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13.言葉はすれ違わない為にある

Side 宙也


 由美から届く絵文字のないシンプルなメッセージは、宙也がいままでの女の子からもらったものとは、全く違っていた。

 特に宙也の場合は、年下が多かったこともあるけれど、由美のメッセージはとにかく飾り気がなかった。


 誰だって使うと思っていたハートマークやお花の絵文字なんて、一度も届いたことが無い。


 宙也は「いくらなんでも素っ気なさすぎる」と、一度は自分が本命でないことを疑った。

 けれど仕事終わりにほぼ毎日電話をかけるようになり、毎晩他愛もない話をしながら寝るまでの時間を共有していると、それは彼女がただ単にスマートフォンに慣れていないのだけなのと理解した。


 5通に1度、もしくは8通に1度くらいの割合で「や」「ゆ」「よ」を小さくし忘れたり、変換をミスしたままのメッセージが届くことも、可愛くてくすりと笑ってしまう。それが彼女がいつまで経っても入力慣れしていないからだと気付くと、愛しさが溢れる。


 由美に持ち帰られた日から、気付けば1か月。今まで何人もの女子たちに言い寄られたことのある宙也にとって、追いかける恋は初めてだった。


 自分を好きだという女の子は大抵、「駅で見かけたから」とか、「カフェでお茶してる姿がかっこよくて」とか、理由なんてどうでもよく「ただ見た目の整った男を自分のものにしたい」という言葉を見え隠れさせている。


 なんとなく気が向いた人とは、何度か遊んだこともあったけれど、結局自分自身を見てもらえていないような虚無感と不安に駆られてしまい、長くは続かなかった。


 「初めまして」を何度も繰り返すと、初対面の女性と出会うことすら面倒になる。ありきたりな質問にはどう答えても「いいですね」と同意されることまでが想像するに容易く、適当に答えて適当に遊ぶくらいがちょうどいいという思考回路になっていた。


 そんな恋ばかりしていたからだろうか。宙也は由美に出会うまで、女性なんて放っておいても自分を好きになるんだと思っていた。いつものように生活し、時々自分の事を思い出してもらえるように電話をしたり愛のメッセージを贈ったりする程度でいいのだと。


 ところが、由美はそうもいかない。


 宙也が放っておけばメッセージなんて平気で3日と放置されるし、すぐに仕事に没頭し、宙也の存在なんてなかったかのように振舞い、夜遅くまで必死で働く。


 自分の生活がおろそかになろうとも人のために動き、提案し、叱咤激励し、人目を憚って泣き。何事もなかった様に振る舞って、また翌日から動き出す。それが楽しいのだという由美の話を、宙也自身はあまり理解できないなと思いながら、話半分に聞いていた。



「で、バーテン宙也クンは彼女でもできたわけ?最近、剣士会くらいしか顔出さないし、付き合い悪いじゃん」

「バーテンっていうのやめろよ。てか佐久が遊びすぎなんだって。俺は……好きな人いるし」

「え!初耳なんだけど!誰誰?うわ、待って、この学科?剣士会のほうは新しい人いないし……バイト先?まさかオーナー?」

「佐久の知ってる人じゃないよ、年上」

「うっわ~~!だからお前パーマかけてそんな可愛い感じにしたんだ?なんだよ〜。太刀筋と一緒で卑怯なやつ~」

「煩いなぁ。俺はあの人の弱みを握ろうと必死なんだよ。剣道は……確かに細かい隙を狙うのは好きだけど」


 二限が休講だった宙也と、同じくらいの背格好でさっぱりと短い黒髪の男は、広いキャンパスの中にある第一学生食堂で向かい合いながら、早めのランチを食べていた。


 黒髪の男:佐久 隆介は、宙也と同じ剣士会に所属していた剣道仲間だ。ふたりは中学性の頃に知り合ってからずっと同じ剣士会で学んでいる。宙也がスポーツ推薦のあるこの私立大学への進学を決めたと相談すると、彼は宙也への相談なしに同じ学科へのスポーツ推薦を決め、入学式でびっくりさせる……というサプライズを成功させた男でもある。


「よく、先生も『気・剣・体、一致』っていうだろ? お前の行動と考えは一致してんだよ!な!」

「一致するのは、気合と正しい太刀筋な」

「『心と体は少なからずリンクしているのです!』って心理学の野田ちゃんもいってたじゃんか~」

「それはそれ、剣道は剣道」

「ひー、つめてえ。ところでその、好きな人の写真とかねーの?付き合わねーの?」

「なんだろ、付き合うとかそういうとこじゃないんだよなぁ……」

「えっ、なに、女の子に対して適当だった宙也クンが、まさかの片思い?」

「んーまぁ、そんなとこかも。手出しちゃったのに、守ってあげたい感じというか」

「うっわぁ~! なんだよ~! お姉様相手に逆にピュアかよ~! 早く付き合えよ~!」


 佐久から、いかにも茶化しています!というようなヒューヒューという声を散々浴びせられた宙也は、耳を赤くしながら「ほっとけ」と小さく呟いて、食器を片付けるために席を立った。

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