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そうちゃん
第1話
春、京の町。
白く霞むような朝の光の中、町医者の娘・ようは、今日も寺子屋で医学を学んでいた。
「おまえ、また本を持って歩いてるのか」
肩の上から聞こえた低い声に、ようは振り返る。
そこに立っていたのは、新選組一番隊隊長・沖田総司。風のように軽やかな身のこなしで、いつの間にか傍に来ていた。
「そうちゃん、また来てくれたの?」
「来てやったんだろ。…嬉しくねぇのか?」
にやりと笑う彼の目は、どこか寂しげだった。
ようは、その瞳の奥に言葉にならない憂いを見てしまい、胸がちくりと痛む。
「嬉しいに決まってる。だけど…無理しないで。最近、咳がひどくなってるって」
「よう、また誰かに聞いたな。心配性もここまでくりゃ病気だな」
そう言いながらも、彼はようの髪にそっと触れる。
「春は嫌いじゃねぇ。…けど、終わりを告げに来るようでな」
「それでも、桜は咲くよ。ねえ、今度、一緒に見に行こう。満開の夜桜を」
「……いいだろう。約束だ」
その言葉は、風に紛れるほど小さかった。
──それが、ふたりが最後に交わした“未来”の約束だった。