兆し
第3話
それから数日。
ようのもとに、総司からの文はなかった。
寺子屋の帰り道。
陽は少しずつ長くなり、春の訪れを確かに感じさせていたが──心だけは寒かった。
「そうちゃん……元気でいて」
祈るように空を見上げたとき、背後から声がした。
「おいおい、人に聞こえるように名前呼ぶなんざ、恥ずかしいにもほどがあるぜ」
「! ……そうちゃん!」
振り返れば、確かにそこに彼がいた。
でも──息が少し荒く、顔色もよくない。
「顔、見に来ただけだ。用がないならもう行く」
「待って……!」
ようは一歩近づいた。
そして、迷った末に──彼の手をそっと握った。
「……何か隠してるでしょ。病のこと、上の人には?」
総司は少し間を置いて、いつものようににやりと笑った。
「おれが倒れたら、一番隊が困るだろ。……だから、ようには笑っててほしいんだ」
「そんなの……あなたがいなきゃ、何も意味ないよ」
声が震えた。
目の奥が熱くなった。
「泣くな、よう」
そう囁いて、彼はようの頭に手を置いた。
「……桜が散る前に、もう一度だけ会おう。その時は、話すよ」
「何を?」
「おれの……おまえへの気持ちを」
そう言い残して、彼は振り返り、夕暮れの道をゆっくりと去っていった。
その背中が、なぜだかとても遠く感じた。