向かって一山いくらの投げ売り品から面白そうなものを探す。その中に、ふと某ゲームを見つけた。そのゲームは中古販売でゲーム業界が揉めていた頃、中古で売れないようにセーブデータが消せないようになっていた。こうしてショップに売られている時点で無駄な努力になってしまったわけだが、当該のゲーム機がとっくに売られているのをあまり見なくなったので、ゲームの寿命までは売られないという判定勝ちのような事だといっていいのかと思う。


 早速そのゲームと他数本をカゴに入れてレジで会計を済ませた。それから足早に帰宅して、ゲーム機を引っ張り出す。ACアダプタを挿して、さあどんなものが出てくるかと期待しながらそのゲームを起動した。起動するなりプレイヤー名が表示され、『ほうほう、データを消さないなんて不用心だなあ』などと思いながら起動した。


 一応そのゲームもデータを消す方法が無いわけでもない。消したいなら電源のオンオフを高速で繰り返すと確率でセーブデータを保持しているメモリへの電源供給が切れてデータが揮発するので、こういうソフトを売る時は結構みんなしていることだった。


 そしてゲームを進めたのだが、単調なゲームで、実質人間相手でないと面白くないのですぐに飽きてセーブデータを漁ることにした。せっかく残っているのだから何か面白いデータが入っているかもしれない。


 そうしていろいろなデータを探したのだが、思わずゲーム機を放り出しそうになった。『アガワ』という名前がそこかしこに出てきた。対戦相手の名前だったり、手持ちのモンスターの名前だったりといろいろなところにその名前が出てきた。


 そこでふと思いだしたののは、主人公名は名字なのだが、その名字をした同級生がかつて小学生の頃に居たのを思いだした。もちろん地元からは出てきているし、彼の消息など知らないのだが、何の偶然かそのゲームがめぐりめぐって自分の元に来たのかと思うと少し怖くなった。


 そして電源を切ってそっとカセットを詰め込んでいる箱に入れて押し入れの奥にしまい込んだ。偶然だとは分かっていてもどうしても不気味さが消えない。そんなわけで彼女の買ったカセットはほぼプレイしないゲームの入った箱に入って未だに封印してあるそうだ。


『捨てないんですか?』と聞いたのだが、彼女は『こういう不思議な事もレトロゲームの醍醐味ですから』と言って笑った。心霊も何も出てこないが、彼女の胆力だけはすごいなと感心した。

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