表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

桜、舞い落ちる頃

第4話

桜が、まさに見ごろを迎えていた。

風が吹くたびに、花びらが舞い、まるで世界が淡い夢に包まれているようだった。


ようは、あの夜に約束した場所へと向かっていた。

そう──夜桜の並木道。


彼が最後に言った。「桜が散る前に、もう一度だけ会おう」と。


足元を包む花びらを踏みしめるたび、胸の鼓動が早くなる。

まだ来ていないのか、それとも、もう来ているのか。


──そして、桜の下。

彼は、いた。


浅葱色の羽織を着て、背中を木にもたせかけ、空を見上げていた。


「……来たか」


総司は、ゆっくりとようの方へ目を向ける。

その顔はやつれていたが、笑みは変わらず、ただひとつ、彼だけの優しさを浮かべていた。


「話すって言ったよね。わたしへの気持ちを、って」


「ああ……」


風が、ふたりの間をすり抜ける。


「よう、おれは──」


言葉が途切れた。

総司は咳を噛み殺すように口元を押さえる。指の隙間から、桜の色と同じ、淡い紅が覗いた。


「……っ、そうちゃん……!」


駆け寄ろうとしたようの手を、彼はやんわりと制した。


「よう、聞いてくれ。……おれは、おまえのことを、ずっと前から大事に思ってた。いや……」


言葉を選ぶように、ふと目を伏せる。


「好きだ。初めて会ったときから、ずっと。けど、おれは……もう、先が長くねぇ」


それは、まるで静かな告白。

そして、永遠の別れを告げるような声だった。


「おれは……ようの未来にいちゃいけねぇ。けど、最後に、どうしても言いたかったんだ」


ようは、震える手で彼の手を握った。

その手は驚くほど冷たくて、だけど確かに、生きていた。


「バカ……。ずるいよ、そんなの……。でも、わたしも……あなたが、好き。誰よりも、どんな未来よりも……今、あなたがいい」


その夜、ふたりはもう何も言わず、ただ肩を寄せ合って、散る桜を見上げた。


まるで、すべての花が彼らのために咲いていたかのように──


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ