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怪奇箱  作者: にとろ


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現金な人

 神谷さんは最近になって毎日墓参りを欠かさずしている。その理由は実際にご先祖様に助けられたからだそうだ。


「いやぁ、神様仏様って言いますけど、本当に頼んでみるものですねえ!」


 そういって笑う彼を見て、彼が相場に色を付けてくれという人物であることに納得がいった。時折こういうお金目当てに怪談話を聞かせてくれる人もいるが、彼はなかなかしつこかったからな。こちらが結構ですと言っても『怪談を集めてるんでしょう?』と言って譲らなかった。少し色をつけて渡すということで話はついていた。


 そうして彼の話を聞いた。


 実は、恥ずかしながらクレジットカードの使い過ぎで請求日に現金が足りなくなったんですよね……いやあ、アレには参りましたよ。リボ払いに切り替えられる日を過ぎててどうにか金策をしようと必死でしたね。


 しかし昔、親の財布から金を抜いたことがあったのでガードが堅かったんですよ。これでカードを使いすぎたなんてことを言えば間違いなくカードは解約するのが条件にされますからね、今時クレジットカードも持てないなんて死活問題ですよ。


 私は使い過ぎたんだからご両親のやろうとしていることはもっともだとしか思わなかったが、彼が謝礼を目的にするような人であることがよく分かった。


 請求日前日なんですが、夢を見たんですよ。その夢の中には昔、俺をかわいがってくれた爺さんが立っていたんです。自分のいる場所を見ると家の倉庫の中でした。なんでこんなところに? とは思いましたが、いろいろと混乱していて考えが回らなかったんですよ。


 爺さんなんですが、なんだか分からないけど俺に不機嫌そうな顔を向けているんですよ。それでつかつかと歩み寄ってきたかと思うと、困惑して動けない俺にゲンコツを落としたんですよ。いや、夢の中なんですけど、何故か痛みははっきりしたんですよ。夢だと思うんですけどね。それから厳めしい顔をして箪笥の方を指さしたんです。それからふっと消えて俺も目が覚めたんです。


 目が覚めるなり、爺さんがなにを言わんとしていたのか知りたくて倉庫に向かったんです。そこにある古い箪笥を開けていったんです。そうしたら二段目に酷く古くなった茶封筒が入っていました。そこそこの厚みがあったので開けてみると福沢諭吉の紙幣がそれなりの枚数はいっていたんです。それで……よくはないんでしょうが、そのお金を銀行に持っていって全額口座に入金しましたよ。おかげでクレジットカードの請求は無事引き落とされたんです。


 それから毎日墓参りをしているんですよ。ほら、ご先祖様がまた隠し財産の場所を教えてくれるかもしれないじゃないですか、だからこうして毎日ご先祖様に奉仕しているんですよ。


 そう言って愉快そうに笑う彼は、今、仕事終わりのパチンコが習慣になっているらしい。本人の前なので言わなかったが、彼のおじいさまがゲンコツをした意味をまるで理解していないなと思った。そして彼に謝礼を渡すと『じゃ、今日は馬が熱い日なんでね』と言って去って行った。その日は競馬で有名なレースのある日だった。私はどうにも彼が今度はゲンコツで済むのかは怪しいものだと思っている。

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