夜桜の約束
第2話
日が落ちた京の町。
三条の橋を渡った先にある、小さな桜並木。そこは人通りも少なく、ふたりだけの秘密の場所だった。
夜風がほんのりと花の香りを運ぶ。
満開の桜が、まるで雪のように夜空に舞っていた。
ようは、少し早く着いて待っていた。
寒さに指をすり合わせていると、足音もなく背後から羽織がかけられる。
「風邪、ひくぞ」
「そうちゃん……」
振り向いた先にいたのは、浅葱色の羽織に身を包んだ総司。
いつものように笑っていたが、その頬は少しやつれ、咳を堪えている様子がわかった。
「本当は、無理して来たんじゃないの?」
「約束だろ、よう。……おれは、嘘はつかねぇ」
そう言って、桜の花びらを一枚、ようの髪からそっと取った。
ふたりは並んで歩いた。
言葉は少なくても、空気がすべてを伝えてくれるようだった。
「よう、もしも――おれが、いなくなっても」
「やだ」
「……話を最後まで聞けよ」
「だって、嫌なの。そんなの聞きたくない」
ようは思わず、彼の袖を握っていた。
総司は一瞬驚いたような顔をしたあと、静かに目を伏せた。
「なら、言わねぇでおくよ。……でも、今日のことは、忘れるな」
「忘れるわけないでしょ。ずっと、ずっと覚えてる。何度でも思い出すよ。桜の香りも、あなたの声も……」
その夜、桜の下でふたりは口づけを交わした。
それが、始まりであり、終わりのような予感を残した──