14.格好いいと思わせたい
由美に少しでも良い所を見せておきたいと思い立った宙也は、マクロ経済学の授業中にもかかわらずスマートフォンを取り出し、机の下でこそこそとメッセージを送った。
――由美さん、今度の月曜日は祝日だけど休みって言ってたよね。デートとかじゃないんだけど、僕の試合見に来ない? 新宿。
いつもの流れを想像するなら、すぐに既読が付くことなんてほとんど無い。宙也はすぐに画面の電源を切ってポケットへ放り込み、そのまま授業を受けた。
思い付きでパッと送ってしまったため、返事を待っている間中、唐突すぎて断られるんじゃないかと不安になった。
ついついボールペンをくるくると回しては、スクリーンの文字をノートへ書き写す。けれど教授の言葉は右耳から入って左耳へさらさらと流れ出て行き、頭には一言も残らなかった。隣に座っていた佐久は、宙也の見たことない動揺っぷりが堪らず、始終ニヤケながら宙也の横顔とスクリーンを交互に眺めていた。
宙也のスマートフォンが短く二回振動したのは、授業終了のベルが鳴ったのとほぼ同時。
――何の試合?特に予定はないけど、それって部外者が行っていいもの?
由美からのメッセージの後には、目をキラキラと輝かせている猫のスタンプが一緒についている。
「絵文字を使うセンスがないから使っていない」と主張する由美に、宙也が贈った「強気な猫」のスタンプだ。おそらく種類はソマリのような……その名の通り気の強そうな顔をした短毛種の猫が、送信者のアバターになって喜怒哀楽を表現してくれている。
由美はこれを案外気に入ったらしく、少し前からこのスタンプを多用するようになっていた。
――大丈夫だよ。スタンド席もあるし、由美さんがもし嫌じゃなかったら。
タイミングが良かったのか、今回はメッセージを送るとすぐに既読が付いた。急いで返そうと必死にスマートフォンに向かって文字を打っている由美を想像して、宙也は無意識で口角をひき上げていた。
「おいおい~。イケメンが台無しになってんぞ、むっつり宙也クン」
「うっせ」
恥ずかしくて口元を手で覆い隠すと、スマートフォンの画面にはメッセージ通知が光った。
――行ってみたいかも。場所と時間教えて!
今度は両手を空へ挙げて、万歳するようなポーズの猫のスタンプが届く。彼女は嫌じゃないのだとわかると、宙也の顔は花が咲いたようにぱっと輝いた。
「……よっしゃ」
宙也は小さな声で呟いたつもりだったけれど、周りにはばっちり聞こえていた様で、佐久は後ろから肩を組むように飛びつき、宙也の顔を覗き込んだ。
「え、なになに。さっきからニヤニヤしてたのはまさか、噂のお姉さまとデートの約束ですか~?」
「まーな。ってか佐久には関係ないだろ……それに、肩。重い」
「っはは、ごめんごめん。上手くいったら俺にも会わせろよ~!」
佐久は、「そしてあわよくばその同僚さんを俺にも紹介してください!」と、拝むように手を合わせて宙也の方へとすり寄っていったが、「気が向いたら言っとく」と答えた宙也の顔にその気は一切ないようだった。




